BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

青い秋

12R優勝戦
①新開 航(福岡・118期)06
②中山翔太(三重・130期)03
③井上忠政(大阪・119期)02
④吉田裕平(愛知・117期)17
⑤前田 滉(愛知・123期)13
⑥中村日向(香川・122期)04

 とんでもないレースだった。若人の祭典らしいやんちゃなレース、なんて甘っちょろいもんじゃない、荒くて未熟でハチャメチャで劇的で悲惨なレースだった。
 この奇天烈なレースを作ったのは、大方の予想どおり浪速のまくり怪獣タダマーサ。特訓でもスタ展でも3カドに引いたときから、大波乱のシナリオができあがりつつあったのかも知れない。

 本番でも颯爽と舳先をひるがえし、観衆が湧きあがる。3カドに引いた以上は、とことん攻めるのが本筋。忠政は行った。コンマ02、おそらく全速! 昨日、「3カドに引くと気持ちが入りすぎてFが怖いから、今は考えないようにする」と吐露したらしいが、やはり気持ちが入りすぎたか。

 それでも、残してしまえば大きなアドバンテージ。内隣の翔太もコンマ03まで踏み込んだ(この21歳、後生畏るべし!)が、パンチ力に鍛えを入れた忠政60号機の行き足が半端ない。身体を張って抵抗する翔太をグイグイ圧迫し、「お前なんぞ、8年早いわ~~!!」みたいな伸び足で一気に叩き潰した。

 っしゃーーーっ!!
 去年の桐生ファイナルでも④忠政◎だった私は雄叫びをあげた。猛烈な絞めまくりだったから、外の艇がカッチリ連動している。誰かと見れば、5コースから全速でまくり差した滉だ。
 3-5なら大本線!
 にんまり笑った私の口元が、すぐに凍りつく。滉のまくり差しはあまりシャープすぎて、忠政の内フトコロに舳先をブッコんでいる。
 ふんぎゃーーーっ、5-3かよっ!!??
 今度は断末魔の叫びをあげた。外の忠政がじんわり伸びたが、滉の舳先は突き刺さったままビクともしない。後続は5艇身ほど離れて中山翔太。
 5-3だ。何周回っても5-3だ。

 そう覚悟して見ていた1周2マーク、信じられない光景が起こる。優勝を意識したであろう滉の(おそらく)レバーとハンドルと体重移動が完全にバーストして舳先がイビツに浮き上がった。さらに、どういう因果関係か忠政の舳先も不自然に浮き上がってターンのバランスを逸している。
 

 宮島の水門は2マーク寄りだから、どんどん干潮へ向かって潮が引く時間帯にいきなり極端なうねりが発生したのか。私の目にはそうは映らなかった。勝ちたい思いと負けたくない思いが同時多発的にハレーションを起こして2人の若者のターンを陳腐にした。そう見えた。

 もちろん、このWターンミスの代償は大きい。はるか5艇身ほど後方にいた21歳が、何事もなかったように最内をくるり旋回して、あっと驚く先頭に立っていた。アニメ『モンキーターン』のような大逆転劇!
「あ、俺、先頭に立ってる!」
 みたいな。この2周ホームで翔太が2艇身近いリードを得たとき、「この21歳、とんでもない星の元に生まれたんじゃないかしらん」なんて思ったのは私だけかしらん。初めて参戦したGIの舞台で悠々の優出を成し遂げ、最後の大一番の要所で先輩2艇がそれぞれ別々に似たような致命的ミスターンをやらかし、3番手から超サプライズな展開でプレミアムGI初制覇! この時点であまりにも出来すぎなシンデレラストーリーが完成した、と確信したのは私だけではないはずだ。

 だがしかし、この1周はまだ起承転結の起でしかなかった。セイフティリードを保った翔太のターンが、今度は震えはじめる。2周1マークは落として丁寧に回ってまだ2艇身差。ただ、バック直線の加速感は明らかに滉が上で、じりじりじりじりふたりの差が縮まっていく。

 2周2マーク、翔太は滉に差されないよう、さらに慎重に丁寧に落として回った。ターンマークは漏らしていないものの、その旋回はいささか力ないものに思えた。21歳の気配をどこまで察したかどうか、滉は2マークの直前でスッと艇を外に持ち出した。スーーーではなく、スッと瞬間移動のように艇を運んだ。

 そして、準優の1周2マークよりさらに鋭角で繊細でスピーディーな差しハンドルを突き入れた。1周前のアレは何だったん? と思わせるほどのウルトラ完璧モンキーターン! 出口では翔太がまだ1艇身近くリードしていたが、ここでもストレート足は滉がはるかに上。ずんずん舳先を突き刺し、3周1マークのはるか手前で舳先を並べ、一瞬だけ栄光の夢を見たであろう21歳を激辛モンキーで置き去りにした。

 めちゃくちゃ遠回りして還ってきた。
 という表現が正しいだろうか。でもって、この再逆転劇は起承転結の承あたり。その直後、離れた3番手から逆転の2着を狙った忠政が翔太に突っ込み、翔太の艇はもんどりうって横転した。優勝したはず?の翔太が水面から消え、この幻想的なレースを作った忠政も妨害失格で消える、文字どおりの転。
 そのさらに後方から4番手だった新開が2番手に、5番手だった日向が3番手に繰り上がり、「結」はつい半周前まで誰ひとり想像しなかったであろう⑤-①-⑥で幕を閉じた。

 ただレースで起きたことを時系列に書いただけで、この文量になってしまった。本当に、とんでもないレースだった。3カドがあり、タッチスタートがあり、強引な絞めまくりがあり、鮮やかなまくり差しがあり、いくつものターンミスがあり、3度に及ぶ先頭の入れ替わりがあり、転覆失格があり、妨害失格があった。1マークの出口から並べると③⑤②⇒⑤③②⇒②⑤③⇒⑤②③⇒一瞬だけ⑤③①⇒⑤①⑥とゴールまでに3連単は6度も入れ替わった。荒くて未熟でハチャメチャで劇的で悲惨なレースだった。

 もちろん、その多くに携わった挙句にラフプレーを犯した忠政を称賛することはできないが、良くも悪くも何年たっても忘れることのない、ボートレースの魅力がてんこ盛りのレースでもあった。巡り巡って頂点に立った滉君にはおめでとうを、他の5人にはお疲れさまの一言を贈りたい。(photos/シギ―中尾、text/畠山)