
マスターズチャンピオンは最も獲りたかったタイトル。グランプリを制している男がそう言うと、どこか違和感も覚えたりするわけだが、しかしたしかに白井英治は優勝後、テンションを高めていた。大村でグランプリを獲った直後のこともよく覚えているが、あのときと変わらぬ上気っぷり。この大会は1年でいちばん楽しみにしている大会とも語っているが、それも本音なのだろう。
デビューした頃に憧れた先輩たちがいる。会見では「西島さん、江口さん、今垣さん、松井さん、服部さん」と名前も出した。その後、彼らとはSGや記念で戦ってきて、今垣や松井は今でもそこで顔を合わせているわけだが、それこそ白井がそうした舞台に行き始めた頃にいたメンバーが、ここには集う。そう、まさに20年前のSG、GⅠの顔ぶれが、時を経てまたここに集結する。それは長く戦ってきた者たちにとって特別な空間なのだろう。

ただし、ここを制したからには、また前を向かねばならない。来月からはSGが立て続けに行なわれることになる。自分より下の世代や、もっともっと下の若い世代もやって来る戦い。なにしろ、白井はこれで賞金ランク2位に浮上。さらに先のグランプリも鮮明に視野に入ってきたのだから、今年は黄金のヘルメットをかぶった大村がその舞台であることもあわせて、そこに照準を合わせていくことになるだろう。

「正直、グランプリを獲ったあと、また獲ってやろうという意欲が薄れていた」
会見で白井はそう言った。その年の夏、メモリアル優勝戦Fを切った白井は、1年間SGから遠ざかることになっていた。グランプリは賞金ランク上位で特例による出場(現在はこの措置も廃止されている)。その後半年以上もSGに出場することは許されなかった。そんな立場で、グランプリ出場は現実味を帯びなかったかもしれないし、そこで気持ちが後退してしまっても致し方がないというもの。昨年、3年ぶりにグランプリ復帰を果たしたが、トライアル1stで敗退。もちろんその場に臨んだときには2度目の戴冠を目指したはずだが、本人も意識しないなかでテンションが下がっていたかもしれない。

しかし、前節の桐生周年に続く2節連続のGⅠ優勝で、そして念願であったマスターズチャンピオン優勝で、白井の闘志はふたたび奮い起こされた。ならばここからの白井は、今日のレース後のような高いテンションでSGに登場することだろう(その前の芦屋周年も、この勢いを維持しての参戦となるかもしれない)。そんな白井が見られるであろうことが、何よりも楽しみ!
あ、あと白井は将棋好きで知られている。畠山は対局した経験があって、白井の勝利。その結果、白井師匠-畠山弟子という関係が出来上がったりもしている。そんな白井だから、「名人」という称号も嬉しいかもしれないですね! 来月、浜名湖のピットで再会したときには、名人と呼ばせていただこう。

敗れた選手のなかで、やはり最も痛々しく見えたのは瓜生正義だ。1号艇で敗れたのだから、そうなるのは必然とも言える。前半ピット記事で、選手会代表としての瓜生の顔を書いた。しかし、やはり時間を追うごとに瓜生は勝負師の顔になっていき、そしてレース後、瓜生は完全にひとりのトップレーサーとして、全身で悔しさと戦っているようだった。穏やかに振る舞いながらも、どうしても消せない険しい表情。間違いなく、選手会代表ではなく、ボートレーサー瓜生正義だった。SG11Vの実績を持つ、超強豪の瓜生正義だった。瓜生は昨年のメモリアルでも1号艇で敗れている。そのときも、白井にタイトルを持っていかれている。このリベンジは、必ず果たさなくてはならない。明日からも代表の激務をこなすことになるだろうが、またピットでは勝負師瓜生の顔を見たい。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)