BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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準優ピット/喜々哀々

 5コース強襲あり、道中の転覆あり、激闘の11Rだった。いつもの私(畠山)なら、その激闘に関してあーだこーだ能書きを垂れるのだが、今日はピットの片隅で6戦士の帰還を待った。
 まずはヘルメットを脱ぐと同時に、互いに近寄って笑顔を交わしたのは1着・新開航×3着・吉川貴仁の118期コンビだった。勝った新開はもちろん、明日のファイナルは外枠を余儀なくされる吉川も屈託のない笑顔。道中4番手からキッチリ優出圏内の3着まで追い上げたあたり、「ミスター紅白戦」として最低限の責任を果たした、というところか(笑う)。

 この優出コンビから少し離れて、何事かを笑顔で話し合っているのが2着・原田才一郎×4着・中村日向の122期コンビ。お互いに指を差し合っての会話は、おそらくドッキリスタート(才一郎はコンマ05、日向が01!!)に対する論争だろう。「お前があそこまで行くから俺だって!」みたいなノリ。

 今度はこのふたりの元に118期の先輩コンビが近づき、才一郎に笑いながら言葉をかけると、才一郎は大きく被りを振ってから「コイツです、コイツなんです!」と日向を指さした。差された日向は最敬礼で謝ることしきり。私の脳内の妄想劇場では、「お前ら、大外からよーけスタート張り込んだやないかい!」と迫る先輩に、才一郎が「真犯人はこの男です!」と責任を擦り付けたのではなかろうか。とにかく4期も離れたルーキー4人はじゃれ合うように笑い合い、その中で唯一優出を逃した日向もファイナリストの勢いに巻き込まれて笑顔を返していた。あれだけスタートを行って届かなかったのだから、負けて悔いなしというところか。

 もうひとり、意外とサバサバした表情でピットに帰還したのが123期の前原大道だった。もちろん、転覆事故でレースを壊したのだから四方八方の先輩に頭を下げまくるのは当然として、ひとしきり謝り終えたその顔には悔しさよりも「やっぱり、まだ足りなかったかぁ」みたいな清々しさが滲んでいた。

 11Rの6人の中で、ただひとり明らかに浮かない表情だったのが120期の牧山敦也だ。その憂いに満ちた顔は「準優で5着に敗れた」という無念さだけではない、3Rでフライングを切ってすべてのチャンスを失った、より複雑な心境が込められていたはずだ。今節は何度も会話を交わして彼のクレバーさに惹かれたものだが、クレバーで責任感が強いからこそ今日のダメージは大きかったことだろう。だがしかし、20代での失敗は、すべてが明日への肥やしとなって我が身に帰ってくる。「報われることのない準優」を経験したことによって、牧山クンがもう一丁強くなると信じたい。

 こうして11Rの悲喜こもごもを眺めていると、彼らと交叉するようにスタート展示を終えた12Rのレディースの面々が思い思いにピットの中を動きはじめていた。金田幸子はゆっくりゆっくり歩を進め、ロッカー室に入ると壁掛けのTVモニターを微動だにせず眺め続けている。5分、10分……モニター画面は競技情報が切り替わっているのだが、金田はまさに微動だにせず。ただ、その瞳はモニターを見ているというより、ひたすら何事かを考え続けて視点が定まっていないように思えた。

 同じく地元の寺田千恵は、腕を組んでうつむき加減に考え事をしながら歩を進めている。その後方からやはり地元の田口節子がこちらは飄々とした風情で歩いていて、日替わりで変化する節子フェイスの中では明るい方かな、などと心のメモにしたためた。

 30分後、そんな地元トリオははっきり明暗を分けて水面からピットに帰還した。ファイナルへの勝ち名乗りを挙げたのは、田口節子のみ。エースとしての責任を果たして安堵の表情を浮かべるか、と思いきや、その表情はレース前よりも堅く、険しいものだった。「暗い」と言うべきかも知れない。同支部の寺田と金田が好枠で敗れたせいなのか、それともファイナルを見据えて新たなスイッチが入ったのか……まったく分からないけれど、とにかく新しいモードへと切り替わった気がしてならなかった。

 一方、接戦の末に4着に敗れた寺田千恵は着替えを終えてから腕を組み、うつむき加減に通路を歩いていた。それはレース前の仕草とまったく同じように見えたが、少しだけうつむく角度が深かった。
 6着大敗した金田幸子は、私が見た中で今日イチゆっくりおっとりピットの片隅を歩いていた。そのスピードが、彼女の人生にとってどれだけ遅かったのか、私には言及できない。

 1~3号艇の地元トリオを切り崩してファイナリストになった山川美由紀と川野芽唯は、当たり前だけど嬉しいオーラが全身から噴き出していた。なんぼ隠しても、隠しきれない嬉しさみたいな。今節、予選の1号艇で逃げきった山川が少女のようにケタケタ笑っていたのが印象に残っているが、今日も同じ。グレードも賞典レースも関係なく、勝負ごとに勝てばただただ嬉しく負ければただただ悔しい。シンプルにそんな喜怒哀楽を水面に投影し続けるからこそ、この讃岐の女傑はいまもレディースのトップ級であり続けるのだろう。2周バックで熾烈な3着争いを演じた寺田千恵、日高逸子とともに。(photos/チャーリー池上、text/畠山)