18位ボーダーにしても、トップ争いにしても、混沌を極めていたと言っていい。ピットに突っ立っていると、何人もの選手に「ボーダーは?」と尋ねられたのだ。いちばん胸が詰まったのは、篠崎元志に尋ねられたとき。篠崎は得点率6・00で予選を終えていて、通常なら勝負駆けに成功と言える数字なのだが、上位着順回数の差で6・00組では最下位だったのだ。10Rで定松勇樹が5着に敗れて6・00まで数字を下げ、しかし順位は元志より上。定松はそのときまさに18位だった。元志は20位。11Rの結果でどうなるか、を元志とともに計算する。18位以内にいる選手では、佐藤翼と前田将太が6着で5・83。しかし、6着が2人ということはありえない。その時点では元志より下に位置していた馬場貴也が大きな着を獲れば、元志の浮上はありうるが、馬場は1号艇である。元志は運命を悟ったかのように「もうダメですね」と言って、控室へと戻っていった。その諦めの境地になった表情を間近で見るのは、とにかく辛かった。
11Rで馬場貴也が逃げ切り、一気に16位へと浮上した。つまり、定松もまたボーダー下にこぼれたのである。定松は10R2号艇でスタート後手(に見えた)。あれさえなかったら……などと考えていたら、定松が「乗れませんでした」と声を掛けてきたのである。定松は自分の置かれていた立場を把握していたということだ。馬場が逃げ、佐藤と前田が舟券絡みで上がってきた時点で、自分が19位に落ちる。そうわかっていた。声を掛けてきたときの顔つきは意外や明るかったのだが、それは本音ではないと思う。なぜなら、定松のほうから声を掛けてきたのはこれが初めてだからだ。そのとき、ダメだったと誰でもいいから声に出して言いたかった。そんな心境はよくわかる。それはつまり、悔しさの証しだ。モーターがいいだけに、これはなお悔しい。この経験は定松をさらに飛躍させるだろう。
18位ボーダーは桐生順平である。桐生は8Rを逃げて勝負駆けを成功させた。今節は苦戦気味だっただけに、安堵は大きい。18位ということは6号艇で準優出走。もちろん諦めるはずがない。桐生はレース後、機歴簿を入念にチェックしていた。これまで行なわれてきた整備やその気配などが記されているものである。パワーアップするために、つまりは準優で一発勝負するために、できることはないか。それを模索していたということだ。ひとまず整備を始めてはいなかったが、明日は直前情報に注意したい。
トップ争いでは、9Rで池田浩二が1着で8・00。2着で7・67で、結果的にはこれでよかった。しかし4着。池田はわかりやすいほどに顔をクシャクシャにしているのだった。それがトップ争いから後退したことが理由だったのか、単に大きな着を獲ったことが理由だったのかはわからない。しかし、あからさまな悔しがり方は、この9Rに勝負をかけていたのは明らかなのだった。
10Rでは石野貴之が1着で8・00。3コースからコンマ04の快ショット。定松がS後手と書いたが、石野が渾身のスタートを決めていたのだ。しかし、瓜生正義、森高一真にズブズブと差されて3着。攻めた結果だから、はこの場合慰めにもならない。ピットに戻ってきた石野は、ヘルメットの奥で目つきが憤怒していた。エンジン吊りで出迎えた松井繁も、声をかけずにそっと寄り添うのみ。明らかに1位を狙って勝負に出た、のである。
11Rでは峰竜太が3着以上でトップ通過だったのだが、これが4着。着順が1つ足りなかった。峰には宮地元輝が寄り添ったのだが、峰の表情はやけに暗いのであった。これも、明らかに本気で1位を狙っていた証しであろう。悔しさを隠そうとしているのだろう、敗れても笑みを見せることも少なくない峰である。そう振る舞う余裕がなかった、と考えれば、その顔つきは峰の本音も本音。トップを逃したことは痛恨の極みだったのだ。
結果、トップ通過は平本真之! 11Rのエンジン吊りに出てきた面々は、その時点でまさに誰がトップか把握し切れておらず、ここでもさまざまな選手に「トップは?」と尋ねられることになる。把握していなかったのは、当の平本自身も! 指摘されて平本は、目を丸くしていたのだ。その後は当然、報道陣に囲まれることになるわけだが、突如として主役に躍り出たことに少々戸惑い気味にも見えた。「緊張しちゃうな~」と言って報道陣を笑わせていたが、案外本音かも!?(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)