ヒーローの瞬間移動
12R優勝戦
①瓜生正義(福岡)14
②山口 剛(広島)12
③茅原悠紀(岡山)06
④峰 竜太(佐賀)08
⑤枝尾 賢(福岡)11
⑥高野哲史(兵庫)12
オーシャンカップ連覇、デビュー通算2000勝、『艇王』植木通彦さん超えのSG11V。この一戦にそんな3つの偉業が懸かった正義のヒーローを、空気を読まないガバイ怪獣ミネラがむんずと踏み潰してしまった(笑)。
だが、今日のレースを作ったのは峰ではない。圧倒的にカッチョ良かったのは茅原だった。チルトをゼロに跳ねて直線足を強化して、3カドに引いて、コンマゼロ台の半ばまで突っ込んで、スリットから問答無用の絞めまくり!!!
私は戦前の予想で「茅原が伸びる峰を受け止めるには【A・スタートを峰より張り込む、B・直線足を峰に対抗できるほど強化する、C・3カドに引いて峰の脅威を弱める】の3つの勝負手のどれかが必要」みたいなことを書いたのだが、今日の茅原はその全部の勝負手をいっぺんにやらかした。素晴らしすぎる。
1マークまでは、茅原を中心に書こう。まずは3カド。もしも鳴門スタンドに大観衆がいたら、茅原が艇を引いた瞬間に異様な歓声とどよめきが轟いたことだろう。それを聞きたかったが、しんと静まり返った来賓席で見る奇襲はそれはそれで不気味な迫力に満ちていた。
3カドには「攻めの3カド」と「守りの3カド」がある。今日の茅原が3カドに引くなら、峰の猛攻を防ぐための「守りの3カド」か、と私は予想していたのだが、そうではなかった。チルトを0度に跳ねて、さらにストレート足を強化しての「攻めの3カド」。黒須田の前半ピットレポートにある通り、午前中の茅原は同期の「チルトの魔術師」下出卓矢と熱心に何事かを話し込んでいたらしい。チルト0度で伸び足を強化するには、どんな心得が必要か。そんな会話だったはずだ。そして、おそらく茅原は「出足よりストレート重視」と方針を決めたのだろう。
3カドから発進した茅原は、スリット付近でしっかりと伸びて行った。その直線足は、昨日までの迷子のように頼りないそれとは別物だった。しかも、6人の中で唯一のF持ちでありながら、ほとんどフルッ被りのコンマ06、トップスタート。
舳先を出し抜かれた山口が身体を張って受け止めたが、茅原はダッシュの勢いでグイグイ締め付ける。身体半分で抵抗する山口も内へ内へと追いやられ、さらにスタートが凹んでいたイン瓜生に接触するほど圧迫された。
この時点で、もはや2コースの山口に差しの選択はありえない。3艇の玉突き状態の真ん中から、苦し紛れのジカまくりを打つしかなかった。対する瓜生もまったくマイシロのない態勢で苦し紛れのブロックを放ったが、この内2艇にはもはや勝ちきるだけのスピードはなかった。茅原の3つの勝負手が三位一体となって、人気のふたりの勝機を消し去った、と言っていいだろう。
ここまで攻めたててから、茅原はスッと開いて差しに構えた。そこで突き抜ければ、今日のファイナルは「茅原の茅原による茅原のためのレース」だったはずだ。だがしかし、最終的なヒーローは茅原ではなかった。最内から青いカポックを被った怪獣が、例によって凄まじいスピードで突き抜けていた。内の大競りを横目で見ながらの2番差し、一閃。
この1マークの出口で、今年のオーシャンカップの覇者が決まった。出足をそれなりに殺して伸びを強化した茅原に、この怪獣をさらに迎撃するだけの力はなかった。嗚呼、今日の優勝戦は「茅原の茅原による峰のためのレース」と言わざるを得ない。そして、こうした残酷なヒーローの入れ替わりも、ボートレースの醍醐味のひとつなのだ。
瞬く間に独走態勢を築いた峰は、雨がそぼ降る上空に拳を突きあげながらゴールを通過した。一昨年のGP以来3度目のSGタイトル。客のいないスタンド4Fの来賓席でド派手なガッツポーズを見ながら、私はこんなことを思う。
このアロハなお祭り男は、これからどんだけSGタイトルを増やすんだろ。
つい先日、ボートレース甲子園の当欄でも書いたが、今日も改めて峰の今年の戦績を記しておく。
21節に参戦して17優出11V。獲得賞金1億803万円。
レース後のインタビューで、1億突破したと聞いて「じゃあ、今年は5億円くらい稼ぎます!」
言わせておこう。
何日目だったか、黒須田が「峰竜太がSGを10個勝つまでボートレースを続ける」と言ったら「え、じゃあ来年までじゃないっすか!」
言わせておこう。
こんなアロハな大法螺を、この男ならうっかり実現させてしまうんじゃないか。そう思わせるだけの怪獣がいるだけで、ボートレース界は面白い。そして、今日の茅原のように、さまざまなレーサーがあの手この手の勝負手でこの怪獣を打ち負かしに行くことだろう。うん、ボートレース、やめられないっ!!(photos/チャーリー池上、text/畠山)