BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――淡々と粛々と

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 とにかく淡々、粛々のレース後なのであった。陸に上がって仲間の出迎えを受けたときも。戦った選手たちに頭を下げているときも。促されてJLCのインタビューやウイニングランに向かうときも。ウイニングランから戻って、走って表彰式会場に向かうときも。ヒーロー佐藤隆太郎からは笑顔がひとつも見えないのであった。まあ、グレードは一般戦、仲間たちも佐藤の勝利にはしゃぐようなところは見えなかったし、他支部の選手たちもエンジン吊りからの返納作業に忙しかったし、祝祭ムード自体が薄いピットではあった。だから佐藤としては「インからしっかりやるべきことをやった」という感覚が強かったかもしれない。

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 もちろん、今節は優勝を“達成”できたが、彼が本当に“達成”しようとしているのは当然、バトルトーナメント優勝ではない、ということもあるだろう。一般戦としては大きく注目を集める大会ではあるけれども、見据えるものは言うまでもなく、さらに上のほうにある。記者会見で今後の課題を問われ、溜め息交じりに「全部ですね……」と言った、それは間違いなく本音であろう。そう考えれば、この勝利で浮かれることなどあるはずがなく、それがあの表情を特に変えることのないレース後になったということだ。

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 ただ、この大会はやはり大きな経験にはなったはずだ。会見で印象に残った言葉が、スタート特訓では坪井康晴に伸びられていた、というもの。それは「前検で坪井さんと合わせてもらったときは変わらなかった」という言葉ともセットになってくる。つまり、佐藤は坪井との間に「調整の早さの差」を感じたのだ。SGレーサーは水面でのテクニックだけでなく、調整の技量もまた並外れている、ということを実感した。それでも「自分がしっかりスタートを行ければ、(坪井が)壁になってくれるだろう」と腹を据えてレースに臨んだのはたいしたものだったが、3日間という他にはない短期決戦でトップレーサーと戦ったことが、佐藤にまた気づきをもたらしたのはたしかだ。上で戦うには何が必要なのか。それを噛みしめることになった優勝ということになるだろう。

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 個人的には、これを大きなジャンピングボートにしてほしいと願う。東京に棲むボート者としては、もともと期待が大きかった若者なのだ。すでに2度のGⅠ優出があるのだが、その後A2級を3期続けるなど、やや足踏み状態となっていたのは否めない(F禍による出走回数不足によるものもあった)。再び上昇するきっかけとして、このバトルトーナメントは悪くない。彼が会見でも口にしていた、地元多摩川で開催されるヤングダービー。そこに大有力選手として参戦すべく、この優勝を追い風にして強い佐藤隆太郎を見せてもらいたい。とにもかくにも、おめでとう! しっかり運も味方につけた、バトルトーナメントらしいチャンピオンだったぞ!

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 敗者についても、全体的な雰囲気として淡々、粛々だった。悔しさが溢れ出ている選手は見当たらず(もちろんそれぞれに思いはあっただろうが)、レース後の作業に集中しているように見えた。枠の抽選運なども大きく左右する大会で、1号艇を引き当てた選手にトップスタートを決められては致し方なし、という部分もあっただろうか。印象に残ったとすれば、準Vの西橋奈未がすぐにリプレイに見入ったこと。渾身のまくり差しが届かなかったのはなぜかをいち早く確認したかったのだろう。突き抜ける可能性が充分ある隊形と見えていただけに、その部分への悔しさはあったに違いない。

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 そして、一人だけ違う雰囲気を見せていたのは、やはり坪井康晴であった。随所に苦笑いが浮かんでいたのだ。明らかな格上だった坪井は舟券にも絡めず大敗。格上だからといって簡単に勝てないのがボートレースではあるのだが、そこに複雑な思いが沸くのがやはり格上選手というものだ。その苦笑いが、逆に坪井康晴の存在感をさらに強く感じさせたのだった。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)