BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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平和島クラシックTOPICS 初日

洗礼

 はじめて最高峰のステージに立った戦士たちが、それぞれの初陣で激しく出鼻を挫かれた。オープニングの第1Rは①末永和也&⑤濱崎直矢が嬉しいSG初参戦。1時間前の選手紹介で末永は「今日、SGで初勝利ができるようがんばります」、濱崎は「ようやくこの舞台に来ることができました。一走入魂でがんばります」とそれぞれの決意を口にしたが、現実は甘くなかった。
 まずは大チャンスのインコースから発進した末永が、あってはならないスリットでの立ち遅れ。前検でも起こしからモッサリ鈍い印象があったのだが、いざ本番でも握ってからの反応が重苦しい。あっという間に2コース土屋智則に半艇身ほど出し抜かれてしまった。この凹みの原因が出足系統に拠るものだとしても、もちろん言い訳など通用しない“選手責任”だ。

 それでもスリットからじわじわ伸び返した末永は、マイシロを削りながら1マークを先制したが、そんな窮屈なターンで勝てるほどSGは甘くない。あっという間に3コースの磯部誠がシャープなまくり差しを突き入れ、最内を小回りした土屋がこれまたズッポリと差し抜いた。「今日のSG初勝利」というマニフェストはこの瞬間に消えた。敗因のすべてがスタート遅れと言いきって間違いないだろう。

 さらに……5コースから出陣した濱崎にも異変が起こる。1マークは外から外へ全速のぶん回し。攻めっ気の強い濱崎らしい好旋回で先団に取りついたかに見えたが、ターンの出口でボートが上下に激しくバウンド。バタバタしながら流れた瞬間、インから勝ちきれなかった末永の艇に接触してあえなく横転した(選手責任でマイナス5の減点)。デビューから19年と10カ月、待ちに待った大舞台の緒戦で大きな借金を抱える船出となってしまった。

 SG初出場の災禍は続く。4R5号艇の中村日向だ。開会式で「自分のやりたいレースが、しっかりできるよう頑張ります!」と高らかに宣言したが、いざ実戦はやってはならないフライング。私が勝手に思うに、ピット離れで凹んで6コースを余儀なくされたのが痛かった。得意の5コース(直近1年で8勝!)から攻めるはずが、大外に回された。その借金をスタートで補填したい。そんな思いが、舳先を前へ前へ突き動かしたのではなかろうか。まあ、なにがどうであっても、文句なしに選手責任のボーンヘッドではあるけれど。

王者の恩返し??

 さて、佐々木完太の5R4着も含めてSG初参戦レーサーが舟券に絡めないなか、【6号艇3着、4号艇1着】と気を吐いたのがSG2サイクル目の近江翔吾だ。レース内容はと言えば、初戦の3着は「前出1R、末永ドカ遅れ&濱崎転覆という波乱に乗じて3番手進出」、後半7Rは「3コース松井繁の強ツケマイに連動してのマーク差し」という“便乗タイプ”の好成績ではあった。それでも、内水域の展開を見ながら機敏に応接したあたりは、2度目のSGの余裕と見ることもできるだろう。

 で、7Rの1着はちょっとした珍プレイでもあった。ピット離れで③松井がよもやのドカ凹み! そこで④近江が絞め込めば、王者は行き場を失い外目のコースか大回りで深い3コースを選択せざるを得なくなったはずだ。もっと辛口でいうなら、そんな風に相手の弱みに付け込んでこそのSG戦士、だと思う。
 だがしかし、近江は絞め込むことなく②松田祐季との間口をつくり、そこに死に体だったはずの王者がしなりしなりと割り込んできた。
 甘いぞ、近江君。
 と思ったのは、私だけではないだろう。あるいは、まんまと定位置に返り咲いた松井もそう感じたかも知れない。そうじゃなくても、「絞めないでくれて、ありがとう、近江君」くらいは思っただろう。そして、ここからは私の妄想だが、松井はこう思ったのだ。

艇界の王者たるもの、借りた恩はその場で返す!!
 結果、スリット同体から最近の松井には珍しい締め込み気味のツケマイを放ち、近江に攻めるべき差し場を与えた。もちろん、自身の勝利を理想としつつも、いつもよりアグレッシブに踏み込んだ気がしてならない。終わってみれば、無理に絞め込まなかった近江のマーク差し、1着。
 人間万事、塞翁が馬。
 こんな中国のことわざを想起させる、ちょいと寓話的な7Rの攻防ではあった。(photos/シギー中尾、text/畠山)