12Rでフライングが出てしまった。1号艇の山川美由紀。今節最年長にして、実績断然のパワークイーンが、まさかの勇み足である。戦線を離脱して真っ先にピットに戻ってきた山川。その姿は痛恨が垣間見えるものだった。
こうした場合、多くは黙々とエンジン吊りに勤しむもので、やはりその痛みを誰もが知っているだけに、声をかけにくいということがあるのだろう、と想像してきた。だが今日は、佐々木裕美や宇野弥生がやや痛々しさを浮かべながらも、にこやかに声をかけていた。女子戦でのフライングはこういうものだっただろうかと、記憶を辿るも浮かんでは来ず。ただ、それが大先輩にとっても癒しになっているのではないかと感じられるのだった。
競技本部に呼び出しを受け、戻ってきた山川ははるかに後輩の対戦相手たちに(女子も含めて5名すべてルーキー世代!)「すみませんでした」と敬語で頭を下げている。ちょっと驚かされもしたが、それはむしろ山川の強い芯のようなものを感じさせるのだった。
なお、このFがあった時点で、ポイントは白組に入る。1着・實森美祐、2着・出口舞有子と紅組が上位独占ではあるが、賞典除外の事例や不良航法等の違反があった場合は、着順がどうあれ、敵チームの得点となるルールだ(両チームにそれら事例があった場合はノーカウント)。出口は、コンマ00のタッチスタート。自分も早いという実感があったのか、2着でも表情はカタかった。
笑顔といえば、印象に残ったのは10Rの佐々木裕美。控室に戻る途上で宮之原輝紀ら対戦した後輩ルーキーズに背後から挨拶を受けると、柔らかにニッコリ笑って言葉を返していた。ところが、ルーキーズが追い抜いて行った瞬間、佐々木の顔色はさーっと変わった。一気に沈痛なものとなったのだ。1号艇6着という大敗、本音は間違いなく後者であろう。ピットでは柔らかな笑顔をよく見せてくれる佐々木の、勝負師らしい顔を見たと思った。
12Rに話を戻すと、ポイントを獲得したルーキーズの表情は一様に冴えなかった。1、2着を紅組に持っていかれ、つまりは下位着順を占めてしまったのだから、それも当然だろう。中村泰平は、ピットにあがってくるとすぐに、対岸のビジョンに流れるリプレイに見入った。自分の航跡をどうしても確認したかったのだろう。
4着の吉川貴仁は、エンジン吊りを終えて控室に戻ろうとするとき、露骨に落胆の表情を見せた。団体戦としてはポイント獲れてラッキー、という思いが沸いたとしても、それはやはり時間が経ってから。レース直後には、その発想には至らないものだろう。
それは逆のパターンも同じだろうか。10Rは浜田亜理沙が3コースから快勝。しかしながら、2着3着5着の白組が着順点合計は上回っている。浜田は自身は勝ったものの、ポイントを獲得することができなかったわけだ。それをやはりレース直後に把握するわけではないだろう、浜田は淡々とエンジン吊りを行ない、爽やかな表情で勝利者インタビューに向かっている。ポイント獲れなくて残念、というのは、控室で仲間と話しているなかで知ることのはずだ。団体戦うんぬんと関係なく、勝利は心を軽くするものだろう。
ただ、11Rの井上忠政は、自身はイン逃げを決めながら、4着の石田貴洋、6着の小林孝彰らと、レース直後にやや険しい表情で話し込んでいる。先頭ゴールを決めたあとに、チームメイトが後方で入線したことを確認したのだろうか。スリット時点では2コースの石田がややヘコみで3コースの小林がのぞく格好。小林としては締める手もあるわけだが、そこが団体戦の妙というか何というかで、4コースの向井美鈴が先に握るかたちになって後方に置かれてしまった。キャリアの差が如実にあらわれたと言うべきだろうか。
悔しいのは、道中は石田と小林で4~5番手を走っていたのだ。これをキープできれば、ポイントは白組のものだった。しかし6番手の松尾夏海は、5番手に上がれば紅組がポイントゲットと理解していたか、諦めることなく前を追い、最後には小林を交わして石田をも追い詰めたのだ。これもまたキャリアの差を見せつけるものだったと言える。石田と小林はふたりで話し込む場面もあったが、それは“反省会”のようなものだったか。順位を下げればヘコむのは当然だが、この大会ではさらに団体戦の勝ち負けというかたちでもその重要さを思い知らされるのかも。それはまた、飛躍へのバネとして作用することもあるはずである。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)