BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――眼力

 徳山のピットは、スタンドの並びから2マーク奥にかけてクランク状の構造。装着場や整備室などがスタンドの並びで、競技棟(競技本部や選手控室、本番&展示待機室などが入る建屋)が2マーク奥に位置する。そのちょうど角っこにあたる部分の水面際には転落防止網がかけられた手すりがあって、ここからは水面がよく見えるので、試運転などを眺める時にはここに陣取ることが多いワタシです。

 9R発売中も中村晃朋が試運転を頑張っている様子を見ていたら、丸野一樹がそこにやって来た。足は悪くない、などなんだかんだ話をしているうちに、9Rが発走。ここで一緒にレースを見ることになった。ただ、ご存じの方も多いように、徳山は対岸に大型ビジョンが設置されていない稀有なレース場(徳山と江戸川のみ)。実はレースを見るには適していない場所なのだ。進入が固まり、大時計の12秒針が回る。そして、スタート!……いや、スリット隊形がまったくわかりません(笑)。だって、全艇を後ろから眺めているわけだから。

 ところが丸野が「あ、4番が行った」と言ったのである。えっ、うそ、そうなの? 山田康二が行った!? とぼそぼそ呟くと、「あ、ヤマコーさん」と丸野。実はワタクシ、極度の近眼で、コンタクトレンズはしているが遠くを見るのは心もとない。先ほど記者席に帰ってリプレイみたら、ほんとにヤマコーさんが外マイにいってるじゃないですか! 選手の視力、すげえなあ。

 いや、視力だけでなく、おそらくは6艇の勢いだったり、旋回の様子も丸野はちゃんと見えているのである。10R発売中、またもや同じ場所にいると、やって来たのは西山貴浩。今日も昨日同様、とことん試運転を行なっていて、僕はそこでまさに西山が頑張っているのを見つめていたのだった。赤灯がついて試運転タイムが終わり、ちょっと休憩、というところでそこにたたずんだハゲデヴに気づいたのだろう。「クロさん見ると酒呑みたくなるやないですか!」と軽く抗議を受けながら、なんだかんだ話をしているうちに、10Rが発走したのだった。
 はい、同じくです。僕はレースの様子がよくわからない。しかし西山は「平本さんや!」と叫んだのである。3コースからまくり差した平本真之。僕もさすがに、赤いカポックが白いカポックの内側にいるのは見えた。「届いてるのかな?」と呟くと、西山は「届いてますよ」と、アンタ見えてないのかよという風情で軽く返してきた。えー、帰ってきてリプレイ見たら、ターン後期でもうイン吉田拡郎に届いているじゃないですか。つまり、吉田の足色や平本の足色、勢いや走っているラインなど、西山には見えていたということである。選手の視力というより、眼力がすごいわけなのだ。

 もう10年以上も前だと思う。浜名湖周年の取材時のこと。浜名湖のピットは丸ごと2マークの奥。そこから井口佳典が水面を眺めていたのである。水面には試運転をしている艇が1艇、いた。三重支部の後輩である岡祐臣だった。井口は岡の走りを見ていたのだ。そして「良くなってる」と言った。アドバイスでもしたんですか、と問うと、「あいつ、今日になって(たしか3日目か4日目)やっと言ってきたんですよ。何でも教えるのに、もっと早く言って来いってんですよ、まったくもう」と井口。つまり岡が井口に教えを乞うて、井口は「やっと来たか」とアドバイス。そのおかげで気配が上向いた、ということ。同支部でも聞きに来るまでは相手を尊重する、という姿勢にも感嘆したが、それよりも「1マークの気配、見えてるの、井口さん!?」と驚いたのだった。僕にはボートが1艇、旋回しているようにしか見えませんでしたから。ほんと、こうしたちょっとしたことで、選手の凄さを知ったりするのである。

 で、西山が見抜いていた平本真之のまくり差し。そりゃもう、レース後はゴキゲンなのである。悔しさを隠さない男・平本は、喜びだって隠さない。間違いなく、調整がうまくいって、評判機である74号機は本領を発揮したのだ。池田浩二も、からかうように平本を称える。同期の新田雄史もニコニコだ。もしかしたら、平本が調整に苦慮する姿を見ていたのかもしれない。池田も新田もなんだか嬉しそうに見えた。ちなみに、西山も平本が必死に調整する様子を見ていたそうです。あの調整があの足になったか、という感慨が「平本さんや!」という叫びだったのかもしれない。

 さてさて、前半の記事で白井英治が本体整備をしていたと書いたが、9R発売中に見に行ったら、やはり整備をしていた。というか、整備を終えたところだった。聞くと、中盤の時間帯に試運転をして、ふたたび整備室にこもったのだそうだ。朝見た整備も点検程度ではなく、かなりパワーアップを意識したものだったということになる。
 9R発売中のうちに白井はモーターを装着して水面へ。10R発売中には12R組のスタート特訓に参加している。すると、白井がまたもやボートを陸へあげた。そして、そのままボートごと整備室へ。モーターを外して分解を始めたではないか。11R発売中には展示ピットにつけないといけないというのに、このタイミングで本体を割る!? しかもピストンを取り出しているのを目撃。直前情報によると、部品交換なしで12Rには臨んでいるから、いちど交換したピストンかピストンリングを元に戻したのだと思われる(なにしろ声を掛けるタイミングがまるで見つからなかった)。とにもかくにも、今日の白井英治は朝から整備しっ放しの一日だったのだ。結果にはつながらなかったが、この思いが明日以降に活きていくと信じよう。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)