BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――グラチャン勝負駆け

「グラチャンって、どこでしったけ?」
 岡崎恭裕に尋ねられた。今年のグランドチャンピオンは徳山開催。その旨を伝えると、はいはいと何度か首肯しながら、岡崎は去っていった。
 これは勝負駆けだな。瞬時にそう理解する。
 グラチャンの選考基準は、SGの成績。そして、選考締切は3月31日だから、このクラシックが最後の勝負駆けなのだ。まず、SG優勝戦完走で優先出場権をゲット。それ以外の選手は、SGの予選得点の総和の上位者が出場することになる。SGで活躍しなければ出場できないのがグラチャンで、選考期間にSG優出がない岡崎はまさに今日から4日間が勝負なのだ。

 岡崎は聡明な男で、特にこうした計算系にはめっぽう強い。予選最終日の得点率計算など、資料を持っているこちらより確実に早いほどだ。だから、自分のSG予選得点や置かれている状況は完全に把握している。その後、ふたたび岡崎が声をかけてきて、「67点でここに来たんですよね。だから予選突破すると100点に乗るんですよ」なんてさらりと言ってのける。例年、100点はほぼ安全圏なのだ(この前後がボーダーになった年もあるにはある)。調べてみると、その通り! さすがである。とにかく岡崎は、もちろんこのクラシック制覇を目標に戦うのだが、同時にグラチャンも念頭に置きながら走るわけである。ちなみに、今節同じく勝負駆けと言えるのは、田口節子、土屋智則、深川真二、河合佑樹、船岡洋一郎、山田哲也、久田敏之、塩田北斗あたりか。もちろん、SG初出場の面々も、優出して完走すれば出られるわけで、クラシックは6月を見据える戦いでもあるのである。

 もちろん、優勝すればグラチャン出場確定なわけで、まずはやっぱり目の前の戦いの頂点を目指すのが当たり前。8Rを4号艇で勝利した近江翔吾も、ピンラッシュならボーダーに届きそうではあるが、そんなことよりも1勝をあげたことを喜ぶ。前半は3着だったから、予選突破に向けて好発進の初日。そのことが気分を上げているわけである。

 9Rを勝った河合佑樹は、クラシック開幕前の時点で選考順位52位。まさにボーダーラインに立っている。今節の予選4日間は、グラチャンを基準に考えれば何としても上積みをして安全圏に突入したいということになるが、それも念頭にはあるだろうけれども、やはりこの勝利自体が嬉しい。出迎えた菊地孝平や井口佳典に称えられれば、端正なマスクから笑みがこぼれる。昨年ダービーは優出に手が届きかけながら、2マークで突進されて後退という悔しさを味わった。その雪辱をここで果たすべく、まずは準優出、優出を視野に突っ走ることになろう。

 ところで、4RでSG初陣の中村日向がフライングを切ってしまった。前半記事で書いた末永和也と濱崎直矢のホロ苦SGデビューをさらに上回る、超痛恨なSGデビューとなってしまった。ちなみに、5Rに登場した佐々木完太も見せ場を作れず敗れている。SGデビュー組にとっては悔恨ばかりが残るクラシック初日である。しかし、中村は反省しながらも前を向いている。今日はその後、最後まで試運転を続けた。末永とも何度も足合わせを行なって、明日以降の戦えに備えたのだ。明日からは外枠が回ってくることになるが、水神祭を諦めず、スタートには気を付けながら奮闘してもらいたい。

 で、その5000番台の若者と同じタイミングまで試運転を続けていたのが松井繁なのだ。松井は7R2着と、まずまずの発進だったのだが、そんなことは関係ない。納得のいかない点があれば、それを解消するべく、遅い時間までとことん究明するのである。そうした姿はこれまでにも何度も見てきたが、5000番台の選手とともに水面を疾駆する姿を見て、改めて感服した次第だ。中村も末永も、松井が走っているのには当然気づいていたはず。その背中は、彼らにとって何にも増して重要な参考書である。松井は選手紹介では「最終日まで全力で頑張ります」と口にするが、それは決して単なる常套句ではなく、実際に貫き通す信条なのである。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)