BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――「アー!」と「ボラ!」

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「アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!アー!」
 プロペラ調整室から聞こえてくる奇声。なんだなんだ? これがプロペラを叩くカンカンという金属音とともに響いている。つまり、ハンマーを振り下ろしながら奇声を発しているというわけだ。それはまるで、ボクシングとかのミット打ちで連打の練習をしている選手の気合の声。それにしてもペラ叩きながら声をあげている選手など見たことがない。声の主は見なくてもわかりますね。西山貴浩である。

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 アー!&カンは、いちどに15回から20回ほど続いただろうか。ずいぶんと叩いているわけだが、西山の引いた26号機は前節、和田兼輔が優勝戦でチルト3度で走ったモーター。和田は3度用にペラを調整したようで、西山は8R1着の勝利者インタビューで「ペラのクセが強い!」と嘆いていた。それでも乗りこなしてきたわけだが、明日の勝負駆けを前にそれを矯正しようと思い切り叩き変えてきたか。それにしても、現行のプロペラ制度の面白いところですよね、これが。前操者のプロペラの形状がそのまま残っているという。もしこれをチルト3度のスペシャリストである阿波勝哉や伸びまくりタイプの高田ひかるが引いていたらどうなるのか。そういうタイプではない西山は苦労しているけど、それをどう調整し、どう乗りこなしていくかも見てるほうとしては楽しいわけです。さあ、明日のレースまでに西山は納得のいく調整ができるかどうか。あ、奇声をあげてたかもしれないけど、もちろん大真面目の調整でありました。それが実るかどうか、注目しよう。

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「ボラ!?」「ボラ!」「ボラ?」「ボラ……」
 10Rが終わり、選手たちがピットに引き上げてくると、出走した選手やエンジン吊りに駆け付けた選手が口々にボラボラ言い始めた。ボラって、魚のボラ? レースや試運転などで、水面から跳ねたボラが選手やボートを直撃する、という事象はたまに聞きますよね。これが選手を直撃するとダメージも大きいようで、10年前のマスターズチャンピオンの初日ドリームで、展示で松野京吾がこの“被害”にあい、欠場したことがありましたね。西山もその“被害”経験のある一人で、それをモチーフにした横断幕が対岸に貼られていたりします。この10Rでもボラ直撃があったのか?

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 それにしては出走組でダメージを受けているような選手が見当たらない。よく見ると、馬場貴也がボートの中を覗き込んでいて、ボラは馬場を直撃はしなかったものの、ボートに飛び込んだのだろうか。やがて馬場は、ボートの奥に右手を突っ込み、ボラ捕獲! これがまたちっこいボラで、まだ成魚じゃないんでしょうな。そういえば、小さい魚が水面からジャンプしているのを今節何度か見たな。というわけで馬場は右手で柔らかくボラをつかみ、水面に歩み寄って逃がしていた。やっぱ馬場ちゃん優しー! そのボラはこれで立派な大人のボラに成長するかもしれないけど、馬場の温情に報いて、絶対に選手を直撃しないように!

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 さて、前半の記事で、整備室の様子がまるでわからない、ただ選手の姿は垣間見える、といった旨を書いたが、終盤の時間帯には瓜生正義が整備室で作業をしていたのだった。もちろん何をしていたかはわかりません。9Rを走っているので、格納作業だったかも? ただ、瓜生はその後、ペラ室にこもって調整を続けていたのだ。9Rは2着。しかし5着2本が響いていて、明日は楽ではない勝負駆けである。1号艇と4号艇、枠番的には悪くないが、やはりもう一押しが欲しいところであろう。9R出走組は、瓜生以外は終盤の時間帯に見かけていないので、1便で帰ったものと思われる。瓜生は居残って、さらに調整を続けたというわけだ。なお、先ほどの西山の奇声時に瓜生もペラ室にいましたが、特に反応していませんでした。西山、よくやってるのかな(笑)。それはともかく、明日は瓜生の気合にも注目!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)