うーん、強い。10Ｒ、３コースからツケマイ一閃の遠藤エミだ。握って、先マイの松尾夏海に並びかけると、出口ですーっと１艇身出ていって先頭へ。足の仕上がりもいいだろうし、もちろんスピードも上位。いったいどちらがより強く作用したのかも判然としないような、完璧な勝利であった。見ていた誰もが戦慄のようなものを感じたか。エンジン吊りで出迎えた近畿勢は感心したように遠藤を称える。カポック脱ぎ場へと向かう途中では山川美由紀など何人かの選手が遠藤に話しかけ、そして遠藤はにこやかにうなずいたりしているのであった。いやー、強い。
松尾の先マイはそれほど失敗しているようには見えなかったのである（リプレイで見ても同様）。しかし、松尾からすれば外からすーっと抜かれてしまった。ピットに戻って来れば当然、呆気にとられたような表情になるというわけである。同期の藤原菜希が両手をボートに見立てて左手（内側の艇）が右手（外側の艇）に抜かれていくアクション。モニターで見たその様子を再現してみせたのだろう。松尾はなおも呆然。藤原は慰めの言葉をかけていたが、１着条件の勝負駆けに失敗したこともあわせて、やはり松尾は釈然としない表情のままだったのであった。
この時点で、遠藤は得点率４位につけたが、上の３人には「トップ通過＝２着条件」を突きつけた格好。その３人はいずれも外枠であり、まさに喉元に匕首を突き付けた格好か。11Ｒはその３人のうち淺田千亜希、櫻本あゆみの二人が登場。６号艇、５号艇という外枠から２連対に絡めるか、という勝負になっていたわけである。
さすがに外枠は遠かった。櫻本あゆみは５着。トップには立てなかったとしても、準優１号艇の可能性はおおいにあっただけに、この大敗での後退は痛い。レース後の櫻本はやはり落胆の様子。ちょっとうつむき加減の目線がなかなか痛々しい。
一方、３着で同じくトップには立てなかった淺田千亜希は対照的な笑顔だった。滝川真由子を抜いての３番手で、これは準優１号艇を決定づけるもの。レース後に歩み寄って平高奈菜とおどけた表情になりながら、親指をクイッ。二人で何度もクイクイとサムズアップしていた。「（３番手になって）やったー、って」と淺田。おそらく３着で１号艇という条件を把握していたのだろう。
もっとも、渡邉優美が勝っていたら、そうはいかなかった。渡邉は勝って遠藤と得点率で並び、しかし上位着順回数の差で遠藤を超えることはできなかった。それでも勝てば、淺田が３着であるならこちらが準優１号艇。しかし差して２着まででは、淺田をも超えられないのである。渡邉はエンジン吊りを終えると、ヘルメットをかぶったまま足早にカポック脱ぎ場へ。まるでカメラマンのシャッターを避けるかのように、歩き去ったのだった。装備をほどいた後も、硬い表情でうつむいて、足早に控室へ。１着しか考えていなかった、そんなレース後であるのは明らかだった。
ただ、結果的に渡邉には準優１号艇が転がり込んでいる。12Ｒで浜田亜理沙が大敗を喫したのだ。10Ｒ終了時点で「上の３人」の１人だった浜田。２着なら予選トップだったわけだが、道中は３番手以降の争いとなり、さらに喜井つかさとの接触で後退（喜井が不良航法）。５着に敗れて得点率を大きく落とすことになってしまったのだ。もちろん渡邉はそれをあからさまに喜ぶことなどないし、また浜田も釈然としないものはあっただろうが、わりとサバサバしているレース後であった。１マークで２番手より前に行けなかった時点でトップはなかったわけで、それもあって割り切った部分もあっただろうか。
というわけで、トップは遠藤エミ。連覇にぐっと近づいたということになる。
２着の大瀧明日香は３着以上が条件で、見事に２着を獲り切った。勝負駆け成功！ レース後、リプレイを見ながら自身が１マークを回って２番手にあがったシーンで、他の選手たちと顔を見合わせてニッコリ！ アタマには届かなかったものの見事なまくり差しだっただけに、これは会心だっただろう。
１号艇の平山智加は大瀧と同じ条件で３着。勝負駆け成功……といえばその通りかもしれないが、そんな心境にはなれない。１号艇だったのだから、ここは勝って順位を上げることを目論んでいたはずの一戦。１マークでまさかのターン漏れ、實森美祐の２コース差しや大瀧のまくり差しなどを許し、いったんは３番手もピンチと見えたのだから、これは悔恨しか残らないレースだろう。出向けた岩崎芳美がもうすでに深刻な顔つきだったし、それに応える平山も何度も表情がカタい。そのとき予選突破という感覚はなかったのではないか。ただただインで失敗したレース……。18位での予選通過で、準優は６号艇。今日の悔しさをバネにして、どんな勝負を見せるのか。平山の意地に注目したい。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
