初日というのは、朝も慌ただしいが、午後もまた選手たちの動きは激しい。実際にレースを走って感触を得たことで、それをもとにしての調整がさらに熱を帯びるのだ。それは結果の良し悪しとはあまり関係ない。たとえば、8Rを逃げ切った原田幸哉は着替えを終えるとペラ室に直行。ハンマーを振るっている。それほど大きく叩いている様子には見えなかったが、しかし逃げ切ったレースであっても気になるところがあったということだろう。
7Rを逃げ切った吉村正明も同様。吉村は好機30号機を引き当て、初日は深い起こしながらもしっかりと逃げ切っているのだが、やはりまだまだ手を加えるところはあるということ。あるいは、さらなるパワーアップで、外枠も回ってくる明日以降を盤石に戦いたいという強い思いだ。
整備室には、西山貴浩の姿があった。2走して3着5着という初日。3着だった2Rにしても、事故をすり抜けての浮上であって、1マークでは後手を踏んでいる。手当てが必要ということで、後半のレースを終えたあとに本体をバラしたわけだ。当たり前のことなのだが、その表情は真剣そのもの。エンターテイナーの片鱗など、少しも見当たらない。カマギーこと鎌田義さんもそうだったが、仕事に向き合う姿勢はまさに勝負師のそれで、そんな姿を見るのは爽快でもある。西山の場合、グランプリファイナリストとなったことで、さらに責任感が増しているかも。
本体を割っていたもうひとりは丸野一樹。丸野は6着3着という初日で、やはりパワーアップの必要性を感じているようだ。丸野は、節の後半に差し掛かって調整の忙しさが軽減してくると、実に人懐こく声をかけてくる好青年の顔をもつ。しかしやはり今日は、そうはならない。近くを通りかかると微笑を浮かべつつ会釈はしてくるが、脳裏には調整の方向性などが渦巻いているのだろう、無言で整備室へと吸い込まれていったりする。峰竜太あたりも同様で、その様子がまた清々しく感じられる。
本体整備ではないが、白石健も整備用のスペースに姿があった。装着場からは死角もたくさんあるので断言はしづらいのだが、キャリアボデーを交換している様子であった。これで明日の朝にでも乗ってみて、また調整をどうするか(キャリボを元に戻す可能性も)考えるのだろう。作業を終えたあとは、岩瀬裕亮と長い立ち話。対戦があったわけではないだけに、なかなか新鮮な絡みと映った。
11R発売中、さすがにピットは静寂さが増していた。そんななか、猛烈な金属音が響き渡った。福岡ピットは装着場の隅のほうにもプロペラ調整所があって、ペラを叩く音がダイレクトに聞こえてくることになる。そこで、思い切りハンマーを打ち下ろしたのだろう。それも、ガンガンガンガンガンガンガンとかなり長く甲高い音がピットの空気を切り裂いた。その音の主は下條雄太郎。10Rは6着大敗、その仕上がりにかなりの不満があったか。あるいは、思い描いた足色とはまるで違うものになっていて、叩き変える必要性を感じたか。タイミング的に、今日はもう時間があまり残されていないだけに、短時間での調整を強いられる。それもあっての、激しい打擲となったのだろう。おそらく明日は朝にまず試運転に出て、さらに忙しい時間を送ることになるだろう。
整備室の手前のほうにあるテーブルでは、リードバルブ調整を行なっている選手も複数。その場に長くいたのは西村拓也で、ドライバーを手に黙々と調整を行なっていた。ほかには長田頼宗、あら、丸野一樹も加わった。おっと、原田幸哉もいるではないか。ひとつのポイントの調整が終わっても、さらに次のポイントに移行して、作業を止めなかったわけだ。リードバルブは明日でいいや、とはならないのである。
11Rの発走時刻が迫って、装着場では若手選手たちが明日の艇旗艇番の準備を始め出した。仲谷颯仁が福岡勢の分を一気にこなしている。今節は全体でも登番が最も若いので、いわゆる新兵仕事に駆け回りながら、自身の調整もしていくわけだ。おっ、丸野が調整の手を休めて、滋賀勢の準備を始めた。丸ちゃん、本当にご苦労さま! 大阪勢の分は、西村拓也と田中和也が協力して行なっている。98期と97期だから、同世代だ。佐賀勢の分は上野真之介が。と、それぞれの支部で登番が若いほうの選手が行なうのが基本である。
そのなかに、菊地孝平の姿が! 若手に交じってベテランの域に入ってきた42歳の姿があるのだから、やはり違和感がある(42歳にはまったく見えないけど!)。そう、静岡支部の最若手は深谷知博。ドリーム出走だ。ならば俺がやりましょう、と進んで準備を始めたという次第だ。この忙しい初日に、そうした気配りができるキクちゃん、最高です!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)