●富士山
快晴の朝、1マークの奥のほうには冠雪した富士山が綺麗に見える。ピットからも実に美しい景観が眺められ、手持無沙汰になったときなど、つい見入ってしまうわけである。
そんな折、平本真之が通りかかる。「富士山、綺麗ですねえ」と、やはり選手も気づいていて、作業の合間に眺めたりもしていたようだ。「富士山、大好きですよ!」と平本。ピットにいれば、作業だったりモーターの手応えだったり、調整の方向性の模索だったり、なんだかんだストレスも溜まるものだろうが、今日は富士山がまさに一服の清涼剤となって、選手たちを癒しているようであります。
●癒しは一瞬
しかしながら、延々と富士山鑑賞をしている選手などいるはずもなく、誰もが懸命に調整に精を出している。
試運転係留所で中島孝平と池田浩二が話し込んでいて、1マーク方向を眺めながら身振り手振りを加えていたので、富士山談義かと思いきや、よく見ると指先は吹き流しを示していた。今朝は強めの向かい風が吹いていたので、それについての情報交換だろう。視界の片隅に白く光る霊峰が入っていたとしても、それは単なる景色であり、選手の意識は常に勝利に向けられているのである。
●ちょっと一服
というわけで、選手たちは今朝も多忙さを極めているのだが、もちろん休憩は必要。ということで、篠崎仁志が多摩川ピット名物の鯉にエサをあげていたのでありました。
ピットから競技棟に向かう途中には橋がかかっていて、その下には鯉が群れを成している。日頃から選手や関係者にエサをもらっているからだろう、ちょっと覗き込むとわらわらとこちらに向かって集合する鯉たち。残念、ワタシはエサ持ってません。そこにやって来た仁志の手には食パン。それをちぎって投げると、鯉たちは我先にとパンに突進! その様子はたしかに見ていて飽きないものであります。そしてこれも選手たちをリラックスさせるアイテムになってるんだろうなあ、と。鯉はエサをもらえるし、まさにウィンウィン!
●同着!
2Rは3番手争いが接戦。3周1マークで辻栄蔵が先行している原田幸哉のふところに艇をねじこみ、2マークでは先マイした。しかしややキャビリ気味で、そこに原田が差し返してくる。ゴールの瞬間は、どちらが先着したのか瞬時には判断できないほどであった。
ゴール判定中の表示が長く点滅しているなか、ピットでは「同着か?」との声もあがっている。さすが、こういう状況では同着の可能性が高まることを選手もよく知っている。1分ほども判定中と出ていただろうか、ついに表示された3着の枠には3と6が! やっぱり同着!
その瞬間、いったんは逆転されていた原田がド派手なガッツポーズ! まるで優勝を決めたかのような喜び方だった。いや、3着です。しかも抜いたわけでもないです(笑)。いや、一度は4着を覚悟していただろうから、これはラッキーという感覚が強いだろう。装着場にあがると、すれ違った辻とハイタッチ! いや、だから3着です(笑)。辻としては、自身の着が下がったわけではないけど、原田ほどは喜べないよね。というわけで、原田とタッチを交わしながら、苦笑いの辻栄蔵、でありました。
●そうか、富士山か……
1Rの女子戦は長嶋万記が逆転で1着。その瞬間、思いました。今日は富士山がきれいに見える、富士山といえば静岡か……。スタンドにある記者席からも見えていたので、長嶋から買っておけばよかった……。
それはともかく、レース後の長嶋は充実感あふれる表情。やはり気持ちのいい勝利だっただろう。渡邉優美を笑顔を交わしながら、その笑みを保ったまま控室へと戻っていくのだった。逆転クイクラ行きに向けて、ここから波に乗っていきたいところだ。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)