BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

W優勝戦 私的回顧

元女王、仁王立ち!

11Rシリーズ優勝戦
①海野ゆかり(広島)10
②山川美由紀(香川)13
③竹井奈美(福岡) 14
④長嶋万記(静岡) 14
⑤渡邉優美(福岡) 14
⑥塩崎桐加(三重) 18

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 これぞまさに一騎打ち! 大本命のイン海野に襲い掛かったのは、2コースの山川19号機ではなく3コースの竹井だった。昨日の準優の2コースジカまくりも凄まじかったが、今日のアタックも半端ない。昨日よりさらに早い初動から、山川が差しに構える間も与えずに握りっぱなしで引き波にハメ、勢いまんまの強ツケマイで海野に襲い掛かる。

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 また今日も決まった!!
 誰もがそう思っただろう。実際にそのツケマイは海野を捕え、ほぼ1艇身近く突き抜けて見えた。もうひと押しの出足があれば、海野は引き波にズルリとハマったことだろう。

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 だがしかし、ここからの押し足、つまり選手間で「レース足」と呼ばれる部分は海野に分があった。ズンズン内から伸び返し、スリット裏では舳先が揃うほどの巻き返し。ここをシノギ切った時点で、ポジション的にもパワー的にも海野の優勝がほぼ決まったと言っていいだろう。

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 さて、2度の女子王座に輝いている強い大ベテランがこの大会を制すると、なかなかに贈るべき祝辞が難しい。もちろん、おめでとうは必須だが、GⅢでの頂点を絶賛しすぎてもよいものか、とか(それは山川が優勝しても同様だ)。実に月並みなセリフになってしまうが、海野や山川には「来年の今日の違うステージで戦っている姿を見たい」という言葉がもっとも相応しいだろう。

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 そうそう、今シリーズは海野、山川、谷川里江の歴代女王トリオが若手レーサーを粉砕する光景が相次いだ。一方、無気力とは言わないが、スタートにしろ道中にしろ半端な攻めをする選手が目立ったりもした(グランプリの直後による錯覚もあるが)。つまり、毎年感じることだが、このシリーズ戦はそれぞれの選手のモチベーションの塩梅が実に難しく、かつ複雑なのだな。やや気持ちの持ちようが曖昧な大会だからこそ、元女王のプライドと枯渇しないボートレースへの熱い思いが他を凌駕したのだろう。本当に、あなたたちは強かった!

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 ちなみに、今日の売上は51億円!!!!で施行者の目標である約38億円をありえないほど上回った。これはこれで素晴らしい事象だが、そこでどうしても思い至るのがGⅢシリーズ戦の立ち位置なのだな。毎年書いてる気もするけど、バカ売れした今年だからこそしつこくまた書こう。格付けはGⅢのまま良しとして、シリーズ戦の賞金(現状200万円)は年末の特別ボーナスという感じで400万円くらいにするべきだと思う。そうすれば、家事都合などで辞退する選手も、モチベーションの個人格差=レース予想の難解さもかなり解消されると思うのだが、どうだろうか。

33歳の超新星

12Rクライマックス優勝戦
①平高奈菜(香川)01
②守屋美穂(岡山)03
③平山智加(香川)04
⑥遠藤エミ(滋賀)01
④小野生奈(福岡)06
⑤大山千広(福岡)10

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 11レースの後、はらはら降りはじめた細雪はもう止んでいた。
「問題は進入だな、遠藤がどこまでやるか」
 ファンファーレ直前にスタンドに赴くと、中年のパパが小学校高学年くらいの息子に“宿題”を投げかけている。息子の答えは、あまり興味のなさそうな「ふぅん」。なかなかに素敵な野外教育で思わず微笑んでしまったが、女子のレースでこんな宿題が生まれること自体が珍しい。

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「エンドーーー、行かね~と許さねえぞーー!!」
「ブロックしろーー!!」
 ファンファーレの後は若者たちの叫び声。1年最後の大舞台で、ボートレースならではの醍醐味である進入争いに一喜一憂できるのは嬉しい限り。若者の叫びに呼応するように、遠藤は動いた。ブンブン噴かして2マークを旋回すると、小野・大山の福岡コンビは潔く身を引いた。1236/45の変則隊形。

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「よしっ、それでいい、それでいいっ!」
 誰かが叫んだが、誰の応援なのかはわからない。その間にも内4艇はじりじりと前に流れ、ほぼ横一線の100mちょい起こし。すでに発進している福岡勢がその4艇にズンズン近づいてゆく。人数制限があって大歓声とは言えないが、このスリリングな展開にスタンドがワッと盛り上がる。
 遠藤に1年最後の有り金を突っ込んでいる私は、もちろんカド受けの4コースだけを凝視した。レース後のスリット写真で分かったことだが、コンマ01のタッチスタート。とりあえず、怖い怖い福岡コンビをガッチリ受け止め、遠藤はセオリー通りの二番差しで勝負。

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 この差しが、どこまで届くか!?
 ここでやっと目を内へと向けたらば、もはやインの平高はいなかった。いや、守屋や平山のはるか5艇身ほど先を疾駆していた。なんたる圧勝劇。ビッグタイトルこそ無冠だが、ツボにハマったときの平高の強さは半端ない。去年は男女混合戦を2節連続で優勝(女子選手では極めてレアだ)、今年の前半も丸亀レディースvsルーキーズをインから圧勝など早々に3Vを飾り、「円熟期に突入したなぁ」と感じていた。

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 好事魔多し。絶好調モードの平高が災難に襲われたのは6月26日。レース中の事故で腕を骨折し、レースを休んでの治療とリハビリに追われた。10月末の大村ダービーで前乗りした平高とたまたま遭遇した際、「完治した?」と尋ねた私に「はい……でも、まだちょっと腱のあたりがもやもやしてて……」とちょっぴり顔を曇らせていた。そんな平高はダービー直後の若松・男女混合戦を122121①という凄まじい成績でまたまた優勝。底知れぬ潜在能力を感じさせる復活Vに、私はまた舌を巻くしかなかった。
 そして今節だ。トライアルは1号艇がないままコンマ14→09→01のスタート攻勢でトップ通過。最後にポールポジションを得た今日も、遠藤と同じコンマ01でスリットを突き抜けていた。そしてそして、くるり回って5艇身差の圧逃V。ここ数年の女子レース界は平山~遠藤、小野、松本、守屋~大山と新興勢力がどんどん出現してはビッグをかっさらってきたが、遅ればせながら33歳の平高もその仲間入りを果たしたわけだ。男女混合戦のハードルを軽々と蹴散らす美女レーサーが、来年のクラシックはじめSG戦線でどこまで互角以上に戦い抜けるか。実に楽しみな存在であり、その意味でも今日の優勝は大きな意味があるだろう。おめでとう、奈菜ちゃん!

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 さてさて、ここからは下世話な私的回顧。2着争いは5カドからぶん回した生奈と我が◎遠藤の一騎打ち。いや、一騎打ちと呼ぶには3艇身ほど生奈が先行していたのだが、遠藤が追うわ追うわ追うわ! 自慢の回り足でくるくる旋回しながらじわり差を詰め、ついに3周1マークの小回りターンで“一騎打ち”と呼ぶべき僅差に持ち込んだ。

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「エミッッッ!!」
 思わず叫んだかどうか。予想欄で記したとおり、今年の私は「年間回収率100%」を最大目標に、収支計算が明確なネット投票だけで勝負してきた。で、このレース直前の年間収支はマイナス10万円ほど。私は予想目【6=124-124】がほぼすべて100%を超える配分にセットし、1-6-4の63倍には20枚を投下。一方、1-4-6は1枚たりとも買っていない。

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「エミ~~~ッッッ!!」
 最終ターンマーク、私は間違いなく叫んだと思う。そして、回った瞬間に今年の夢が散ったことを悟った。今節、遠藤の1・2着舟券を買い続けて3333着。最後の最後も首差ほどで3着に敗れ、私の長い長いネット投票の戦いも実りのないまま終わった。悔しい限りだが、すべて己の選手責任。さまざまなダメ舟券を反省しつつ、来年から、つまり明日からはできる限り本場で舟券を買うとしよう。うん、1年ぶりの紙の質感が楽しみでならない(笑)。(photos/チャーリー池上、text/畠山)