●11Ｒ
新田雄史が前付けも、誰も譲らず枠なりオールスロー。いきなり動きが生じたトライアル１ｓｔ初戦だが、辻栄蔵がしっかりと逃げ切って、１号艇の意地を見せ切った。決して楽ではないイン戦をしのいだことで、辻が満足そうな表情を見せていたのが印象的だ。派手なアクションを見せてはいないが、手応えを掴んだ初戦だったはずだ。
一方、かなり苛立った表情を見せていたのは新田雄史だ。前付け実らず、結果も大敗である。控室へと戻る途上で、何度も歯を食いしばって怒りに耐えるような顔になっており、その無念さは誰よりも伝わってくるのであった。トライアル１ｓｔはたった２走。１走目の大敗はあまりに重い。枠番の不利を覆すべく策を講じたが不発に終わり、さまざまな悔恨が胸に渦巻いただろう。
篠崎仁志も大敗だが、悔しがるというよりは、納得がいかずに考え込むような雰囲気のレース後であった。どうやら足的には問題なかったようで、それが結果になぜつながらなかったか、自身に問いかけていたのだろうか。新田の前付けに抵抗したことに悔いはないだろうが、しかし結果を思えば何が正解だったかを求めて、レースを反芻することになっておかしくない。
表情などはまるで見えなかったのだが、毒島誠がやけに速足で控室へと戻っていったのも気になった。ヘルメットもかぶったまま、後続をぶっちぎる凄い伸び足で、控室への長い道のりを駆け抜けたのである。簡単に考えるなら、３着という結果にまるで満足できなかった、ということになるのだが。着替えを終えた後の毒島は、わりと穏やかな雰囲気だったので、なおさらレース直後の様子が気になったという次第である。
●12Ｒ
ピットの空気が一気に緊迫度を増した。１マークでインの前本泰和が振り込み、石野貴之が乗り上げて、さらに池田浩二も乗り上げた。ピットには、悲鳴のような声が轟いてもいる。あまりに危険な多重事故に、誰もがそわそわしだしたように思えたし、山崎郡や平本真之ら事故に見舞われてしまった選手の関係者が猛然と救護室方面に駆け出したことで、緊迫感とともに喧騒にも包まれるピットとなっている。
３コースまくりで勝った西山貴浩も、さすがに歓喜をあらわすことはしなかった。いや、できなかった、のほうが正確か。外マイを選んだことで事故に巻き込まれなかった菊地孝平も、巻き込まれそうになりながら生き残った丸野一樹も、やはり表情は複雑だ。エンジン吊り後、この３人が肩を並べて戻っていったのもまた印象的。まくった西山にとっては後方で起こったことだが、菊地と丸野は事故を身近で感じただろうから、そのあたりの確認や大きな影響を受けなかったことの安堵などを語り合っていたのではないかと思われる。
とにかく乗り上げの場面が危険に見えたため、各選手の容体が案じられたわけだが、まず石野が少し足を引きずっている感はあるものの、きびきびとした様子で姿をあらわしたことにはこちらが安堵させられた。そのまま速足で整備室へ。転覆整備を行なったものと思われる。
枠番抽選の映像を見た方なら、池田が足を引きずっているのに気づいたはずだ。レース後の痛みは、石野より池田のほうが大きいようだった。それでも明日は走るのだと、枠番抽選に臨んだ。一夜明けて痛みが薄れて、今日の憂さ晴らしができるような走りを見せてもらいたい。
残念ながら、前本は帰郷となってしまった。過去２回のグランプリは賞金ランク下位で参戦して１ｓｔで敗退。初戦１号艇となる今回こそは、という思いがあったはずだが、またしても無念を味わうことになってしまった。来年も、落とし物を拾いに来るために、この舞台に登場する活躍を見せてもらいたい。
●枠番抽選
残念ながら、抽選会場への立ち入りは許されなかった。だから、抽選を終えて出てくるシーンを見られた程度である。ピット内のモニターで抽選の様子は見ていたけれども、それをここに書くのはふさわしくないだろう。
というわけで、１号艇を引いた菊地孝平に毒島誠が「持ってるんだから～」とからかい、しかし菊地が「初めてだぞ！」と言い返して周囲が明るくなったことを伝えるに留めます。かつては抽選の模様を目の当たりにできたのに……早く以前の状態に戻る日が来てほしいと、改めて願った次第。あ、ちなみに一昨年も１ｓｔ第２戦で１号艇を引いてますよ、菊地選手（笑）。
●シリーズ
12Ｒの前に、シリーズのほうでも緊迫した空気になっていたのだった。10Ｒのシリーズ特別戦だ。太田和美の締め込みにあおられた山口剛が不完走失格、坪井康晴がエンスト失格となった。そして太田は先頭に立ちながら妨害失格。ピットはにわかに重苦しい空気となったのだった。
坪井はわりと元気な感じですぐにピットにあらわれたが、山口のほうはなかなか姿をあらわさず、やがて帰郷という声が聞こえてきた。引き続き容体が心配されるわけだが、一日も早い快癒を心から祈りたい。
繰り上がり１着となった中島孝平は、10Ｒ終了後の１便バスで帰宿している。まさかその後、明日はトライアルに組み込まれているとは想像もしていなかっただろう。というわけで、明日は突如としてグランプリ組として戦う。宿舎でどんな様子だったのか、おおいに気になるところだ。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 黒須田 ＴＥＸＴ／黒須田）
