BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

足りないもの

12R
①西山貴浩(福岡)11
②馬場貴也(滋賀)14
③河合佑樹(静岡)16
④佐藤 翼(埼玉)16
⑤羽野直也(福岡)18
⑥中島孝平(福井)18

 西山が勝った。
 いざ実戦に関して、書くべきことは少ない。圧倒的人気のイン戦で公約どおりトップスタートを切り、まずは大事な第一関門を突破した。スリット隊形は上記のような真っすぐの右肩下がりだから、イン選手にとって絶好の隊列だ。が、4カドからじんわり翼が舳先を伸ばした。

「つばさぁ、来るな、来るなよ~~! そればっかり見てました」
 伸び足に活を入れたであろう翼が強引に絞めたが、スリット同体の河合が艇を合わせてブロック。それで、センター2騎の勢いはやんわり削がれた。まくり勢は大丈夫とみた西山は、今度は別のレーサーに注意を払う。怖い怖い、スピードスター馬場。

「1マークは馬場さんに差されんように。それだけを考えてました」
 実戦での最大のハイライトは、まさに第二関門1マークの攻防だろう。西山のインモンキーは非の打ちどころがなかった。馬場に差されないよう1マークの手前でスッと減速し、差し場に重い引き波を残してからターンマークを舐めた。舐めるように、という比喩ではなく、舳先を数ミリ擦らせながら低速で旋回している。

 例によって早くて速い初動を選択していた馬場は、直後に自慢のスピードを殺された。眼前のマイシロがまったくなかったから馬場も減速し、ほんのわずかにハンドルを切り直しながら窮屈な旋回を強いられた。ここで勝負あった、と断言していい。
 前門の虎を目で追って危険度を察知しつつ、後門の狼の鋭い爪を封じた。
 そんな感じの1マークではなかったか。あとは一人旅だから、これでもう勝者のレースについて書くべきことはない。それに、このレースを観戦した日本中の多くのファンにとって、「西山がどう勝ったか」は副次的なお土産でしかないだろう。

 西山が勝った。
 とにかく、この6文字が何物にも代えがたいほど大切なのだ。
「ほっとしました」
 レース後、本人は何度かこう言った。勝者の常套句として、よくよく使われる言葉だ。が、西山の「ほっとした」には、常套句とはまったく別物の重みを感じた。そして、その後のセリフがまた重い。
「言葉でなんぼしゃべっても、どうしても足りないものがSGでしたから」

 うむ。この「足りないもの」は自分自身に足りないもの、だけではないはずだ。西山がしゃべってしゃべってボートレース界の人気者になればなるほど、「足りないもの」は多くのファンの中にも沈殿していく。デビューからちょうど20年。艇界きってのお祭り男のコメントやパフォーマンスに爆笑しながら、ボートレースファンは「足りないもの」をじんわり感じ続けた。「ま、深く考えないようにしよ」などと心の中でお茶を濁しながら。

 西山はそんな目に見えない重圧をじんわり沈殿させながら、しゃべり続けている。ファンの爆笑を誘い続けている。そして、己の実績をはるかに超える人気を抱え続けている。否応なしに。

 昨夜、徳山の屋台でひょんな偶然から、まったくボートレースを知らない隣客に「西山貴浩とはどんなレーサーか、西山にとって明日の優勝戦はどんな意味があるのか」を説明する流れになった。少し考えてから、こう答えた。
「たとえば、打率も打点王もホームラン王も獲ってないプロ野球選手が、人柄が好かれて毎年毎年オールスター投票の第2位に選ばれている。そんな選手が、明日ホームランを打てば初めてホームラン王のタイトルを手にする。やっとファン投票に見合うだけの選手になれるし、日本中のファンもその瞬間を心待ちにしている。そんな感じです」
 このたとえ話が合っているかどうかはともかく、今日の優勝は西山本人だけでなく、全国のファンも、ボートレース関係者も、なんなら多くの選手たちも西山と同じくらい「ほっとした」のではないだろうか。

 ニッシヤマ、ニッシヤマ、ニッシヤマ……
 SG初Vのゴールを通過すると、期せずしてスタンドの観衆から西山コールの大合唱が湧きあがった。デイ開催での選手コールをはじめて聞いたが、その声の集合体は住之江の石野コールとはまったく違う音色に思えた。どちらかといえば、デビュー17年でSGを獲った若松の白井英治のそれに似ているな、と思い、いやいや、またそれともちょっと違う響きだな、と思い直した。
 その色合いを具体的に説明するのは難しいしよくわからんのだが、ただひとつ実感できたことがある。妙にあったかい色のニシヤマコールを聞きながら、私はひどくほっとしていた。足りないものが満たされたような安堵を感じた。きっと、みなさんと同じように。(photos/シギ―中尾、text/畠山)