何度も何度もガッツポーズを見せる桐生順平。同期の宮地元輝が「あんなにガッツポーズしてる順平、初めて見ましたわ」と呆れたように言う。そして続ける。「地元だから、本当に嬉しかったんでしょうね」。地元ではないけれどもデビューのころから強い思い入れを抱いていた福岡周年を制したとき、宮地もとてつもないガッツポーズをしていた。それを思い出したのだろう。やはり地元でのビッグ制覇は格別!
まあ、宮地はその後のグランプリシリーズ制覇でも強烈なガッツポーズを見せていたように、そういうキャラである。しかし桐生順平は違う。むしろクールに振る舞うキャラである。これまでのSG制覇でも、もちろん歓喜をあらわしてはいた。しかし、ここまでだったという記憶はない。とにかく、派手な言動はしないタイプなのだ。BOATBoyでも何度かインタビューをしているが、「面白いこと言えなくてすみません」なんて言われたことすらある。そんな桐生がひたすらガッツポーズを繰り返したのだ。
ピット前に戻ってきたときもそうだ。ボートリフト前では、ピットで働く方々や戸田の関係者の方がレースを見守っていた。桐生がまくり切った瞬間、みな拍手を送っていた。その彼らが、リフト前で桐生を待ち構えていたのだ。桐生はその方向に向かって何度も何度もガッツポーズを見せた。係留所にあがって行なわれたヒーローインタビューでも同様。さらに、その後のウイニングランでもそうだった。ファンの歓声にこたえて何度も何度も右手を、両手を掲げた。踊るような仕草もあった。はしゃいでいると言ってもいいくらいに、桐生は弾けまくったのだ。
「嬉しすぎるーーーっ!」
レスキューを降りるとき、桐生はそう叫んだ。そう、とにかく嬉しい!
「あまりに嬉しすぎて、嬉しい以外の表現が見つかりません」
記者会見でそう語る桐生。そう、とてつもなく感動的な出来事が我が身に起こったとき、人は極めてプリミティブになっていくものだ。うまいことなんか言えない。明日になれば、あるいはもっと時が経てば、それを別の言葉で表現することができるかもしれないが、今この瞬間、桐生の頭に思い浮かび、口からこぼれる言葉は「嬉しい」しかない。
そして、その発露が何度も何十度も繰り返されたガッツポーズである。とにかく、こんな桐生順平を見られるのは、貴重ですぞ! 今度いつ、ここまで弾ける桐生を見られるか、まるで想像もつかない。
そしてそれは、地元SG制覇という夢をかなえたことがもたらしたものである。なにしろ、桐生がA1級に定着して以来、あるいはGⅠ初制覇となった14年ヤングダービー以降、戸田でのSGは今回を含めて3回しか行なわれなかった。グランプリを勝つことも夢だったというが、グランプリは毎年ある。桐生ほどの選手になればチャンスも毎年ある。しかし、戸田ではなかなかSGが開催されなかったのだ。戸田SGを優勝するというのは、なかなか現実味を伴うものではなかっただろう。それが、今回果たされた。そりゃもう、「嬉しい」しか言えないでしょう。何百回だってガッツポーズするでしょう。それくらい、桐生にとって幸せな結末だったのだ。
2着も地元の佐藤翼。桐生は会見で「埼玉県民には当ててほしい舟券ですね」と言って笑いを誘ったが、埼玉のボートファンにとっても幸せな結末。もちろんボートレース戸田にとっても最高のハッピーエンドだった。
3着の毒島誠は、悔しさを見せながらも「順平が凄かったですね」とあのツケマイ一撃を称賛。峰竜太は顔を歪ませて悔しがっていたが、「完敗です」と桐生に脱帽だ。この強豪たちが脱帽するほど、桐生は素晴らしい勝利を見せつけた!
これで賞金ランクも2位に浮上した。もちろんグランプリ出場は当確で、トライアル2ndから出場することになりそうだ。もし2度目のグランプリをこの年末に果たしたとき、桐生はどんな振る舞いを見せるのだろう。今日の幸せすぎる姿を見ただけに、それが非常に楽しみになってきた。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)