BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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徳山ヤンダビTOPICS 2日目

奇縁の決意

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 明日、是非とも穴で狙ってみたいのが加藤翔馬19号機だ。モーター抽選記事でも書いたが、この19号機、前回は地元のラスボス新良一規さま65歳の優勝を添い遂げた赤丸急上昇パワー。三島敬一郎も関浩哉54号機の「S」に次ぐ二番手評価。さらには、最近まで徳山に詰めていた覆面記者さんから「5月の周年で菊地孝平が乗った(優出6着)とき、『この19号機、秋にはエース機になってると思います』って言ってました」という情報も聞いていた。

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 ところが、前検の特訓ではまったく目立たず(正確には同班の関54号に釘付けで視界にも入らなかったw)、昨日の初戦も抜けて悪い展示タイム~スリットからズルズル下がって見せ場もなく6着大敗という体たらくで、「あらら、新良さまと育んだ節イチ級パワーはどこに消失したのかしらん」などと首を傾げる2日間だった。

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 そして今日の5R、翔馬19号の道中の粘っこい実戦足をつらつら眺めて昨日までの評価を180度転換。それくらいターン回りにキレがあったし、道中で3艇身先行する入海馨を握りマイ一発で逆転した出口の足にも惚れ込んだ。
――こんだけの足なら、後半9の②で一発あるかも?
――翔馬のジカまくり、ありそう!
 今は徳山を離れた覆面記者さんとこんなメールのやりとりをしていた昼下がり、私の脳裏にふと意外な人の顔が浮かんだ。『イン屋の神様』冨好和幸さんの人懐っこい笑顔。
 あれ、こんなときになんであの神様の顔が……?
 何秒か考えて、やっと合点がいった。『BOATBoy』で2年ほど冨好さんの連載取材をしていたとき、神様がまんま人懐っこい笑顔でこう言ったのだ。
「兵庫支部から、間違いなく未来の大スターになりそうな大型新人がデビューしたんですわ。やまと(学校)でもトップ級の生徒やったし、尼崎で練習しててもえらい呑み込みが早くて、どんな先輩のターンでも教えたことはすぐに覚える。未来の兵庫支部を背負って立つ子が現れたんです、ホンマ楽しみですわぁ」
 こんなセリフとくしゃくしゃの笑顔を残して、冨好さんは本物の神様になった。そう、その大型新人が、他でもない加藤翔馬だった。

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 そして、そんな一連の記憶が蘇ったとき、私はもうひとつのささやかな因縁に気づいた。冨好さんは新良さまと同期で、46期の看板レーサーである新良さんを心の底から敬愛していたのだ。新良さまのさまざまなエピソードを語る冨好さんの顔は、やっぱり同じような人懐っこい笑顔だった。
 それでか……。
 冨好さんが敬愛してやまない盟友が65歳で優勝を成し遂げ、その優勝モーターを忘れ形見のような24歳の“大型新人”が受け継いだ。他の人からすれば取るに足らない話かも知れないが、そうと気づいた私はひとり勝手に鳥肌を立てていた。
 後半の9R、私は迷うことなく2号艇のアタマ舟券を買った。ジカまくりの脳内レースとは裏腹に、翔馬はスタートで後手を踏んで4着に敗れた。レース後に私が心に決めたのは、「今節は翔馬のアタマ舟券を買い続ける」。
 なんだ、お前の勝手な思い出話の流れで、オレたちにまで翔馬の舟券を押しつける気か?
 そう思われても仕方がない話をダラダラ書いてしまったが、今日の翔馬19号機は本当に昨日までとは別物の足だったのは間違いないところ。デビュー7年目の加藤翔馬が冨好さんの期待どおりに成長しているかどうかはともかく、私にとってはいささか奇遇な縁を頼りに明日以降も翔馬19号機を買い続けるつもりだ。

女のバトルロワイヤル

 今節はどうしたことか、昨日から妙な文言を書きなぐってるな。いつもどおり、今日のレースでもっとも大きなトピックを取り上げるなら、やはり12Rオール女子戦の「渡邉優美の3カド&高田ひかるのドカ遅れ」だろう。優美は9R後のスタート特訓から3カドを決行していたが、その主題は明らかに「対高田ひかる迎撃砲」だったはずだ。
 3コーススローではひかるまくりに圧倒される可能性が高い。ならば自分も3カドに引いてひかるの攻撃力を緩和し、できれば自分が先攻めする。
 攻めか守りか、どちらに重きを置いていたかはともかく、私はこの特訓のときから「その意気やよし!」と讃えていた。讃えつつ、「3カド優美vs伸びるひかる」の肉弾戦の実現に胸を躍らせた。それが……。

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 優美がスタート展示も3カドで練習を積んで、いざ実戦。ファンファーレと同時に4号艇のひかるがズルッと艇団から滑り落ちていた。諸刃の剣とも呼ぶべき超伸び型に仕立て上げるひかるペラは、常にこれがありえる。以前に比べるとかなり減っているのだが、今日はアウトの星回りだった。
 うなだれたように6コースに回ったひかるを見てから、私は「さてさて、優美の心境はいかに?」と視線を移した。ひかるのまくり舟券を買ったファンだけでなく、優美もまた肩透かしを喰ったような、妙な気分だったはずだ。ひかるが4コースだからこその決死の作戦なのに、そのひかるがいない。自分はそれでも3カドをする意味があるのか。そんな自問があっても不思議はないだろう。
 それでも、特訓もスタ展も3カドで押し通した優美は、本番でも颯爽と舳先を翻した。スタートでやや凹んだのは慣れない奇襲のためだったか、仮想敵が眼前から消えてモチベーションが揺らいだか……結局、優美は1マークから揉まれに揉まれて6着に敗れ去った。それでも、私は今日の優美の英断に拍手を送りたい。

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 最近は松瀬弘美がチルト3度で勝負したり、中村かなえが勝負どころで伸び足をつけて3カドに引いたり、つい去年までの女子戦ではほとんど見かけなかった過激な光景が多発している。そのカンフル剤となっているのは、超伸び型にするわ、3カドを連発するわ、時に前付けに動くわ、とやりたい放題に暴れ回っている高田ひかるなのだろう。今日の優美もまた、そんなバトルロワイヤルのリングに立った。そう思った。今節、枠なり主体で1マークでも道中でも消極的なターンばかりが目立つ男子軍団より、よほど刺激的でヒリヒリ感が溢れるオール女子戦。嗚呼、だからこそ「3カド優美vs伸びるひかる」でしっかり女の闘いを完結してほしかったなあ(涙)。ま、今日のところは気持ちを切り替えて、「明日の4R3号艇に対して5人の男どもがどんな挑戦状を叩きつけるのか」に思いを馳せるとしましょ!(photos/シギー中尾、text/畠山)