
11R。平本真之が、右手を胸に当てて、顔をしかめながら引き上げてくる。逃げ切ったのだ。吉田裕平がガッツポーズで出迎えると、平本も諸手をあげてそれに応えていたのだ。しかし、引き上げる際の平本はといえば、心臓の強い鼓動を押さえきれないようだった。
それくらいに高ぶり、緊張もし、不安も抱き、しかし強い気持ちで白いカポックを着たのだ。これぞトライアル! 平本は、16年も1stの1号艇で登場し、3着に敗れた。これでリズムを崩し、結局シリーズ回りに。そのときの失敗も頭をよぎったかもしれない。そんなこんなを乗り切った今日。平本は、カメラマンのレンズが自分に集中しているのに気づくと、力強くガッツポーズ。感情を隠さない平本が、今までに見せたことのない勝利後の表情だった。

それにしても、関浩哉の逆転2着は凄かった。2周2マーク、ツケマイで先行する宮地元輝を抜いた瞬間、たまたま隣で見ていた丸野一樹が「すげえ…………」と呟いて絶句していた。レース後には、西村拓也が後ろから両肩を抱いて「えぐいっ!」と称えている。関の表情はどこか淡々としてもいたが、やはり明るさもたたえていた。グランプリ初戦としては上々! 闘志はさらに高まるに違いない。あと、毒島誠がどこか満足そうに見つめていたのも印象的だった。

抜かれた宮地はといえば、右手を硬直させ、訝しがるような表情で引き上げている。「2周目から右手がつって……何もできなかった」。えっ、そんなことがあるの!? 関の逆転を許したのは、どうやらパワー的なものや関の峻烈な走りだけが原因ではなかったようだ。どうやら行き過ぎた減量が異変を引き起こしたらしい。そんな宮地に、峰竜太が慰めの意味も込めた笑いを送る。ほんと、こんなことってあるんだ……。だが、これもまたトライアル! 宮地はそれだけの思いを込めて、とことん減量して住之江に乗り込んだのだ。それが今日は着を落とすことにもなってしまったが、これを糧に明日は巻き返しをはかるだろう。とにかく今日は、少しは水分を摂ったほうがいいと思いますよ、宮地選手!

12R。こちらも逃げ切り決着。菊地孝平が勝利をおさめた。平本とは対照的に、ただただ明るいレース後。「興奮している」と語っていた昨日の共同会見、そしてオープニングセレモニー。その興奮が逃げ切ったことでさらに高まったような雰囲気だ。スタートタイミングはコンマ02。瓜生正義に「フライングのようなものだよね」とからかわれて、「すみません!」と頭を下げたが、もちろんお互い冗談めかしたやり取り。なによりお互い明るい! 菊地も入っている確信があったからこそのキワスタートだろう。

2着はこちらも群馬勢で土屋智則。1マークは土屋がここぞで見せるジカまくりで、これで定松勇樹が攻め切れなかったことで、結果的に2番手を確保することとなった。競り合った選手たちに頭を下げる土屋だが、してやったりの部分もあるだろう。昨年はトライアル1stで敗退しているが、その二の轍を踏むまいと繰り出した勝負手だったはずで、どこか会心の気配も漂っているのだった。

一方、3番手を競り勝った定松だが、やはり1マークで思うような攻めが出せなかったことが悔しいのか、首をひねり、顔をしかめるレース後だった。多くの選手が対岸に映し出されたリプレイに見入るなか、定松は一瞥しただけで踵を返し、控室へと歩を踏み出している。リプレイを見るまでもなく、不本意な1マークだったのだろう。

その定松と3番手競りになった松井繁は、対照的にリプレイを最後まで見つめていた。2番手もあるかという展開だったが、最終的には5着。これは痛恨だし、その要因をリプレイで確認するのも至極当然だ。最も悔しがったのが3周1マーク。定松の外並走で、やや張られながらの旋回は、上條暢嵩の先マイを許し、着を落とすことにもなってしまった。そこで松井に声を掛けたのは峰竜太。その後、松井と峰はレース展開について話し込んでおり、峰の言葉に松井が「あぁ、そうか」とうなずく場面もあった。超最高峰同士の会話! この二人の絡みはあまり見かけないだけに、これもまたトライアルの激戦が生み出した光景かと思えば、なんとも胸が高鳴りますね。


枠番抽選は、今年もドラフト形式。6人が初戦の上位着順から封筒を引き、合図で一斉に封筒の中身を掲げるというもの。A組は11R5着の河合佑樹が残り2枚のうち1枚を選び、12R6着の西山貴浩が残った1枚を「これは迷うなあ」と軽口をたたきつつ引くという光景になったのだが、河合が引いたのが6、西山が引いたのが2。西山は6号艇を引きかねない状況だったものが、河合のチョイスによって2号艇となったのだった。当然この男のことですから、「ナイスっ!」と河合をからかっておりました(笑)。
なお、1号艇を引いたのは関浩哉と土屋智則。群馬勢! これは群馬に流れが来ている? ギャラリーに加わっていた毒島誠にとっても、心強い流れかも。
トライアル1st第2戦
11R
①土屋智則(群馬)
②西山貴浩(福岡)
③平本真之(愛知)
④宮地元輝(佐賀)
⑤上條暢嵩(大阪)
⑥河合佑樹(静岡)
12R
①関浩哉(群馬)
②松井繁(大阪)
③菊地孝平(静岡)
④佐藤翼(埼玉)
⑤瓜生正義(福岡)
⑥定松勇樹(佐賀)

シリーズ。夜になってかなり冷え込む住之江、そんななかで“若手”が水面を疾駆する。豊田健士郎、佐藤隆太郎、末永和也。いずれもシリーズ初出場で、この特別な空気に初めて身を置くことになっている。豊田は、装着場のモニターでレースを観戦しながら、井口佳典にグランプリはどうこう……と質問を投げかけていた。三重勢は残念ながらグランプリには誰も送り込めなかったが、それでもこの場所をよく知る井口先輩に尋ねておきたいことはたくさんあるだろう。もちろん、将来11Rと12Rを走るために。

それにしても、末永はこれが初の住之江参戦とは驚いた。デビューから5年半が経っていて、A1級で斡旋数も多いのに、これだけの長きにわたってまだ走ったことのない水面があるとは。だから末永の場合、水面に慣れるためにもできるだけ長く走っておきたいという部分もあるかもしれない。1期下の定松勇樹は上の舞台を走る。そのことに刺激を受けながら、はじめての住之江水面を懸命に走り込む末永だ。

さて8R。深谷知博が吉田裕平のジカまくりに乗るかたちで差し切り勝ち。今日は6号艇2着に3号艇1着と好発進である。なんとなく忘れがちだが、深谷はシリーズの前年度覇者。昨年はトライアル1stで敗退してシリーズに回ったが、今年は無念のグランプリ不出場。ならば、目指すは連覇のみだろう。レース後は吉田や、出迎えた井口らと笑顔でレースを振り返り合っていた。上々の初日!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)