BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――クラシックに魔物が!?

10R

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 大上卓人、惜しかった! 初めてのSG準優、それも2号艇とはいえ内枠で、怯むことなくきっちり走り、優出をうかがえる位置で戦い切った。ただ、競った相手が悪かった。百戦錬磨の毒島誠。こうした局面での2番手競り、場数の差は歴然である。もしかしたらハンドル捌きも。それでも粘って粘って優出を目指した。ナイスファイトである。

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 レース後、大上と毒島は両手をボートに見立てて、その駆け引きを語り合った。試運転の後などに足の差を両手ボートを並走させて表現するのはよく見るが、これは競った時の位置取りと捌きの対処を語り合っているものだろう。まさに将棋の感想戦に近いもので、あるいは「毒島誠の捌き講座」を大上が受講している図にも見えていた。毒島が「こう!」と言って、大上が「逆をやってしまった」と言い、ふたりで爆笑、みたいな。現時点では毒島におおいに分があるのが正直なところでも、こうした経験を積んでいって、いずれ互角に戦える日が大上に訪れるだろう。

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 勝ったのは篠崎仁志。嬉しい嬉しい、福岡SGでの優出だ。2014年の福岡オールスター。準優で3着に敗れた仁志は、着替えを終えてとぼとぼとこちらに歩み寄ると、「篠崎仁志のオールスター、終わりました」と寂しげに言ったものだった。福岡でのタイトル奪取は、言うまでもない悲願。いつもそのチャレンジの手前で敗れてきた仁志が、ついに明日、タイトルに挑む。引き上げてきた仁志の表情は、ただただ力強かった。会見では「優勝。優勝しか考えない」と、頂点だけを見据えて戦うと宣言した。明日、最も強い思いでファイナルに臨むのは、間違いなくこの男だ。

11R

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 このレースでも、SG初準優の岩瀬裕亮が健闘を見せた。優出圏を脅かすまではいかなかったが、前本泰和、菊地孝平という歴戦の雄を振り切っての3着。まずまずの初体験である。カポック脱ぎ場で装備をほどきながら、終始笑みを浮かべていた岩瀬。柔らかい表情ではあるが、逆に言えば、その表情がずっと顔に貼りついていたとも言える。脳裏にはどんなシーンが浮かんでいただろうか。

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 2着で優出を決めた守田俊介に、馬場貴也が歩み寄ってボディにパンチの連打! すわっ、乱闘か!? のわけがなく、まずは滋賀支部同士の仲の良い祝福。そして、前本泰和にスリット後叩かれて見せ場も作れなかった馬場の八つ当たり(笑)。そんな馬場に、守田は穏やかな笑みを返していた。
 会見では、意外な事実を明かした。
「SG優勝戦はゴンロクばっかり。1着2回以外は全部ゴンロク。脱却したいです」
 調べてみたら、10回優出して、優勝が2回。それ以外は5着4回、6着4回。ほんとに全部ゴンロクだ! というわけで、明日は2~4着が獲れるかどうか。というか、1着獲ってください(笑)。

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 勝ったのは石野貴之。昨年は意外やSG優出はゼロ。一昨年優勝したグランプリ以来の優出だ。ご存じの方も多いように、石野は近況超絶不調。このクラシック前まではA2級勝負駆け(つまりB級に陥落しかねない)という事態なのであった。期末まであと1カ月、もはやA1級キープはかなり厳しい状況。ということで石野の明日への意気込みは……
「年末にA2級で行きたいと思います」
 これは、まずは優勝宣言! そして、勝てばグランプリに行けるという状況の認識。さらに来期A2級は覚悟してますという意思表示でもある。そのコメント聞いて笑ってしまいました。石野も笑ってたし。同時に、そう言い切れることが強さでもあると思う。
 ちなみに、この会見は12Rの結果が出る前に行なわれた。そして、結果的に優勝戦1号艇! うむ、グランプリにA2級選手が出てるの、見てみたくなったぞ。

12R

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 寺田祥、まさかの優出漏れ……。その端緒を開いたのは、2コースから意表のツケマイを見せた松田大志郎だ。寺田がこの面倒を見た分、差し場を作った。松田自身、優出を逃してしまったが、思いの伝わるレースであった。その意気込みは称えるべきだ。レース後はさすがに悔しそうに表情をカタくしていたが、この敗戦は次につながる敗戦である。

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 その間隙を差したのが湯川浩司。バックでは先頭に立っているが、しかし寺田に伸び返されて、2マークでは競り合いに。結果、2着に終わっている。優出は決めたのだが、そのあたりに不満が残ったか。湯川はかなり不穏な表情でカポック着脱場に戻っている。やはりこのあたりは勝負師! 明日も不気味な存在となる。

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 2マークの競りを突いて逆転したのは稲田浩二! 予選18位に滑り込んだ男が、そのツキを活かして優出まで果たしてしまった! 稲田自身、会見でも「ツイてるなと思います」と率直に表明している。逆に言えば、このツキは怖いぞ!
 それにしても、稲田は勝っても負けても、その様子は少しも変わらない。淡々としているというか、表情の変化をまるで見せないというか。昨日の後半5着の後は、やや悔しさが体からあふれているようにも見えていたが、今日の優出を決めた勝利のあとは歓喜の様子がまるで見えない。これが稲田浩二、である。ちなみに会見もひたすら粛々とソプラノの声で語るのみ、でした。そう、稲田の声って、意外や甲高いんです(笑)。

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 それにしても寺田がここで敗退するとは、“本紙予想”では本命にしていないくせに、ちょっと想像できなかった。寺田も同様だったのではないだろうか。どこか信じがたいといった表情でピットには戻ってきている。表情や仕草でその心中をあらわすことなく、むしろ黙々と悔恨を噛み締めていた印象。そのとなりでうなだれる吉村正明のほうが悔しがっているように見えたくらいだ。そういえば、昨年のクラシックは予選トップの石野貴之、2位の稲田浩二、3位毒島誠が準優で飛んでいる。そして今年、この3人が優出を果たして、寺田が散った。クラシックには春の魔物が棲んでいる!?(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)