規格外の時計
10R
①廣中智紗衣(東京)14
②松本晶恵(群馬) 13
③平高奈菜(香川) 09
④竹井奈美(福岡) 10
⑤宇野弥生(愛知) 07
⑥清水沙樹(東京) 14
竹井奈美が1マークの混戦から鋭い差しハンドルで突き抜けた。スリットから伸びなり仕掛けたのは3コースの平高。力強い行き足でじんわり2コース松本を絞めつけ、まくり差しに十分な態勢を整えたかに見えた。
が、絞められた松本の防御が素晴らしい。1マークの寸前、窮屈な差しを選択する前にキュッと握り返してイン廣中に寄り添い、平高が入るべき隙間を完璧に遮断した。松本自身も浅い傷を負う戦法ではあったが、これで「まくり差しを浴びて大敗」という致命傷を回避した。地味ながらもファインプレイだ。
逆に差し場を失った平高は、迷い箸のように揺れ動いて後手を踏んだ。そんなスロー勢のねじり合いを横目に、4カドから最内をスパッと差し抜けたのが竹井だった。竹井の4カドといえば一撃まくりが浮かぶが、今日は攻めっ気を抑えた冷静沈着な立ち回りが功を奏した。3日目あたりから機力の上積みに成功した自信と余裕が、1マークに反映されたのだろう。
それでも、今日のトップ足は平高だったか。1マークで置き去りにされた平高は、すぐに追撃態勢を築いて再始動。2マーク手前で外に持ち出し、松本vs廣中がやや握り合いになったところを鋭角の差しハンドルで大逆転の2番手をもぎ取った。1マークの竹井同様に展開の利はあったものの、多数の引き波を超えて出口から加速していく押し足は絶品。
その後は先頭の竹井とともにズンズン後続を引き離し、竹井の走破タイムはあっと驚く1分45秒5!! レース前の私は「上積みがあってやっと中堅上位か上位の下まで」と見ていたが、さらなるプラス査定が必要な驚愕タイムではある。
その竹井にしぶとくつきまとい「実戦足はコッチが上だろう」と思わせた平高も、私の想定よりワンランク上のパワーかも。明日は外枠での勝負となる平高61号機、V戦線でも舟券的にも面白い存在になりそうだ。
姐御は強かった
11R
①遠藤エミ(滋賀) 17
②山下友貴(静岡) 22
③守屋美穂(岡山) 17
④岩崎芳美(徳島) 16
⑤西村美智子(香川)15
⑥鎌倉 涼(大阪) 16
遠藤エミが1期先輩・山下&守屋コンビの攻撃を寄せつけずに逃げきった。3コース守屋の仕掛けはそれなりに早かったが、まくり差しの切れ味が鈍かったのは今日の調整がズレていたか。あるいは、昨日の無理な早仕掛け(不良航法)が脳裏をよぎったか。最大のライバルの攻撃が燻っている間に、遠藤がすたこら逃げて1着が決まった。
遠藤12号機は初日から「出足主体の中堅上位あたり」で一貫していて、不足分をスピードとテクでカバーしながらファイナルまで到達した、と思っている。そのあたりの鑑定は、昨日の生奈との一騎打ち(直線で競り負け)で証明された気がするのだが、もちろん「だから優勝は厳しい」と断定できないのがこの天才レーサー。明日はどんな作戦で大本命に襲い掛かるか……昨日のバトル(=全速ツケマイの真っ向勝負)を布石にしつつ、ライバルの裏をかく戦法を繰り出す可能性も想定しておきたい。
一方の2着争いは、手に汗握るデッドヒート。あ、私は鎌倉28号機を応援していたからびっしょり手汗をかいたのだが(笑)、その猛追をことごとく封じたのが48歳の岩崎芳美さまだ。本当に、鎌倉のボートチェイスは文句なしに速く激しく厳しく的確だったが、ボクシングで言うところのダッキングやスウェイバックやクリンチみたいな柔らかな交わし技ですべての攻撃を緩和し、2艇身ほどの差をキープして優勝戦へのゴールを駆け抜けた。
嗚呼、これぞ百戦錬磨の立ち回り。前年度覇者でありながら推薦枠での参戦となった芳美お姐さまは、今年もやっぱり強かった。そして……
「このハイレベルなお姐さま軍団をファン投票さながら無下に扱うファンは、必ずや舟券でしっぺ返しを喰らうことになるだろう」
3日目に私はこんな言葉を記したのだが、そのお間抜けなファンとは他ならぬ私自身だった。芳美さま、ごめんなさいっ!!
Wハイパワー
12R
①小野生奈(福岡) 17
②島田なぎさ(埼玉)13
③田口節子(岡山) 12
④山川美由紀(香川)08
⑤大瀧明日香(愛知)11
⑥津田裕絵(山口) 19
昨日の連勝で予選トップに返り咲いた小野生奈が、やや不利なスリット隊形から慌てず騒がず1マークを先取りして難なく逃げきった。
スリットからシュッと飛び出したのは、4カドの古豪・山川だ。その後はさほど伸びないと見るや、じんわりカド受けの田口に寄り添って攻めを催促。
「ほらほら、はよ攻めなさいよ~!」
そんな声が聞こえた気もするのだが(笑)、それに応えるように田口が握った瞬間、54歳の美由紀姐さまはマイシロたっぷりの差しハンドルを突き入れた。
おお、これって私の脳内レースとまったく一緒、さすが美由紀姐さま、4-1は贅沢でも1-4は間違いないな♪
私は温泉気分でほくそ笑んだものだが、実戦は甘くない。作戦成功に思えた山川の外から、5コースの大瀧がえぐり込むようなまくり差しで一気に追い抜いた。このレースの立役者は41歳のお姐さまだった。
もちろん、初代覇者の山川が黙って引き下がるわけもなく、2マークでは最内へと切り込んで先制パンチ。だがしかし、外に開いてからくるりと最内を差した大瀧の出足は恐ろしいほど仕上がっていた。2本の引き波を越えてギューンとターボが掛かって、山川を3艇身ほどブッチギリ!! その勢いは実に半端なく、もはや山川などの後続にやられる雰囲気は微塵もなかった。
今節、1・1・3着と好発進した大瀧だが、尻つぼみの成績で昨日は4・6着。ちょっと調整の迷路に入ったのではないか、と評価を下げていたのだが、さにあらず。戦前からダンディ三島が芦屋10傑に入れていた58号機は、おそらく今日が最高の仕上がりだったと思う。明日の大瀧は6号艇ではあるが、いや、6号艇だからこそ、無下に軽視することなく正味の足色をチェックしたい。
インから圧勝した小野生奈56号機に関しては、現時点であまり書くべきことがない。2日目から抜群の行き足を主体に「節二候補」と断じ、高田ひかる23号機が水面を去ったいまは節イチにランクアップ。今日の1マークまでの伸び返しも期待どおりで、ラストバトルも逃げきるに十分なパワーと断定していいだろう。そして、明日の課題も今日と同じくただひとつ。
選手代表の重責&ファイナル1号艇のプレッシャーを跳ねのけて、しっかりスタートを行ききれるか。
去年の鳴門大会は、やはり1号艇のインコースからしっかり踏み込んだが5着大敗。そんな苦渋の思いが、妙な形で地元水面のスリットに反映されなければいいのだが。(photos/チャーリー池上、text/畠山)