BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

優勝戦 私的回顧

HUNTER MOON

12Rファイナル
①和田兼輔(兵庫)14
②赤坂俊輔(長崎)16
③末永和也(佐賀)18
④白井英治(山口)17
⑤田村隆信(徳山)18
⑥坪井康晴(静岡)18

「すえながーーー、ナイスまくり差しっ!!」
「カッコよかったぞーー、アタマ舟券買ってなかったけどぉ!」
「ノスケ(師匠の上野真之介)より強くなれよ~~!」
 レース直後のウイニングランで、若者たちが思い思いに好き勝手なセリフを投げかける。その一言一言に頷き、真っ白い歯をキラキラ輝かせるニューヒーロー。ナイター照明も乱反射して、マジで眩しい。

 そう、友だちのように親しげに話しかけた若者たちよ。君は今日、10月の満月(「ハンターズムーン」と言うらしい)の真下で、ひとつの大きな歴史の胎動を目の当たりにした。老いぼれの私も。やがて複数のSGタイトルを戴くであろうレーサーの、産声を聴いたのだ。

 穏やかな枠なり3対3から、スリット隊形は↑上記のとおり綺麗な横一線。当欄で何度も書いたことだが、こうなってしまえばコースの利がモノを言う。
 外から仕掛け切れずにイン逃げ圧勝。そんな優勝戦を何度も見てきたものだが、今日の私は3コースだけを見つめ続けた。何かが起きる気配が、荒れた若松水面に満ち満ちていた。2コースの赤坂が差しの初動を入れた瞬間、それは起こりはじめる。わずかに舳先を突き出した末永が、その赤坂に覆いかぶさるようなハンドルを入れる。舳先が鋭角な放物線を描き、赤坂を抱きしめるように擦り寄った。そう見えた瞬間、赤坂は引き波にハメられていた。

 ウイリーを2度ほど噛ませた末永1号機は、スッーーッと舳先を伸ばして逃げる和田に襲い掛かる。スリット隊形で圧倒的有利だったはずの、しかも1マークを完璧に先取りしたはずの和田に、ギリギリその舳先を突っ込む。
 初動からここまで、5秒くらいだろうか。どこまでが天性のターンスピードで、どこまでが1号機のサポートなのか、よく分からない。勝手に推測するなら、スピードが7でパワーが3か。なんにしても、狭い所をあっという間に突き抜ける凄まじいまくり差しだった。

 捕まえた。捕まえちまった。
 ターンの出口で舳先を突き入れた光景を、私は少し呆れながら見ていた。そして、ここから先は今節の圧倒的エースモーター1号機の底力。和田の行き足もなかなかに強力だったが、末永の舳先は楔のように食い込み、和田の絞め込みにも下がらず、逆に突き進み、2マークまでに完全に舳先を揃え、そこで両雄の雌雄は決した。

 うわぁ、歴史がはじまっちゃったよ。
 2マークを旋回して後続艇を千切り捨てた瞬間、私は確かにそう実感した。その予感は、2週間前のヤングダービーから湧き上がっていた。あのシリーズ全体に予兆は満ちていたが、とりわけ優勝戦の最終ターンマークに痺れた。末永自身が悔しがり、ファンに謝罪した忌まわしいポイントではあるが、人知を超えた初動の早さ速さに私は圧倒された。あの時点では、物理学(慣性)の法則に打ち勝てなかったけれど(笑)。

 末永和也クン、デビュー初勝利=水神祭おめでとう! けれど、この優勝は君にとって単なる通過点に過ぎない。
 この大会の勝者に私がちょいちょい使う常套句を、今日も恥ずかしげもなく使わせてもらおう。ただ、その真意はこれまでの勝者とちょっとだけ違う。今日の優勝があるから、末永和也は明日からどんどん飛躍的に強くなる。A1に昇級し、周年記念に参戦し、SGに参戦し、そのいくつかを獲り、超一流レーサーと呼ばれるようになる。2022年10月10日、今日がまさにその歴史の胎動であり、はじまりの記念日だ。「単なる通過点」は、未来の活躍を確信しての予言だと思ってもらいたい。その証人は、スタンドから話しかけた若者たちであり、老いぼれた私であり、若松の夜空にぽっかり浮かんだ美しい満月だ。(photos/チャーリー池上、text/畠山)