BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――“三度目の正直”

 想像していたよりも、歓喜が高まったという感はなかった。ピットに凱旋して、出迎えた仲間たちに右手を掲げて応えたけれども、そして最高の笑顔も見せたけれども、高らかに凱歌をあげるという雰囲気はあまり感じられない。平高奈菜のGⅠ初制覇は、20年クイーンズクライマックス。舞台は同じ浜名湖だ。あのときのピットでの平高を思い出せば、もっとはしゃいでいたような記憶がある。間違いなく、4年2カ月前よりはずっと穏やかな勝者と見えた。
 会見で語ったところによれば、とにかく安堵が大きかったようだ。その安堵をもたらしたのは、大きな緊張感。午前中の様子からはそうとは思えなかったし、同じ舞台での優勝戦白カポックを経験していたことを思えば、平常心で戦えてもおかしくないと思っていた。しかし、平高の緊張は高まっていたようだ。

 もたらしたのは2度の失敗。21年と22年、クイーンズクライマックスで優勝戦1号艇に入った平高は、ともに敗れた。実に3年連続でクイーンズクライマックス優勝戦1号艇というある種の快挙を果たしながら、そのうち2回は飛んでいるのだ。「さすがに3回目ともなれば、立ち直れる気がしなかった」。あの失敗を繰り返すことは許されない、そう思えば緊張感が襲うのは当たり前だ。
 だから、先頭でゴールして“三度目の正直”を果たした瞬間はまず安堵。そして頭が真っ白になって、優勝した実感が湧かなかったという。今度は失敗せずに済んだ、そういう思いが強かったということだろう。なるほど、歓喜が大きく見えなかったのも納得である。

 ただ、それはピットにいる間にもじわじわと湧いてきたのではないかと想像している。次から次へと、平高に祝福を送る仲間たち。出走ピットで記念撮影をしている間にも、装着場からおめでとうの声は引きも切らない。ウイニングランに向かう際には、長嶋万記がわざわざピットまで降りて平高を称えている。そうしたみんなの笑顔を見ながら、自分が祝福を受ける立場だということをきっと、感じていたはずだ。

 そして、この勝利で平高には吹っ切れたものもあるはずだ。一時はA2級落ちもあった昨今。SGファイナリストであり、女子でも屈指の実力者であるはずが、その実力を発揮できない時期が続いた。昨年はクイーンズクライマックスに復帰し、さらにスピードクイーンの初代覇者となった今日、やっと平高らしさが戻ってきたとも思えるのだが、本人はそれでも「本調子ではない」と会見で語っている。ただ、ここで何かを吹っ切ったのなら、本調子に戻る日はそう遠いことではないだろう。平高奈菜、完全復活と言える瞬間はきっと近いし、いや、こうなったら復活ではなく、さらに強い平高奈菜を見せてもらいたいと願う。
「できれば記念に戻りたい」、会見ではそう言った。以前、平高からもっと記念で走りたいという言葉も聞いたし、その先には当然SGがある。それを意識できなかったここ数年かもしれないが、今日優勝して、その言葉を口にしたからには、もっと強い平高奈菜を見せてもらいたいし、見せてもらわねば困るというものだ。

 そうそう、会見では「表彰セレモニーでは言い忘れた」と、こう付け加えている。20年クイーンズクライマックスはコロナ禍の開催で、表彰セレモニーは無観客で行なわれている。寂しかったそうだ。でも今日は、たくさんのファンがセレモニーに駆けつけた! そのお礼と、恩返しができてよかった、それが平高が付け加えたことだ。セレモニーでファンが送った祝福、スタンドからの声援や祝福、もちろん本場には来られなかったファンの思いは平高の心に届いている! それはきっと、今後もファンに平高らしいレースを見せようという強い思いにつながることだろう。

 川井萌のことも伝えておきたい。身体は無事である。控室で着替えを終えたあと、すぐに整備室に向かって転覆整備を行なった。その最中には、長嶋万記に促されて、報道陣にコメントもしている。気丈にそれらをこなしてはいたが、やはり元気はなかった。当然だろう、優勝戦での転覆で、申し訳ないという思いが胸中を占めていれば、どうしても意気は上がらない。
 ただ、1マークで放ったツケマイや、番手争いとなった山川美由紀や川野芽唯に対して果敢な外マイの連発は、心震えるものだった。まさにチャレンジャーらしい戦い。そして、レースタイトルにふさわしい、先輩に対するスピード勝負。それが転覆をも招いたとしても、その健闘は称えられなければならない。これが彼女をさらにさらに成長させる経験なのだと信じて、この戦いを見せてくれた川井の走りを今後も注目していこう。

 その川井の攻勢を受け止め、しのぎ切ってみせた山川美由紀もやっぱり凄い! 結果的には香川ワンツー。第1回に刻んだ香川勢の名前。いや、そんなことより、スピードが注目される大会で、ボートレースの奥深さと山川が積み重ねてきた経験の凄まじさをまざまざと見せつけられた。それは感動的である! 公開インタビューで「(出場できるのは)たぶん今年が最後」と笑っていたけれども、来年の鳴門でもその姿を見せてもらわねば困ります! やっぱり、山川美由紀は偉人だ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)