BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――素早い判断

 10R、2マークで丸野一樹が転覆。選手責任ということで、マイナス5点だ。これは痛い。丸野は現在、賞金ランク17位。少しでも上積みが欲しいところを、これで大きく後退してしまったのだから、激痛と言えるかもしれない。34名出場の準優18名だから、通常の52名出場のSGに比べれば、まだまだ望みは残されているが、それでも痛恨には違いない。2年連続グランプリ出場に気合入りだったからこそ、気持ち的な落差は大きいだろう。
 明るく陽気なマルちゃんも、さすがに肩を落としていたレース後。笑顔はなく、転覆整備の間も沈痛な面持ちで、ショックの大きさを物語る風情なのであった。

 26位から逆転グランプリ行きを目指す寺田祥は、最低でも準Vは欲しいところ。まずは何としても予選を突破しなければならないわけだが、初戦は5着と出遅れ気味の初日である。レース後まもなく、寺田の姿は整備室にあった。本体整備だ。6号艇で5着だから致し方なし、とはならず、好枠が回ってくる明日以降に向けて、なんとか上積みしようと模索する。朝もそうだったが、普段のSG等に比べ、大きな整備を決断するのが早いように感じるのは気のせいだろうか。チャレンジカップの性格を考えれば、そういうものなのだなと勝手に納得しているのだが。

 それをさらに感じさせられたのが、10R後の瓜生正義だ。1マークでは外枠勢の後塵を拝するかたちになり、2マークで丸野が転覆、辻栄蔵も膨らんだ展開を利して3番手浮上。瓜生としては、足の良さで(あるいは自分のテクで)番手を上げたという感覚はなかったのだろう。即座に本体をバラしたのである。隣のテーブルで丸野が転覆整備をしていたので(装着場から見れば手前のテーブル)、何かを交換しているかどうかは死角が多くて見えなかった。瓜生は昨日も本体をバラしていたし、6Rはギヤケース交換で登場。機力に不満を抱えているのは明らかで、それが10R後の整備にあらわれたと言っていいだろう。その素早さは、もう時間があまり残されていない時間帯ということもあるだろうが、まさに速攻。瓜生が現在賞金ランク15位という状況を考えれば、それも納得できるのである。

 一方、終盤の時間帯、リラックスして過ごしていたのは田村隆信だ。4Rをジカまくりで快勝。エース機パワーを存分に見せつけた一撃だった。ただ、田村は「まだ出せると思う」と言った。ポテンシャルはこんなものではない、と感じているのだ。そこでレース後に行なったのは、モーターの分解。整備というよりは「洗浄しただけ」とのことだ。こうして組み直すことで、さらにポテンシャルを引き出そうという目論み。勝利者インタビューでは「落ち着いて戦いたい」と言っていた田村は、妙に欲深くなるでもなく、しかし可能性を追い求めながら、落ち着いた判断でモーター洗浄を行なったというわけである。明日は2R4号艇と10R1号艇。一昨年の鳴門オーシャンでは4号艇でフライングを切っているだけに、明日は「落ち着いて」とさらに自分に言い聞かせることになるのだろう。

 女子。平山智加と高田ひかるが談笑していた。ちょっと遠目だったし、マスクもしているので会話の中身はまるでわからないわけだが、インタビューで「進入はどうなるかわからない」と高田マーク策も匂わせていただけに、「マークしちゃおっかな」「ほんとですかぁ?」と勝手に想像(笑)。そしたら、ドリーム戦で展示から平山は6コースに出ており、本当にそんな会話だったのか、と勝手に目を丸くしたのであった。いや、もちろん、実際はそんな会話であろうはずはありません(笑)。

 で、これは女子間でも注目の的だったようだ。平山の胸の内を聞いていたらしい長嶋万記は、丸野の転覆艇引き上げのヘルプをしていたので展示を見逃したようで、こちらの姿を見かけるや、すかさず「展示、どんな並びでしたか?」と質問。教えてあげると、やっぱり目を丸くしたのだった。

 本番、装着場のモニターで観戦していたら、並びが決まったあたりでそこにやって来た細川裕子が「あれ!? なんで⑤が6コースなんですか!?」とビックリ。ピットアウトからの一連の動きは見逃していたようだ。展示からそうだった、と教えると、細川は感心したようにうなずき、ただレースを見ながら「(高田は)そこまで伸びてないかあ」とポツリ。トリッキーな進入が奏功しなかったことに、何を思ったのだろう……。

 マーク策実らずの平山は、やはり残念そうな表情を見せるレース後なのだった。勝つための、あるいは少しでも上位になるために策を練るのは、勝負師として当然。ただしそれが好結果をもたらすとは限らないというのがまた、勝負の厳しさである。この結果をふまえて、また自身の足色も勘案しながら、次にまた高田と顔を合わせたときには勝つための策を練ることだろう。その時に平山が何を見せてくれるか、高田との再戦は楽しみだし、そうでなくとも平山の勝負魂には明日からも注目したい。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)