
まずは珍事。4Rから周回2周に短縮され、これに伴い周回展示も1周に短縮されている。ところが、1号艇の吉村誠、2号艇の嶋義信、3号艇の西橋奈未が2周走ってしまった! どうやら吉村が勘違いして2マークを旋回したのに、かなり迷いながらも嶋と西橋が追随してしまったようで、展示から戻ると二人は苦笑い。
で、1周で終えてピットに帰投した菊地孝平も、実はかなり迷ったそうなのだ。珍しい事態に、長嶋万記と三浦永理が展示から戻った菊地を笑いながら待ち構える。菊地は「俺もついていったほうがいいのかと思った。だから、たぶんタイムになってない」とやはり笑いながら応えていた。周回展示1周ということは、1周目の1マークを回ったら、そのまま全速で2マークを駆け抜けなければならない。バック水面のスリット裏から2マークまでのタイムが展示タイムとして発表されるからだ。だから迷った分、菊地も全速で駆け抜けられなかったのだろう。それが「タイムになっていない」ということ。2マークを旋回した3人はもちろん計測不可能だから、結局、全員が再展示となって、一から周回展示をやり直している。いやあ、こんなこともあるんですね。ちなみに、11R出走組のエンジン吊りをしていた重成一人は展示を見ておらず、再展示に「何があったの?」と訝しがっていた。事情を話すと、重成は大笑い。やっぱり「こんなこともあるんだねえ」というところだろう。

で、菊地が真っすぐピットに帰ったのを見て、確信をもって菊地に追随したであろう中島孝平と松田祐季は、展示から戻ってきたときも特に表情を崩していなかった。それどころか、松田の表情にはかなり強い闘志が感じられたものだ。6号艇に復活した松田の勝負手はピット離れだった。スタート展示では2コースまで奪っている。もともとWエースと言われる43号機に好感触を得ていた。コースを獲ることができれば、充分に勝機あり。その思いが、展示を終えてさらに高まっているように見えたのだ。
松田は、本番では4コースとなっている。嶋と西橋が枠を主張したのだ。しかし、松田は菊地と中島がダッシュに引いたのを見て、決然と4カドに艇を引いた。そして、スリット後には軽快な足色で内を攻めにかかっている。松田の、大会初の6号艇からの復活Vを目論む思いの強さは、その走りからも伝わってきた。しかし、抵抗して先攻めに出た西橋と競るようなかたちとなり、無念の転覆。アナウンスですぐに「選手異常なし」と伝えられ、またレスキューからも自力で降りているので、まずは一安心だが、悔恨もまた大きかろう。ともかく、前検日当日に急遽の追加あっせんで三国に駆けつけ、最後まで見せ場を作った松田は影のMVPと言っていいはずだ。拍手を送りたい。

正直、展示周回を勘違いしてしまった吉村誠は、もしかしたら緊張しているのではないか、とも思ったものだった。実際にそうだったかもしれない。しかし、展示から戻って来た吉村は、すでにそのことは完全に切り替えて、ただただ勝利を目指す顔つきにもなっていた。スタート展示のスリット写真を確認し、待機室へと戻っていく足取りはもう、まったく震えているようには見えなかったのだ。

そして、進入も含め展開にはさまざまなことが起こっていたなかで、何にも動じることなく先マイを果たした吉村の走りは見事だったと言っていい。壁なしの隊形で、また強めの追い風の影響か1マークはやや流れ気味になってはいたが、しかし力強い逃走だった。レース後、5コースから握っていった菊地が「ヨッシーが慎重に回っていたら、ワンチャンあったかもなあ」と振り返っていたが、スピードをもって逃げた分、後続の攻めを寄せ付けなかったのだ。見事な優勝!

ピットに凱旋すると、すぐさま係留所でのプレス撮影が行なわれている。こうした局面は今まで経験したことがなかっただろう、最初は吉村はどう振る舞えばいいのか戸惑っていて、撮影が始まっても少々カタい表情であった。そこに駆けつけたのが、長嶋先輩と三浦先輩。陸の上から吉村を祝福すると、吉村の表情が一気に緩んだ。目を細めて歓喜をあらわにし、そこからはカメラマンのリクエストに応えるさまも堂々としたものになっていた。

その後にはテレビ中継のインタビューを受けたのだが、そのときにも長嶋と三浦が脇で見守っていて、緊張をほぐそうとしていたのだった。これまでA1経験は1期だけ、優勝はこれが6回目だが、こうした晴れがましい舞台はなかなか巡り合わなかった。それだけに、先輩たちも心配したんでしょうかね。インタビューが終わってふたりとハイタッチを交わした吉村は、歓喜にあふれた表情を見せており、この優勝の大きさを実感することになったかもしれない。

これで吉村は、来年1月のBBCトーナメントの出場権を手にすることとなった。GⅠは4節出場しているが、全国的な大会はこれが初めてとなる。相手も当然、SGクラスばかりだ。しかし、このバトルトーナメントでの経験を糧にして旋風を巻き起こすほどの奮闘を期待したい。A1勝負駆け中で、今節での活躍によりかなり勝率も上乗せすることができた。ぜひA1級として、1月に尼崎で再会しよう。第11代バトルトーナメント王襲名、本当におめでとう!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)