魔法少女とふたりの魔女

「萌の分まで、がんばります!」
選手紹介で同期・川井萌のリタイア(怪我で宮島ヤングダービーも欠場予定)を惜しんだ清水愛海が、さっそく有言実行のパフォーマンスを披露した。つか、空恐ろしいターンの連続だった。

4Rだ。2コースの愛海は隣の③深川麻奈美にまくられ、モロの引き波を喰らってバック最後方に。そこから1周2マーク~2周1マークは、しぶとい小回り旋回でなんとか3着争いまで持ち込んだ。このふたつの鋭角ターンも見事ではあったが、特筆するほどではないだろう。
2周2マークがやばい。バックで⑤富樫麗加と並走していた愛海は、外からスピード任せのツケマイで攻め潰そうとした。が、初動の直後に舳先が浮いて万事休す。ルーキー世代にありがちな気持ちの入れすぎ入りすぎ、レバーとハンドルワークが完全にズレた旋回ミスで、愛海の艇は物理の法則にならって真横にぶん流れた。

私のレース観測史上、あの「舳先浮き上がり真横ぶん流れターン」から先行艇を追い抜いたケースはほとんどない。皆無かもしれない。逆に、そこから無理に態勢を立て直そうとして振り込みドボンとか、サイドが掛からないまま消波装置にドカンとか、悲惨な顛末を何度目撃したことだろう。
だがしかし、愛海の艇は真横に流れてから、何事もなかったかのように前に進みはじめた。いわゆる、舟が返った。エンジンやボートが良かった可能性もあるが、それだけであんな返り方はしない、ありえない(断言)。

なんだなんだ、なんで返ってきた??
よくわからんまま、私の視線はそのまま愛海に釘付けになる。返ってきたとはいえ、物理的ロスの多い旋回だったから、ターン出口で大外の5番手を強いられる。大外の5番手なのに、3周1マークのはるか手前で「なんとかなりそう、舟券に絡んできそう」と思ったのは私だけだろうか。

そのターンがまた凄い。今度は舳先が浮かない代わりに、大外から大外へのウルトラオーバーターン。その放物線の頂点は、ターンマークを軽く5艇身ほど外しまくる規格外の“オーバーラン”だった。
さすがに、これだけ外すと届かないか。
思った3秒後には、ふたりの先輩をいっぺんに追い抜いていた。恐るべきスピードターンであり、スピードだけでは片づけられない繊細なターン、と感じた。なんというか、凄まじいスピードでぶん回しながら余計なサイドはまったく掛けず、2度、3度、チャッ、チャッと必要最低限の重心移動でMAXスピードを保つような……。

空恐ろしいふたつのターンで3着をもぎ取ったレース後、私はリプレイで2周2マークを何度か見直した。舳先がかなり浮いたにも関わらず、愛海はモンキーの姿勢を1ミリも崩すことなく、激しくバウンドした艇をやんわり押さえつけるように旋回していた。ほぼ全速のまま。何事もなかったかのように。
魔法少女のような空恐ろしいターンは、実は清水愛海という天才レーサーの平常心と体幹の強さが生み出した、理にかなったターン。
そんなことを思った。後半10Rは6コースから何もできず6着に敗れた愛海だが、直前に180度変わった強風と安定板が災いした可能性は高い。明日からも、このレーサーのひとつひとつの旋回を、マバタキすることなく見届けたい。できる限りの静水面で。

さてさて、3着6着のルーキーに思わぬ長文を割いてしまったが、レースも成績も超ゴキゲンだったのが讃岐の女傑コンビだ。まずは、7月半ばの男女混合戦とまったく同じ27号機を引いた平山智加。このモーター、前節はストレート足に重きを置く酒見峻介と組んでファイナルまで漕ぎつけたが(6着)、手前を重視する平山とは真逆のタイプ。前検でそうと悟った平山は徹底的にペラを叩き換え、7月のゲージを基本にしながらさらなる上積みを目指した(本人コメント)。
それが功を奏したか、5Rは鋭い2コース差しからバックで一気に突き抜けて圧勝。レース途中で【出◎】の記号を殴り書きするほど、ターン出口からの押し足が強烈に見えた。その強出足をまんま証明するように、後半10Rも4カドから二番差しで出て行く出て行く! あっという間に先頭集団に並びかけ、2マークの小回り一撃で連勝発進を決め込んだ。

実は、7月の初日も5コースまくり差し~ドリーム戦イン逃げのピンピン連勝発進だった智加27号機。その後は男子相手に勝ちきれないまま優出4着だっただけに、今日の連勝をもって「前回より上」と判断するのは早計だろう。誰よりも彼我の差を理解しているであろう本人のコメントを楽しみにしつつ、明日の7R5号艇での3連勝あるなしを酒肴としたい。

もうひとり、老獪な立ち回りでファンを唸らせたのが讃岐のアマゾネス・山川美由紀姐さんだ。1Rは2コースから差して届かずバック3、4番手。その最内をするする伸びつつ、2マークは誰とも接触しないギリギリかつ巧妙な先マイで3番手に進出。さらに2周1マークは先行2艇の競りをいち早く察知し、外から決め撃ちの差しハンドルをねじ込んて技ありの2着をGETした。

後半7Rに至っては、イブシ銀の宝刀のオンパレード。5コースの早起こしから4カド細川裕子を引っ張るようにスリットまで導き、スリット直前でスッとアジャスト。細川の豪快なまくりに連動しながら、自作自演ともいうべき算盤ずくのまくり差しをぶち込んだ。
のみならず、バックで外から細川が猛追するや、2マークはその細川をやんわりブロックしながらじんわり減速して差し場をシャットアウト。単に先マイするでなく、故意にターンマークを外して「まくらせないし、差させない」ポジショニング&スピードを選択したあたり、もはや人間国宝級のベテラン芸とお伝えしていいだろう。明日の美由紀姐さんは6R1号艇の絶好枠。ここをしっかり逃げきれば、7年ぶり女王戴冠も現実味を帯びてくる。2度や3度ではない、5度目の戴冠が!(photos/シギ―中尾、text/畠山)