BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――強い涙

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 峰竜太は、緊張の中で一日を過ごしたようだ。早い時間帯に見た、ややこわばった表情はレースが近づいてもあまり変わっていなかった。11Rがピットアウトして、列の先頭で展示ピットへと向かうときも同じだ。展示を終えて、ピットに戻ってきたときも同様だった。その少しあと、11Rを逃げ切りで終えた濱野谷憲吾が峰に激励の言葉をかけてピットを去っていった。一瞬だけ、先輩の声に微笑を浮かべて応えた峰は、すぐにまたもとの硬い表情に戻った。

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 レースが近づけば近づくほど緊張感が高まる、というのが道理であるとするならば、逆に峰はレースが近づいても感情の波がなかったということになる。緊張感に包まれてはいるが、ある意味でフラットに一日を送ったということではないのか。言ってみれば、優勝戦1号艇であっても、緊張感を抱きながらも、浮足立ったり高揚しすぎたり震えたり我を見失ったりということがなかったということである。やはり峰竜太はとてつもなく逞しくなったと思えてならない。

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 ファン投票1位で優勝。史上3人目の快挙である。峰は、自身を1位に押し上げてくれたファンの人たちへの感謝を何度も口にしている。特に今年は、中間発表では西山貴浩に約300票差に迫られていた。結果的にそれを約6000票差まで広げてくれたファンの思いを、峰は自らのパワーに変換していた。ただし、それはなにも峰に限った話ではない。2位の西山貴浩も、3位の大山千広も、いや、上位に限らず、この舞台に導いてくれたファンへの感謝は誰もが等しく抱いている。また、これまで優勝を逃してきた圧倒的多数のファン投票1位選手だって、同じ気持ちで戦った。だから、感謝が強かったから峰は優勝できた、というのは浅薄に過ぎるだろう。

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 あえて言うなら、峰はそれを責任感とも捉えていた。5年連続1位は記録であり、自身がそういう存在になったことを真っ向から峰は受け止めていた。また去年はダントツの成績を残して史上初の表彰5冠を達成、ボートレースを支える立場にいることも自覚した。だから、自分こそが勝たねばならないと衒いなく腹を据えた。それと感謝の思いが融合して、峰の精神を鋼にした可能性はある。

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 それでも、昨日も書いたとおり、準優の会見後に峰は「しんどい」と口にした。覚悟を抱いて結果を出し続けることは、それはもうキツいことに違いないのだ。ただ、それを胸にしまい込み、峰は今日も一日戦い続けた。そして、最高の結果を出した。解放されて流した涙は、まさに強さの象徴だ。かつての泣き虫王子の涙ではなく、強くなった峰竜太の涙である。

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 敗者のなかでは、菊地孝平がピットにあがってすぐ、がくっと肩を落としてうつむいた。悔しがっているというより、レースを反芻しているかのような姿だった。なぜ勝てなかったのか。峰に届かなかった要因は何か。菊地のコンピュータが猛然と検索している。そんな雰囲気だった。

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 それ以外の4人は、特に表情を変えることなく、返納作業に急いだ。もちろん、胸に渦巻くものは複雑さをまとっていただろう。だが、ほとんどそれは表情にはあらわれていなかった。そんな敗戦後の時間のなかで、彼らは何を考えただろうか。打倒峰竜太への思いは? この戦いが、今年のビッグロードのこの後を、さらに濃密なものにしてくれることを期待しよう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)