BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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ファイナル 私的回顧

劣等生たちの舞

12Rファイナル 並び順
①吉村 誠(静岡)13
②嶋 義信(香川)27
③西橋奈未(福井)16
⑥松田祐季(福井)11
④菊地孝平(静岡)07
⑤中島孝平(福井)09

『北陸のジャックナイフ』松田が、今日になってとんでもない秘密兵器を持ち込んだ。スーパーピット離れ!? まずはスタ展でどーーーん飛び出し、あっという間の2コース奪取。その勢いに動揺したであろう吉村、嶋、西橋ら若手が、うっかり周回展示の回数を間違うほどの必殺兵器だった(笑)。

 いざ本番も松田がどーーーん出る。同県の孝平先輩も他県の孝平先輩も、まるで抵抗できない突出バナレ。おそらく、さらにゴリゴリ行けばスタ展と同じ2コースもありえたが、攻めるだけ攻めた松田は2マーク近辺ですっと緩め、愛弟子・西橋の外に貼りついた。

 半端に深いスローより絶好の4カドを選んだ、が正解かも知れないが、私の目には「奈未、お前が先に行け!」ってな感じに見えたな。
 最終隊形は123/645。誰が得をしたかと言えば、もちろん圧倒的に松田。6号艇で4カドを毟り取ってしまえば、先の周年記念を制した43号機のパンチ力も大幅にアップする。松田に◎を打った私も、思わずコブシを握りしめた。昨日同様、西橋のツケマイが炸裂すれば、簡単に⑥=③ができ上がる絶好の隊形だ。

 不穏な待機行動を引きずって、スタート隊形もイビツに変形した。F持ちの2コース嶋がダダ凹み! 握りしめたコブシの中で、ふしだらに伸びた爪が手の甲に突き刺さる。もちろん、手汗もじっとり滲み出る。西橋がまた行けば……!
 4カドから覗いた松田を堰き止めるようにして、西橋が先に動いた。松田がぴったり貼りつくようにマークしている。ついには私の脳汁が耳から溢れそうになる。西橋がまくって、松田が差しハンドルをぶっ込んで…………

 私の先走った妄想は、ここで終わった。西橋が狙ったのは豪快なまくりではなく、激辛なまくり差しだった。つっと減速してから舳先を鋭角に構えると、外でじっと待機していた松田も「たまらん!」とばかりに西橋を追い越し、同じ狭い隙間に外から舳先をねじ込んだ。勢い、少し流れた西橋にコツン弾かれ、逃げる吉村に挟まれた松田はバランスを逸してあえなく横転した。師弟の息が残念な形で合いすぎた、という見え方だった。

 悲しい追突が起こっている間に、105期のA2ダークホース吉村がすたこらさっさと逃げきった。今節のトーナメント3戦はすべて抽選で1号艇(単純確率は216分の1)という強運を1ミリも逃すことなく、通算6度目の優勝を成し遂げた。

「本当にラッキーだったし、この優勝は同期のおかげ。今日は中嶋が調整を見てくれて、菅もアドバイスをくれて、それで勝ちきるだけの仕上がりができました」
 同期を讃える言葉が初々しい。直前の11R、“消化試合”の菅がチルト3度×コンマ01で豪快にまくりきったのは、ファンへの感謝だけではなかったはずだ。

 やまと学校時代、リーグ成績がワーストに近い3.80だった菅と、それに毛が生えた程度の4.48だった吉村が、華々しい同期リレーでこの特殊な大会のフィナーレを締めくくった。ちなみに、今日の調整で吉村を支えたジマケンは、リーグ成績6.40にしてデビュー5走目に水神祭を遂げたエリートだったけど(笑)。

 この優勝で来年1月のプレミアムGIのチケットを得た吉村は、目をキラリ輝かせた。
「A2では恥ずかしいので、しっかりA1に上がって向かいたいです」
 そう、今節はA1勝負駆けをしっかり自覚して三国に乗り込み、節間4戦3勝で6.28から6.36あたりまで跳ね上げた。自身3年ぶり2度目のA1レーサーとして、胸を張って尼崎BBCトーナメントに乗り込むことになりそうだ。最後のひとことも謙虚に。

「名前を憶えてもらえるような選手になれるよう、これからも頑張ります!」
 うむ。主席の佐藤翼にSGレーサー磯部誠、博多の女傑・渡邉優美に艇界のハーデス菅章哉……名前が売れまくっている実力派、個性派ひしめく105期にあって、確かに地味な存在であっただろう吉村。今までの5Vとはひと味もふた味も違う今節のタイトルとともに、ヨシムラマコトの名を全国へと広めまくってもらいたい。かく言う私も、ときどき山口の大ベテラン吉岡誠さんと混同したりしたことを告白しつつ、吉村誠の名を心して薄っぺらい脳みそに刻み込みます!w(photos/チャーリー池上、text/畠山)