下克上の天才ターン
11Rシリーズ優勝戦
①毒島 誠(群馬) 08
②瓜生正義(福岡) 21
③宮地元輝(佐賀) 09
④島村隆幸(徳島) 22
⑤濱野谷憲吾(東京)21
⑥石野貴之(大阪) 23
3カドには引かなかった(←私の勝手な妄想でしたw)が、佐賀の伏兵・宮地が3コースから常勝・毒島を大上段から斬り捨てた。日本がスペインに勝つくらいのジャイアントキリングだ。
最大の勝因はスタートか。他艇が慎重になる中、宮地は怯まず突き進んでコンマ09! さらに今節の宮地は、スリットからの行き足が力強い。内で凹んだ瓜生を、1マークの手前で軽く1艇身ほど出し抜いた。
ただ、凸凹のスリット隊形の中、宮地と同じだけ突っ込んでいたのが無敵艦隊スペイン、いや毒島だった。例年、トライアル組からシリーズ組に編成(実質的な降格)されて、モチベーションがダダ下がり選手がいたりするのだが、今節の毒島はどうだ。3日目以降も質のいいスタートを連発し、“SGファイナル”という重いプレッシャーがかかる今日もまた、いの一番のコンマ08! あのトライアル2戦目の鬼気迫る勝負駆けも含めて、「強いブス君が帰ってきた」と思わずにはいられない6日間だった。結果はともかく、私はこの場を借りて予言しておく。
1年後の毒島誠は、間違いなくもうひとつ上のステージで戦っている!
そう、ジャイアントキリングだ。イン毒島と3コース宮地だけが突出した1マーク手前、宮地が最終的に選んだ戦術はまくり差しだった。毒島が先マイするのを横目に、宮地はすぐには舳先を傾けず、ターンマークをオーバーランしたあたりでギュインと舳先を回した。あるいはインコース毒島が有利か、と見えた攻防だったが、そこからの宮地の舟の返りが凄まじい。あっという間に毒島の内を捕え、貫き、突き抜けていた。つまりは、凄いターンだった。
「お、お前は末永和也かーーーっ!?」
思わず心の中で叫んだが、マジで乾坤一擲の天才的な鋭角ターン。開会式でぼんやりした口調で「通常営業で」とつぶやいた男が、凄まじいまくり差しでSGの頂点に立ってしまった。通常営業=いつもの体重で、という意味だったらしいが、この無頼漢の平和島クラシックでの通常営業が大いに楽しみだ。
桐生順平や鎌倉涼などスター軍団の100期から、またひとりの個性派スターが誕生した。やまと学校のリーグ勝率が4点台だった男の下克上は、今日から本格的にはじまるのだろう。
自慢の師匠。
12R GPファイナル
①白井英治(山口)09
②原田幸哉(長崎)07
③深谷知博(静岡)11
④磯部 誠(愛知)16
⑤片岡雅裕(香川)16
⑥馬場貴也(滋賀)21
エージ師匠、おめでとーーーー!!!!
文句なしのイン圧逃劇。文句なしのスタート。浜名湖メモリアル優勝戦のアレもあってちょこっとだけ心配してたけど、コンマ09でスリットを突き抜けた。ただ、2コースの幸哉がそれを上回るコンマ07。そこからの行き足もなかなかに力強く、「地元の意地でジカまくりもあるか!?」という見え方だった。
だがしかし、イン戦の白井はいつも「まくりに来たら、ただじゃ済まさんぞ!」みたいなオーラを発する。まさにホワイトシャーク。今日も私の目にはそんなオーラが見えたし、動物的な勘でそれを感じたであろう幸哉も、すんなり差しに構えた。
勝った。
確信したのはその1マーク。白井のインモンキーは完璧で、初動からスピードから旋回角度から、他艇に脅かされる要素は何ひとつなかった。くるり回って、2艇身差。スタンド大歓声。エージ、エージ、エージ! あちこちで同じ名前が響き渡る。私も「エージ!」と一回だけ叫んで、あとはひとり旅の英治師匠の雄姿を見つめ続けた。
15歳も年下の白井英治が私の“師匠”になったのは、15年ほど前だったか。まだ白井が何度もSGファイナルに参戦しながら、ついぞ勝てなかった時代。ひょんな流れで将棋を指すことになり、「この一局で勝った方が人生の師匠、負けた方は一生ずっと弟子!」という白井の妙な提案で、本気で駒を動かした。中盤までは私が優勢だったと思うのだが、ありえない凡ミスでカナメの馬を素抜きされ、そこでふたりの一生の境遇が決定した。
それからは会うたび私が「あ、師匠」、白井が「おう、弟子!」。その後はSG初優勝の祝勝会に“弟子枠”として呼んでもらったり、ピットで声を掛け合ったり、短い電話やメールをやりとりしたり、今村豊=白井英治の1万分の1くらいの希薄な師弟関係が細く長く続いている。
あらら、なんか「俺はGP覇者・白井の愛弟子だぞ~」みたいな嫌らしい自慢話になってきたが、その通り、自慢させてください(笑)。そんな師匠と、最後にメールを交わしたのはちょうど3カ月前の9月18日だ。あの浜名湖F事件があって、さぞや気落ちしているだろうと思った矢先の徳山周年記念ファイナル。6号艇からゴリゴリの前付けで2コース奪取~激差し一発で優勝!
あまりのカッチョ良さに、酒場で昼呑みしていた私の指が勝手に動いた。
――師匠、藤井聡太も真っ青の光速の寄せVおめでとうございます! 険しい1年ではありますが、だからこそ盤上この一手で宇宙の天辺に立ってください、師匠ならできる!!
返事がきたのは、その夜の7時だった。いつもはちょいとおどけたり、「弟子、お前こそ頑張れ」みたいな高飛車な説教だったり、師匠っぽい文言が届くのだが、その時だけは違った。
『ありがとう!
諦めずに頑張ります。』
はじめての敬語。この短い文面に、師匠のちょいと肩身の狭い境遇と、だからこその内なる決意が感じられた。諦めずに頑張ります。自業自得ではあるが、秋からのSGの権利を失い、重要な賞金ランク6位の圏内からも追い出され、今節は今節で枠番抽選で一度も白玉を引けず(5・3・3枠)、トライアル2ndは6号艇からのスタートだった。
諦めずに頑張ります。
今日の1着は、今日のレースだけの1着じゃない。そんな当たり前のことを思いながら、師匠の雄姿を見ていた。
表彰式では、レジェンド今村豊が感動的な言葉を口にした。
「白井英治は最高の弟子です。日本一の弟子です!」
うーーーん、気持ちいい。だったら私も、1万分の1くらいの薄っぺらな弟子だけど、この場を借りて言わせてもらおう。言わせてください。
白井英治は最高の師匠です。日本一の師匠です!(photos/シギー中尾、text/畠山)