BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――高まるピリピリ感

 4日目を迎えて、ややピリピリ感が増したような気がする。ダービーの予選最終日、勝負駆けにはいろいろな意味があるから、そう感じてしまうのだろうか。係留所から視線を下に向けたまま、険しい表情で陸に上がってくる菊地孝平。6号艇1回乗りの予選最終日、得点率2位につけてこの日を迎えたわけだが、当然、見えているトップ通過を意識しているはずだし、ならば6号艇でどんな戦略をとるのか、その卓抜したコンピュータをフル回転させているのがありありとわかる。そして、さらにその先に、チャレンジカップが不出場であること、そしてグランプリに賞金ランク何位で向かうことができるのか、も見ているはず。菊地の様子を見ているだけで、こちらも気が引き締まる。

 田村隆信が話しかけてきた。詳しい内容は明かさないが、鳴門チャレンジカップへの思いもそのなかには当然含まれた。田村は今節、ほとんどその話題を口にしてこなかった。僕もこれまで、田村に対しては煽ってばかりで、それが理由のすべてではないだろうが、勇み足となったこともあったので、田村にはあえて話しかけることをしなかった。だが、田村はやっぱりそれを見据えて常滑に乗り込んでいたわけだし、勝負駆けの日にその思いを吐露した。リラックスした様子ではあったが、気合がとびきり入っている今日であることは間違いない。

 井口佳典の目つきが、さらに鋭くなっている。久々にSGのピットで彼を見て、以前にも見てきた、その張りつめたような表情を目の当たりにできたことは、実に嬉しいことだった。今日は、その度合いがさらに高まっていて、このSG復帰戦への思い入れが強いことがうかがえる。賞金ランクは20位。もちろん、その点についても意識は大きいはずだ。気持ちで走るようなところのある井口だけに、さまざまなモチベーションが絶対的にポジティブに働いているように思える。そして、そう思えることが、またこちらの興奮度を高めてくれる。

 1R、磯部誠は3着に敗れてしまった。これで後半は1着勝負(ボーダー6・00として)。道中、4番手から3番手に上がったことで後半につなぐことができたわけだが、それに対して安堵しているような様子はなかったし、むしろ悔しさばかりが募っているように見えた。レース後、磯部はボートを整備室に運び込んだ。5分ほどで装着場に戻したので、大きな整備をしたわけではなさそうだったが、予選突破へさらに万全を期そうとしているのは明らかだ。

 2Rでは、平本真之が前付けに動いた。6号艇で1着勝負。黙ってアウトから展開を探す気にはなれなくて当然だ。全艇が抵抗で6コースにはなったが、そこに平本の思いはあらわになっていたと言える。レースは不運もあった。田口節子が1マークでキャビって操縦不能のような格好になった、その巻き添えを食ったかたちで4着。だから、いつものように思い切り悔しがるというより、どこかせつない表情になっていたのは印象的だ。どんなに手を尽くそうとも、自力が及ばないところで結果が思うに任せぬものとなるのもままあること。地元中の地元でその憂き目にあったことは、平本を強く落胆させるものになっただろう。

 その2Rは、悲痛なレースともなってしまっている。2艇がフライング。篠崎仁志、そして3日目終了時点で得点率トップに立っていた福来剛だ。ビジョンに「返還①②」と出たときにピットに響いた悲鳴。それはもちろん、フライング自体に対してでもあるし、同時に首位快走の福来が真っ逆さまに奈落へと転落したことへの口惜しさもあっただろう。
 篠崎と福来は4艇がまだレースを走っている間にピットへと戻っている。福来はしばらく中野次郎と会話を交わし、そこを立ち去ることはしなかった。中野と別れ、ヘルメットを脱いだ福来の顔は、蒼白に見えた。大きなチャンスが到来していたはずが、一瞬にしてそれを手放してしまったのだから、その落差に呆然としてしまうのは理解できる。

 篠崎は、エンジン吊りの間に兄の元志と二言ほど言葉を交わすと、すぐに装備を解きに向かっている。着替えを終え、競技本部に向かおうとしたとき、ちょうど5号艇だった吉川元浩と顔を合わせた。篠崎は直立不動で、「吉川さん、すみませんでした」と深々頭を下げた。吉川は軽く手をあげて労い、篠崎は沈痛な表情で吉川を見送り、競技本部へと駆けていくのだった。勝負駆けがもたらす明と暗。暗のほうは、何度見ても、こちらまで痛い。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)