BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――堂々たるV!

 たとえば予選トップ通過で準優1号艇、しかし2着に敗れて優勝戦4号艇となってそれでタイトルを獲り逃したら、準優にさかのぼって悔しさがこみ上げ、また敗因について思いを至らせるだろう。予選7~8位で準優3号艇、首尾よく1着で勝ち上がって優勝戦3号艇となって、やはりタイトルを獲り逃したら、予選のあそこで着を落としていなければ、などと反省したりするだろうか。

 この大会には、おそらくそうした部分が介在しない。決勝戦の枠番はあみだマシーンによる抽選で決定する。オール3着でも1号艇を引き当てるかもしれないし、オール1着でも6号艇になってしまうかもしれない(嗚呼、池田浩二……)。勝ち上がってしまえば限りなく一発勝負に近いわけで、それが特に敗れた選手たちの心境にも変化をもたらすのだろうか。

 つまり、それほどまでに敗者勢に悲愴感が見られなかったのである。たとえば、タイトル防衛に失敗した茅原悠紀。3カドに引いて、防衛に意欲を見せた。だが準Vまでという結果に対して、茅原が悔しさを露わにするようなところはなかった。装備をほどきに向かう際やモーター返納を終えて控室に戻る際にも実にサバサバした感じ。たとえば昨年のチャレンジカップ優勝戦で4着に敗れたときの憂鬱なレース後とはかなり違うように見えている。あのときは6号艇。今回は3号艇。しかし悔しさの質がどこか違うのだろう。

 それは独特の勝ち上がり方式がひとつの理由だろうか。それともGⅠ(PGⅠ)だからだろうか。あるいはまだ今年は始まったばかり、グランプリロードにおいてはまだまだ獲り返す局面が山ほど残っている。そんな余裕からだろうか。そしてもうひとつ、とにかく実績がとてつもない超強豪ばかりが集まった決勝戦である。GⅠを逃したときのやり過ごし方もまた、熟知しているということかもしれない。ともかく、もっと悔恨がピット内に充満するSGというのは、選手にとってもやっぱり特別なのだと改めて感じたりもしたのだった。PGⅠのピットにいるのに。

 ともかく末永和也が強かった! 茅原の3カドまくりを寄せ付けない先マイ逃走。茅原が3カドに引いたことに気づいていなかったそうだが、それくらいスタートと先マイ逃走に集中していたのだろうし(優勝戦は今節ではなかった追い風になっていたこともあったようだ)、気づいていたとしても結果が変わったとは思えない。昨年ダービーを優勝戦1号艇で獲ったときは緊張が大きかったようだが、それを経験した以上、今日はより平常心に近く過ごせてもいただろう。「このメンバー相手に勝てたことは大きい」と会見で言っていて、たしかに5人あわせてSG31冠という強烈な先輩たちを相手にしていたけれども、実際のところはそのことに怯んでいたようにも見えていない。つまり、堂々と勝った。完勝である!

 今日はなぜか峰竜太がすでに帰ったあとで(宮地元輝も)、最前線で出迎えられたのは上野真之介! ダービーのときは峰の勢いに押されてましたからね(笑)。うん、真之介師匠、よかったっすね! 両手を大きく広げて待ち構える上野に、末永はボートの上から両手を掲げて応える。山田康二や常住蓮も笑顔で出迎えて、若きヒーローは最高の笑顔を見せていた。

 会見の言葉で気になったのは、「グランプリを目指してはいない」という言葉。これだけ見るとむむむっと前のめりになりそうだが、そのココロはそこを意識するとキツくなるだけなので、SG1つ、GⅠ1つと頑張ろうということ。つまり、先々を見据える前に、目の前のチャンスに全力で臨もうということで、もちろんその結果として、初出場だった昨年のグランプリでボコボコに洗礼を受けた借りを返すという思いは確固としてあるようだ。なるほど、まだデビュー6年ちょっとのキャリアの若武者ならばそれもアリだろうし、また冷静に自身を見つめているのだとも受け止められる。だが、並みいる先輩たちはグランプリを目指して、キツい思いを乗り越えながら、今があるわけだ。だから末永がその領域に入ったとき、いったいどこまで強くなるのだろうと楽しみになった次第だ。我々は若きSGウィナーがとてつもない大物になる過程を今後、追いかけていくことができる。そのひとつのエピソードとして、SG31冠のライバルたちを撃破した今日がある。手にしたチャンピオンベルトは、その記念碑ともなるのかもしれない。

 もうひとつ、「サダとレンが近くにいて、練習から高め合えているのが大きい」とも言っていた。サダは定松勇樹。レンは常住蓮。1期ずつ違う、同支部の盟友たち。3人ともが養成所チャンプである。つまり、近い将来のSG戦線の中心勢力となっていくであろう佐賀支部トリオである。定松が先にSGウィナーとなったことは大きな刺激になったことだろう。今年の一発目のGⅠ=芦屋周年は定松が優勝。これも同様だろう。「来年のからつクラシックの権利をサダが獲って、僕もどうしても行きたかったので権利が欲しかった。こんなに早く獲れるとは思わなかったけど」と末永。そうか、令和8年のGⅠはここまで2節。どっちもこの佐賀ヤング勢が獲ったということか。つまり、今回の勝利の陰には定松、常住の存在があったということだ。

 末永のモーターを代理で返納した常住が、ウィニングランを眺めていたこちらに「お世話になりました」と笑顔で声を掛けてきた。しばし並んで末永を見守っていると、「ほんと、凄いですよね~」と感嘆する。それはそうだけど、次は常住くんの番だよ。そう言うと、「いやいや、いろいろ違いがありすぎますよ」と常住は言った。ヤングダービー以外のPGⅠに初参戦して、きっと感じたことはいろいろあっただろう。末永に対しても、それ以外の先輩に対しても。しかし、本音は違うはずだ。あるいはこう続くはずだ。「いろいろ違いがありすぎます。でもいつかは」。常住くん、末永は会見であなたの名前も出しましたよ。つまり、末永の勝利はこの佐賀トリオをさらに高めていくものともなっていたということだ。3月のクラシックでは末永と常住がまた揃い踏みする。うーん、まだ権利のない定松くん、九州地区選頑張れ! ともかく、彼らの未来の明るさを感じさせられた末永の優勝なのだった。おめでとう!(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)