グランプリ初出場が6名。これは近年ではかなり多い人数だ。まして全員が100期以降なのだから、今年のグランプリは実にフレッシュなメンバー構成ということになる。
グランプリに出場した者の特権のひとつが、グランプリジャンパー。出場しなければ手に入らない、プレミアムなウェアだ。これに袖を通すことは、いわば超一流レーサーの証し。まだレーサーになる前の学生時代、蒲郡BOATBoyカップの読者招待イベントにご母堂とともに参加し、僕と言葉を交わしていたという磯部誠が今日、このウェアを着用していたのは、なんとも感慨深いものだ。ま、レーサー志望の若者と話をした記憶はまったくないんだけど(汗)。この舞台に立つことが夢だった若き日の彼が、ついにそれをかなえた瞬間を目の当たりにしたのは、ひとつの物語に立ち会ったような気がして嬉しい。
羽野直也も今日になって、このジャンパーを着た。昨日より冷えて風も強いから、防寒対策の意味もあるだろうか。それにしたって、このジャンパーをチョイスできるというのは、ついに最高峰の舞台に立ったということを実感させるものではあろう。それにしても羽野くん、このジャンパーが似合っているというか、まったく違和感がないっすね。まるでずっと着用していたように思えるのは気のせいだろうか。ここに来るべくして来た逸材であることの証明でもあろう。
このジャンパーをまったく着ようとする様子がないのが遠藤エミ。ある意味、最もグランプリジャンパー姿を見たい選手なんだけどな。特別なウェアを女子で唯一、着ることを許されたのが遠藤なんだから。で、遠藤は2R発売中にボートを整備室に搬入。モーターを外して本体整備を始めている。前検の手応えが一息だったということで、たった2走しかないトライアル1stということもあり、早々に本体に手をつけたというわけだ。遠藤の本体整備はなかなか珍しいことで、基本はプロペラ調整に根を詰めるタイプ。過去1年ではリングを換えたことが数回、キャリアボデーやギヤケースを1、2度といった程度で、初日に部品交換をしたのも1回だけだ。遠藤は「いつも通り」を強調していたものだが、やはりいつも通りだけでは済まないのがトライアル。そして、それでこそグランプリ戦士であって、気配が上向くかどうかはともかく、この決断は正解だと思う。
初出場組では、椎名誠が早々にボートを下ろして、試運転を行なっている。水面には毒島誠や関浩哉のボートもあって、足合わせを行なっているところも見かけた。前検での手応えは悪くなかったようだが、それをさらに煮詰める作業を行なう初日ということになっている。緊張感も漂わせているのだが、初のトライアルだ、それで当然だろう。
上條暢嵩は2R発売中に着水。こちらも前検はまずまずだったとのこと。外枠ということもあり、さらに上積みをはかりたいところではある。上條も普段よりは緊張の色がうかがえていて、それがトライアルらしさというもの。まあ、松井繁をはじめとして、頼りになる先輩がこのピットにはいる。何も憂うことなく、思い切りのいい戦いを見せてほしいものだ。
初出場で2ndからの登場をつかんだ片岡雅裕は、1R前から試運転とペラ調整の往復だ。もはやいうまでもないが、今日はレースはない。調整だけに時間を費やせる一日だ。だが、むしろたっぷりある時間を目一杯使ってやろうと言わんばかりに、のんびりしたところは少しも見せずに、午後イチから精力的に動いているというわけだ。もっとも、2nd組は片岡に限らず、それぞれに調整や試運転を早くから始めている(山口剛、深谷知博が試運転)。時間があるからゆっくりと、ではなく、時間があるから全部使い切る、という雰囲気である。これもグランプリ独特の空気ということになろう。
シリーズ組では、SG初出場となった島村隆幸が初陣の2Rでカドまくり一閃。初勝利をあげた。3周2マークを回ってゴールラインを向いたところで、丸野一樹が“アリーナ席”でバンザイ! 島村は歓喜とともに同期のアクションを視界に入れたことだろう。ピットにあがると先輩の田村隆信にも祝福されて、充実した表情を見せた。そして、勝利者インタビューのあとはすぐさま水神祭! その模様は後ほど別記事で紹介します!(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)