BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――無事を祈る!

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 今日も帰郷者が2人出てしまって、これで都合4人。なかなかの異常事態ではある。まず9Rで転覆してしまった新田雄史。篠崎仁志に接触したことで不良航法までとられての負傷帰郷だから、落胆も大きかっただろう。今日は後輩の松尾拓も7Rで転覆を喫しているが、こちらは特にケガもなく明日も出走する。無念の帰郷となった先輩の分まで奮闘してほしい。

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 11Rで落水した深川真二も帰郷となったが、ピットには戦慄が走っている。レスキューが接岸しても、なかなか降りることができなかったのだ。担架も持ち込まれたことで、緊張感が漂った。レスキューの係留所は、出走&展示ピットの真横にあり、12R出走の選手班長・瓜生正義と、後輩の峰竜太もギリギリまでレスキューに近寄り、うずくまる深川を見守っていた。二人とも展示を控えており、それ以上駆け寄ることができないのがもどかしそうだった。

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 落水は、2周2マーク、深谷知博が切り返し気味に先マイをはかった直後に起きており、責任を感じたか、深谷はエンジン吊りもそこそこにレスキューへと全力疾走した。蒼ざめた顔つきで深川を見守る深谷。やがて、エンジン吊りを終えた他支部他地区の選手たちも、心配そうにレスキューを見守り始めた。みな言葉もなく、ただただ深川の様子を見つめていた。

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 やがて、深川が自力でレスキューを降りて、ゆっくりだが歩き始めた。戻ってきた深谷は、深刻な表情で見守っていた選手たちに状況を簡単に説明している。どうやら、プロペラで左手を打った様子で、グローブか勝負服などが切れていたという。それを聞いた井口佳典が顔をしかめて短く悲鳴をあげた。直接見てはいなくても、その様子が想像できるだろうから、そのケガの深刻さもまた理解できたのだろう。その場にいた選手たちは一様に暗鬱な表情となり、深川の容態を心配していた。

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 そのころ、深川のボートが引き上げられて、それを見た井口が駆け寄った。佐賀支部勢は、峰が12R出走、他の後輩たちは深川に付き添っていたから、エンジン吊り要員が不在だったのだ。それを見て、石野貴之も猛ダッシュ。さらに他地区の面々が次々に集まって、支部や地区にはまるでとらわれない面々が、エンジン吊りを行なった。こうしたときの気の利かせ方が、選手たちはすごいと思う。

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 医務室に入った深川が姿をあらわすより先に、後輩の上野真之介が荷物をまとめ始めている。また、やはり後輩の宮地元輝はさらに深川に付き添っていたのだろう、かわりに西山貴浩と仲谷颯仁が整備室へと走った。モーター返納作業を行なうためだ。佐賀だけでなく、九州地区陣営がかなり慌ただしい時間を過ごしていた。

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 やがて、左手首に包帯を巻いた深川が姿をあらわした。たまたま僕はすれ違うことになったのだが、深川は僕の顔を見てニッコリと笑った。僕も心配そうな表情になっていたのだろうか。大丈夫だよ、という意思表示だった。でも逆にそんな顔をされると、返す言葉はなかった。その後もさまざまな選手に声をかけられ、大丈夫と言って笑う深川。ひとまずは手以外の部分には影響はなさそうではあったが、しかし笑顔を見せながらもやはり左手首は痛そうで、周囲には心配させまいとする気遣いのようにも見えたのだった。さらに深川は出走待機室のモニターで12Rを観戦。峰竜太の顔を見て帰ろうということだったのか、そして実際、レースを終えて帰ってきた峰と笑顔を交わしてからピットを後にしている。そうした一連の表情などはまさに、深川の男気と僕は思う。

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 まずは、こうしたときにいつもいつも書くことだが、新田も深川も一日も早く傷を癒してほしい。そしてまた、ピットで力強い表情と会うことを楽しみにしたい。エキサイティングなレースはファンとしてもちろん大歓迎だが、しかしこうした事故を目の当たりにするのはやはりツラい。選手たちが大きなケガなく戦い抜いてくれることを、改めて願うばかりだ。

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 さて、選手班長として深川の状態を心配しながらも、12Rは瓜生正義が差し切り快勝。大きい着を並べながらも、ここで1号艇の毒島誠を撃破する、瓜生らしい走りを見せた。12R後は時間の余裕がないから、駆け足で勝利者インタビューを受け、装備をほどき、と慌ただしく動くことになった。というわけで、瓜生スマイルは見られなかったが、とりあえず溜飲が下がる勝利だったことだろう。明日の1号艇を逃げ切っても予選突破は厳しい状況だが、明日も彼らしい姿を見せてほしいですね。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)