BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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セミファイナルダイジェスト

天才ルーキーの蘇生

8R
①中島秀治(滋賀)09
②末永和也(佐賀)18
③黒井達矢(埼玉)19
④山一鉄也(福岡)18
⑤山本寛久(岡山)13
⑥菅 章哉(徳島)12

 ボート界の未来を担うであろう若武者ふたりの好枠対決。結果は……「からつフレッシュルーキー」が「びわこフレッシュルーキー」を一刀両断に斬り捨てた。2コース末永の超鋭角スピード差し!
 スタートはイン中島秀が唯一のゼロ台で他を圧倒した。さらにゴキゲンな行き足を伸ばし、1マークでは外の末永を1艇身以上も千切り捨てていた。ただ、この“大差”は末永の作戦だったかも。スリット隊形で迷わず「差し!」と決めた末永は、素早く1マークを旋回する手段だけを考えていたはずだ。
 大差で先行する中島に対して舳先が届かないレベルで追走し、何の障害物もない状態で鋭角ターン。だから、私の目には中島の旋回と末永の旋回が、シンクロナイズドスイミングのようにまったく同じ弧を描いたように見えた。

 そして、1マークで追い風とともにズルリ外へ流れた中島とは裏腹に、末永の艇は力強く前へ前へと突き進んだ。ホーム追い風は2コース差しを援護するし、「中島秀のイン戦は差されやすい」という新概念データもある。だがしかし、それをもってしても、1艇身以上のビハインドを一撃のターンで逆転した光景は峻烈だった。相棒の1号機の超抜パワーのなせる業か、伸び盛りの若者の天賦の才なのか……おそらく、その両方がない交ぜになってのワンパンチKO劇。私は勝手にそう推測している。

 レース後に号泣した多摩川ヤングダービーから、わずか14日。大量の涙を高度なスキルに変換した23歳が、再び全国のファンの前に立つ。

バースデー・パンチ!

9R
①田村隆信(徳島)09
②川島圭司(滋賀)14
③赤坂俊輔(長崎)12
④森永 淳(佐賀)18
⑤松尾 拓(三重)14
⑥森高一真(香川)21

 赤坂が全速の握りマイで、自ら40歳バースデーの祝砲をぶち上げた。
 前付け必至とみていた森高がダッシュに引いて、最終隊形はかなり穏やかな枠なり3対3。こうなれば格的にもコース的にも田村が絶対有利としたものだが、唯一の不安材料は相棒46号機のパワーだったか。

 8Rの中島秀と同じく、ただひとりのゼロ台スタート。外の川島がじりじり伸びて、それなりに堅牢な壁になった見え方。こちらは逃げ鉄板か、と思えた瞬間、3コースからエイヤの気合で赤坂の強ツケマイが飛んできた。
 その光景は、昨日のトライアル6Rの①山崎郡×③山一鉄也の攻防と瓜二つだった。後に勝った山一が「自分の機力が良かったというより、明らかに山崎が転覆で足落ちしていた」と語っていたが、この瓜二つの光景も田村の劣勢パワーが影響していた可能性は高い。赤坂に飛びついて、しばし舳先を並べて、踏みとどまったかと思った瞬間にスーーッと突き放され、ファイナル1~4号艇の圏内から脱落した。

 見事にバースデーウインを飾った赤坂12号機だが、私はその機力をあまり高く評価していない。特にストレート足は酷評の部類。前検のスタート練習から両サイドに出し抜かれる見え方だったし、いざ実戦でもスリットから出て行く気配はなし。その代わりにくるくる小回りができる回り足は上位と見ていて、その評価を変えるつもりはない。
 で、私の勝手な見立てが正しいとするなら、赤坂12号機はたとえば末永1号機よりアミダ抽選が重要になるだろう。できるだけ内へ内へ、ストレート足よりも出足~行き足が生きる枠が欲しいパワーだと思っている。

サバイバルの勇者

10R
①和田兼輔(兵庫)23
②重成一人(香川)21
③西山貴浩(福岡)16
④桐本康臣(三重)13
⑤土屋 南(岡山)15
⑥椎名 豊(群馬)12

 好枠の和田が、薄氷の“イチ抜け”を決めた。決まり手も『抜き』だ。
 この大会の超キーマン西山がどんだけ攻めたてるか。そこに重きを置いて見ていたらば、3コースの握りマイは内・重成のジカまくりと完全に重なって万事休す。作用反作用で重成も流れている間に、もっともスタートの遅かった和田がすたこら逃げ、さらに外から桐本~椎名~土屋がドカドカと差し込み、バック直線は決着つかずの混戦模様に突入した。

 とりわけ最内からゴキゲンな伸び足だったのが椎名36号機。和田と桐本を圧倒する勢いでスイスイすらすら追いついて行ったが、わずかに先行する桐本も黙っていない。椎名の頭をカチ割るような強ツケマイで応戦し、1マークの重成×西山に続いて椎名×桐本が真横に流れている間に、やや劣勢なポジションだった和田がごっつあん差しでファイナリストを確定させた。

 まさに二転三転の1周回。和田苦戦の最大の要因はスタート遅れだったかも知れないが、激しい局地戦の中でギリギリ生き残った運&しぶといレース足は評価していいだろう。今大会に限らず、生死を賭したサバイバル生活でもっとも重要な要素は“強運”なのだから。

強すぎた“3人”

11R
①白井英治(山口)11
②池田浩二(愛知)16
③日高逸子(福岡)11
④萩原秀人(福井)07
⑤山崎 郡(大阪)08
⑥金児隆太(群馬)07

 微かに波乱の匂いを発したのは、↑2コース池田のスリット隊形のみ。すかさず「お転婆すぎるグレーテストマザー」逸子さまが、モーレツな全速の握りマイで引き波にハメ込もうとした。本当にこの人、凄すぎる!

 だがしかし、こんな修羅場はお手の物。池田はその太い引き波を避けるように減速しつつ、経済コースで1マークに到達。何事もなかったかのようにくるり小回り旋回し、ツケマイ逸子さまの面倒を見ていた白井にツツツと肉薄した。お上手すぎる!
 もはや焦点は「白井が逃げるか池田が差すか」の1点のみ。一瞬だけ差しが届きそうに見えたものの、白井の舟の返り~出口の押し足はなかなかに力強く、超難敵をスーーッと突き放して最後のファイナルチケットを手中にした。無傷の3戦3勝、強すぎる!!

 白井の機力評価は、いつでもどこでも分かりにくい。特訓を見てもさほど良さげに見えず、素性そのものが悪いエンジンも多いのに、いざ実戦では出足・回り足を中心にしっかりした足取りで上位着を量産してしまう。ターンがバカッ速い選手とは違う意味で、「機力なのか、選手の力量なのか」が判断しにくい選手なのだな。

 今節もまったく同じ。相棒の30号機は35%のバリバリ中堅レベルの数字だし、地元記者さんの評価も【B+】だし、完全V云々とは無縁のモーターだと思うのだが……今日も私は戸惑いながら、この人機に【出A・直B】くらいの曖昧な評価を授けるしかない。で、ただひとつ断言できるのは、「この程度の評価があれば、白井英治という男は十二分に優勝できる」ということだ。

 嗚呼、それにしても、道中で2番手の池田浩二を追っかけ追っかけ苦しめ続けた逸子ママ……追加配分だけど、あなたが私の心のMVPでありますっ!(photos/チャーリー池上、text/畠山)