BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――豪雨の幕開け

 それまでもポツリポツリと雨は落ちていたが、1R締切10分前ほどだっただろうか、突如として雨脚が激しくなった。もはや豪雨といっても差し支えないほどで、装着場の屋根に叩きつける雨音が強く響いてくる。屋根のトイと伝って流れ落ちる水量も勢いが凄く、排水口は大量の水を一気に吐き出していた。この状況に気づいた平尾崇典が出てきて、水面を凝視。大時計が見にくいというところまでではないものの、やや煙って見えるのはたしかだ。

 問題は、風も急に強くなったことだ。ピットは2マークの奥にあるから、向かい風の時は風が吹き込むわけだが、この風が大量の雨をもピット内に持ち込む。雨が降り出したときに、係留所にあるボートには防水カバーがかけられていたが、このカバーが操縦席の前方までしか覆えていないため、後方には容赦なく雨が降り注ぐ。つまり、操縦席にはドシャドシャと雨粒が溜まっていってしまうのだ。この異状にまず気づいたのが船岡洋一郎。慌ててカバーをもうひとつ持ってきて後方にもかぶせようとしたのだが、もうそれどころではなかった。船岡はボートリフトの隣の係留所にボートをつけていたので、手動でボートを動かしてリフトへと運ぶ。陸にあげたあとは、クリーナーで操縦席の水分を吸い取り始めた。レース後のエンジン吊り時に見かける光景だが、船岡は係留所に置いておいただけでレースで後方を走ったときに匹敵するほど操縦席がぐしょ濡れになってしまったらしい。

 船岡の隣の係留所につけていた白井英治も、苦笑いを浮かべながら船岡に追随。さらに隣の村上遼も同様に手でボートを動かしてリフトに乗せた。その作業中にももちろん強い雨がピットにも降り注いでいるから、村上はシャワーを浴びたあとのように髪の毛がびっしょびしょ。村上もまた苦笑いを浮かべていたのだが、突然のこの状況、みんなもう笑うしかないんでしょうね。

 少し離れたところに係留していた平高奈菜も急いで陸にボートをあげているが、こちらは手で動かすには少々距離がありすぎたため、大急ぎでエンジンを始動してボートリフトへ。雨に濡れた顔がてかてかに光っていたが、平高もやっぱり苦笑いなのであった。

 出走ピットに隣接した係留所には太田和美、田村隆信、椎名誠、平山智加のボートがあった。こちらは屋根の角度が少々違うのか、彼らはカバーをふたつ使って操縦席の前方と後方をなんとかガード。こちらはこれでなんとかしのげたようだ。平山は旦那さんの同期で仲の良い太田の分もカバーをかけてあげていた。

 ところが、先ほども述べたように、風も強かったのである。太田のボートの後方を覆っていたカバーは風で飛んでしまっていたようで、これには誰も気づかず。水面に出ようとボートに向かった太田自身が気づいて、水に落ちていたカバーを拾い上げている。それでも太田はカバーをかけてくれた平山に優しく声をかける。
「智加、ダブルにしてくれたんやろ。ごめん」
 そして、
「でも風で落水しとったわ、ガハハハハ!」
 とやっぱり太田も笑うのであった。笑ってしまう気持ち、わかるなあ。

 で、そんな状況で泰然自若だったのが今垣光太郎。今垣もカバー2枚使いで操縦席をガードしたわけだが、その後にボート後方に座り込んでヘルメットのシールドを交換し始めた。そう、この雨で湿度はマックス。実は僕のカメラのレンズも曇りまくったのである。今垣は曇らないようにシールドを交換したわけで、さすが大ベテランの余裕である。やはり経験は誰よりも豊富なのだ。

 そんな大雨のなか始まった1R。丸野一樹がなんとか逃げ切って、オーシャンカップは幕を開けた。ピットにあがってきた丸野の顔は勝者だというのにやはり雨に濡れていて、笑顔はほとんどなく、むしろ疲れた表情を見せたのだった。やっぱり大雨のなかで走るのは大変ですよね。これを書いている今も、そのときほどではないけれども、やはり雨は降りしきっている。なかなか難儀な状況のなかで、選手たちは力を尽くすのである。みんな頑張って!(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)