BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――やっぱり泣き虫王子

 もちろん緊張はしていたと思うのだが、もしかしたら神妙な思いになっていたのかもしれない、と思った。優勝後の会見で、3周2マークからゴールまでの走り方(ひとつ礼をしたあと、万感の思いをこめたように上体を起こしてゴールした)を問われ、「これが最後の光景になるかもしれないと思った」と語った峰竜太。だから思い出に残るように脳裏に焼き付けながら、走ったというのだ。

 2日目後半から5連勝での優勝。その強さを見せつけられれば、これが最後かもしれないという感想は、我々には浮かばないだろう。SGを優勝するのはそもそも難業だから、いかに峰竜太だからといって、それが現実になることはもちろんありうる。しかし、峰がそんな思いを抱いたということには、やはり違和感があるというもの。それでも峰のなかにそうした思いが浮かんだということは、彼のなかに今、生じている何かがきっとある。そうだとするのなら、今日の前半の時間帯に見た謎の動きや(前半ピット記事ご参照ください)、やけに硬く見えた表情にも合点がいく。それがどこか敬虔さをまとった思いにつながっていたとしてもおかしくないと、そう思ったのだ。

 ピットに凱旋して、出迎えたのは定松勇樹。同支部の山田康二も優勝戦を走ったから、他の佐賀勢はそちらの出迎えに向かっている。だから、定松ひとりが凱旋した峰を待ち構えた。ボートを降りた峰は、たまらずに定松に抱き着いた。何度も何度も、抱き合う師弟。定松は準優で1着を獲りながら、不良航法で優出を帳消しにした。その落胆や後悔を、師匠は最も間近で感じ取っていただろう。当然、愛弟子の分までという思いもあったはずで、それがまた峰を神妙にしたのかもしれない。だから、ふたりの抱擁はひたすら熱く、そして遠目からも思いが立ち上るのが見えるような気がした。
 ヘルメットを脱ぐと、やはりというか何というか、泣き顔があらわれる。そしてもういちど、定松と抱き合う。勝利者インタビューのクルーが間近にいたし、報道陣や関係者も遠巻きにその様子を目の当たりにしていたが、そこは師弟ふたりだけの世界と化していた。

 それにしても、泣き虫王子は健在とはいえ、その泣き方は明らかに以前と違う。かつての峰なら号泣が止まらなかったわけだが、峰は決然とした素振りで、インタビューのカメラの前に立っている。当地蒲郡での23年ダービーのときもそうだった。あのときも号泣しそうになりながら、ぐっと涙を呑み込むようなところがあった。準Vに終わったそのときのグランプリも、ピットに戻るとすぐに涙を流しているが、しかしすぐにこらえて前を向いた。ただひたすらに感情を爆発させるのではなく、そこで己と向き合っているようなところがある、そんな感想を抱いてきたが、今日もまた同様。大人になったなあ、と言ってしまうとそういうことかもしれないが、僕はそこにある種の力強さを見る。それだけに、これが最後かもしれないという言葉には、やっぱり違和感を覚えざるをえないのである。まあ、明日41歳の誕生日を迎えるというのに、泣き虫王子であることには変わりないんですけどね(笑)。でも、それが峰竜太だ。

 それにしても仁義なき広島競りは熱かった。スリットから出ていく4カド大上卓人。それを許したくない山口剛。勢いに勝る大上が山口を振り切る格好となったのだが、そこで山口は失速。山口によると、落水しそうになったところを奇跡的なバランスで飛び乗って、立て直したのだそうだ。その内をすり抜けた西山貴浩も「剛さん、落ちたと思った」と言っていたくらいなのだが、その後立て直して3番手争いに加わった山口、凄すぎ!
 大上は当然、レース後に山口に詫びている。しかし山口は即座に否定。「あれはもう引けんもんな」と大上を気遣っている。引けん、は大上も、自分もということだ。真剣勝負で真っ向からぶつかったからこそ、そんな局面にも禍根などいっさい残さない。山口も大上の気持ちがわかるし、大上も敬愛する同支部の先輩に対して遠慮しなかった。これぞボートレースの真髄! 二人とも残念だったけど、次はSG優勝戦の先頭争いでガチンコ競りを見せてくれ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)