BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――レース前の緊張感

 レースが近づいた選手はみな緊張しているよ、というお話。1Rのエンジン吊りに向かう西山貴浩がこちらに気づいてペコリ。ごくごく普通の会釈だった。普段であれば、「おはよっぅー!」と元気よく声をかけてくるし、余裕があれば酒呑み話に興じることもあるのだが、今朝はまるで違う雰囲気だ。西山の出番は3R。エンジン吊りを終えれば、展示の準備に向かうのである。
 やがて、乗艇着に着替えた西山がピットにあらわれた。エンジン吊りには胸に「夜oh!」と書かれた地元若松のオリジナルTシャツ着用で向かっていたのだ。水面に目を向ける西山の目つきは真剣そのもの。気合と緊張が高まっているのは明らかだった。エンターテイナー西山も、レースを目前にすれば勝負師に変貌する。そうなると、もう声はかけにくいのである。

 展示を終えれば、なお緊張は高まる。展示を走って本番ピットにボートをつけたあとは、整列して敬礼をしてから待機室に向かうので、6人がほぼまとまって陸に上がってくることになる。宮島のピットは、装着場の隅のほうを通過するので、そのあたりに立ち尽くしていると、巨大な緊張感の塊を間近に見ることになる。まさにレース直前の、闘志も高ぶり始めた6人が発散する空気感は、時に身震いするほどである。たとえば2R。6号艇の丸野一樹も完全に目つきが変わっている。レース前でなければ、ニッコニコで挨拶をしてくる好漢・丸野も、こちらには一瞥もくれずに待機室へと向かっていく。派手なアロハを着た巨体が視界に入っているのか、それともまるで気づいていないのか、それはわからない。ただキッと前を見据えて、只事ではない顔つきでこちらのすぐ横を通過していく。なかなか迫力がある。

 展示を終えたばかりの選手の表情は、ほぼ一様ですね。丸野と同様に、鋭い目つきで、おそらく展示で感じた足色のことだったりレース展開だったりに頭をめぐらせているからだろう、ほぼ一点を見据え、緊張感を隠すことなく厳格な顔つきとなる。2Rの石野貴之は、途中からマスクを着用したので、目つきの剣呑さがより際立って見える。思わず身震いするのはこういうときだ。

 まあ、もう12年以上も前ですが、チャレンジカップ優勝戦1号艇の原田幸哉が展示を終えた後、ニッコニコで声をかけてきて、しばし話し込むという、そういう選手もいます(笑)。あのときは驚いたなあ。いちばん緊張しているはずの幸哉に笑顔で話しかけられたら、こちらの“常識”とのギャップに腰を抜かすというものです。優勝したからよかったものの、大嶋一也にインを奪われたときは、「俺たちと話してるからだよ~」と肝を冷やしたものでした。

 さて1R。倉持莉々、SG初勝利! ピットに引き上げてきた倉持を、まず祝福したのは江口晃生。大先輩の「パチパチ!」という拍手に、倉持の目もとが緩んでいた。それを見て、あっ初勝利かと気づいた毒島誠も「パチパチ!」。最後は同支部のボス・濱野谷憲吾が手を思い切り叩く「パッチパッチ!」。倉持の周囲に拍手が巻き起こっていた。というか、選手間では祝福の拍手って、手を二度打つだけってのが相場なの? 長らくSGピット取材をしてきて、まるで気づかなかった。というか、関東界隈だけ? よくわからんので、注意して観察してみよう。ともかく、莉々ちゃん、おめでとう! パチパチ!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)