BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――夕刻の戦士たち

●執念

f:id:boatrace-g-report:20211124175030j:plain

 簡単に、執念、と言ってしまっていいものかどうかはともかく、このレースの性格を考えれば、ただならぬものを感じてしまうのは致し方ない。太陽が大きく西に傾いたころまで、山口剛が水面を疾駆していた。今日は6R6号艇1回乗り。上野真之介の転覆があったレースだが、山口は大きな見せ場を作ることなく、5着に敗れている。事故艇が出ると道中で着を上げようと奮闘することができなくなるわけで、消化不良の一戦であったことだろう。
 山口の賞金ランクは32位。最低でも優出は果たさなければグランプリ出場への道は断たれる。その思いがさらに山口を突き動かす原動力になっているのは間違いないだろう。この試運転(と調整)で底上げはできただろうか。

●ルーティン

f:id:boatrace-g-report:20211124175052j:plain

 10R終了後の1便では29名が帰宿している。そのなかに、登番最上位の今垣光太郎は含まれていなかった。もちろんそこで帰って悪い道理はないわけで、今垣は1便で帰るつもりはまったくなかったということだ。
 そのとき今垣が何をしていたかといえば、ボート磨き。この欄でも何度も取り上げてきた、今垣のレース後のルーティンだ。今日の今垣は8Rに出走。それからモーターの点検や格納、そしていつものボート磨きをこなすには、9Rと10Rだけでは間に合わなかった。だから迷いなく1便の名簿に名を記すことなく、自艇のもとに向かったという次第なのである。その様子にも、ある種の執念みたいなものを感じますね。

●1便辞退?

f:id:boatrace-g-report:20211124175235j:plain

 10R、湯川浩司が転覆失格してしまった。激しいキャビテーションからの転覆だったので、容体は心配されたが、レスキューを自力で降りているし、その後も転覆整備などに当たり前のように参加している。20位からの逆転を目指すには、選手責任の転覆はかなり痛いが、明日からも諦めずに奮闘することだろう。

f:id:boatrace-g-report:20211124175319j:plain

 その10R発売中、石野貴之が通勤着に着替えてピットにあらわれている。それを見て僕は、1便で帰るんだろうと想像した次第だ。ところが、10Rのエンジン吊りに石野はふたたび通常着用しているウェアに着替えて登場。湯川のボートつり上げや、その後の転覆整備のヘルプを率先して行なうのだった。実際に1便で帰るつもりだったかどうか確認することはできなかったのだが、服装の変化は急遽1便を辞退したもののようにしか思えないのだった。先輩の一大事を放っておけなかったのだろう。その姿もなかなか凛々しいのであった。

●選手班長

f:id:boatrace-g-report:20211124175350j:plain

 多摩川のプロペラ調整室は2部屋。「プロペラ調整室1」「プロペラ調整室2」とプレートが入口に貼ってあって、整備室の出入口の外から見て右側が1、左側が2である。今節、濱野谷憲吾の定位置は1のほうのいちばん右端。覗くたびに(といってもガラス張りなので、外から普通に見える)選手のポジションは違っていたりするのだが、濱野谷のポジションはいつも変わらない。また、そこに他の選手がいるのも今のところ見かけていない。地元ということで、多摩川を走るときはいつも同じ場所なんでしょうかね。他の選手もそこを地元のスーパースターの聖域と捉えていたりして。
 それはともかく、選手班長である今節、やはり動きは慌ただしい。特に10Rで湯川が転覆したときには即座に動いて、まずレスキューの到着後で湯川を出迎え、その後は事故艇の釣り上げ場所に移動して立ち合い。さらには転覆整備にも立ち会っていた。ちなみに今節は3人がボート変更をしているが、その抽選にも立ち会っているはず。平和島ダービーは石渡鉄兵が班長だったが、今節は東京支部一人だけということでお鉢が回ってきた格好。多忙ななかでも、地元の意地を水面では見せてほしいですね!

●アロハー

f:id:boatrace-g-report:20211124175415j:plain

 12Rは峰竜太が3コースからまくり差し一閃。インの桐生順平を撃破した。1着ゴールしてピットに帰還する際、ボートリフトの手前でアロハー。出迎えた上野真之介らにポーズを見せつけていた。ノリノリですな!

f:id:boatrace-g-report:20211124175445j:plain

 一方、刺された桐生としては憤懣やるかたない。ちょうどエンジン吊りを終えた頃、対岸のビジョンにはリプレイが映し出されていて、選手たちはそれに見入るわけだが、桐生は差されたシーンを見て、さらに猛追が及ばない場面も確認して、小さく首を振りながら渋面を作った。控室へと歩み出したかと思うと、また立ち止まってビジョンを確認。もちろん映し出されたレースの結果が変わるわけではないのだが、恨めしそうに最後まで見届けて、とぼとぼと控室へ向かったのだった。この悔しさは今節中に晴らせ!

●貫禄

f:id:boatrace-g-report:20211124175700j:plain

 寺田千恵が9R1着で、ここまでオール3連対。2日目を終えての暫定トップに立った。ちなみに、SGのほうの暫定トップは寺田祥なので、W寺田が今のところシリーズをリードしているということになる。
 それにしても、すでに偉人というべき実績を残しているテラッチだけあって、勝った後も大はしゃぎするわけでなく、またその後のピットでのたたずまいも粛々としていて、それが貫禄を発散している。決して大柄ではないが、存在感はとてつもなく大きく迫ってくるのである。
 寺田は昨年の覇者だから、優勝すれば連覇。そして3度目のV。この大会は今回が8回目だが、寺田がVなら、遠藤3V、寺田3Vとこの二人が6Vも占めているという結果になるわけである。いやはや、凄すぎる。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)