BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――劇的3R

 今日も2R発走間近の時間帯に「5R展示から安定板」とのアナウンスがありました。その時点では風はわりと穏やかだったのだが、やはり夕刻あたりから強まるという見立てなのだろう。今日、一番乗りで安定板をとりにきたのは、チョーさんこと長田頼宗でした。

 それにしても、今のところは本当に台風が来ているのか、というような天候である。気圧は昨日よりもさらに下がっていて、それが接近の痕跡ということになるのだろうが、1R前には陽が射していて、3R終了のあたりでは南のほうに青空が広がった(水面の上空は雲がかかっていたが)。新田雄史がエンジン吊りを待つ間にそれを仰ぎ見ていると、次々と選手たちがそちらに目をやっていた。我々は「台風ヤだなー。日延べヤだなー」とか思うのが関の山だが、選手たちにとってはモーターの気配にも関わってくる。天候は重要な問題なのだ。

 そんななか、3Rはダイナミックなレースになった。エンジン吊りに向かう西山貴浩が、にこやかに近づいてきて「だからSGは面白い!」と愉快そうに言った。それを僕は勝手に「これぞボートレース!」と超訳する次第だが、レベルが高いからこそ少しの油断も許されないし、スキを見つければ貪欲に突いていく緊迫感がそこにある。

 大峯豊がピット離れでズッた。大峯はなんとかねじ込もうとしたが、誰もそれを許さない。だから大峯は大回りでインを取り返しにいった。それを見た菊地孝平が、ならばと大峯を制してインに入った。それを見てたっぷりと助走のある3コースを選ぶ吉田拡郎。だったらと4カドに引いた森高一真。スタート展示は枠なり3対3だったものが、ひとつの事象で形としては3対3だが、61/2/345と記すべき隊形に一転した。しかも大峯はインを奪われた悔しさを晴らすかのようなジカまくり。森高はカドから伸びて攻め込んで、その展開を湯川浩司と平本真之が突いて極狭の艇団を割っていく。このガチンコ感! 裏返せば、ボートレース界の強豪ばかりが集結するSGだから、そうしなければ勝ち抜けないのである。そんな戦い、面白いに決まっているではないか。

 もちろん、大峯は悔いばかりが残る戦いになってしまった。そして、菊地もまたレース後は悔しさにまみれていた。インを奪ったのは大アッパレ。大拍手を送りたい。しかし、菊地としては勝つためにインに入ったのだ。敗れれば、ましてコンマ24でS後手では、まったく意味がないとばかりに悔しがった。その戦いぶりをこちらは高く評価したとしても、それは菊地には無意味なのである。

 もちろん大峯と菊地には禍根は残らない。たまたま隣同士で操縦席の水を吸い取っていた両陣営。菊地のほうから大峯に「すいません」と謝ると、大峯も手を挙げ、軽く会釈をして応えていた。ルールに則って、お互い正々堂々と駆け引きを繰り広げたのだ。そこに妙な空気が漂うはずがない。

 悔しがったのは平本も同様だ。いったんは先頭を走ったのだ。菊地がインを獲りにいったため、想定外の6コース。それでも最内の、ターンマークすれすれを差し抜けたのだから、その時点では会心だっただろう。しかし逆転されてしまっては、悔しすぎるレースに変換される。悔恨を思い切りあらわにするというよりは、怒りを己に向けているかのような険しい目を見せる、今日の平本なのだった。

 湯川は、自分でも信じられないというような、ちょっと肩をすくめているようにも見えるレース後だった。そんな様子に松井繁や上條暢嵩がやわらかな視線で湯川を見つめる。結果的に、銀河系の森高が攻める展開に乗って上位に進出したわけで、やはり同期の走り方は熟知しているということか。カポック脱ぎ場では楽しそうに笑顔でレースを振り返っていた湯川だが、その奥で森高が苦虫を噛み潰しながらヘルメットを磨いていたのも印象的だった。
 なお、菊地は4着に敗れたことで、後半8Rは1着条件の勝負駆けとなっている。意表のイン獲りからのメイチ駆け、というドラマを作れるかどうか、注目しよう。

 さて、2Rで3着条件の勝負駆けに臨んだ佐藤隆太郎は落水失格となってしまった。6コースからターンマークのキワをまくり差しで狙っていったのだが、ターンマークに激突。6コースから勝負駆けで、イチかバチかという部分もあっただろうか。結果、バチのほうが出てしまった。幸い、身体は無事。出迎えた長田頼宗や齊藤仁らの先輩には「やっちゃいました」というようなバツの悪そうな笑顔も見せていた。勝負駆けは失敗したが、準優出をもぎ取りにいくという姿勢は見せてくれたと思う。最初から結果を出さずとも、佐藤にはまだまだチャンスがある。2カ月後にはダービー出場も決まっているのだ。今節、残り2日ではとにかく水神祭を目指せ! そしてこれを糧にして、ダービーで活躍を!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)