BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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優勝戦 私的回顧

祝福と沈黙

12R優勝戦  並び順 
①丸野一樹(滋賀)   04
②定松勇樹(佐賀)   08
④山田康二(佐賀)   09
③上野真之介(佐賀)09
⑤新田雄史(三重)  11
⑥佐藤 翼(埼玉)  18

 デビュー14年半、SGファイナル3度目の挑戦でついに頂点に立った。おめでとう、丸野くん!

 レースを振り返ろう。スタ展同様、まずはピットアウトで紛れが発生した。山田のバナレがちょっとだけ優勢で、内の真之介にプレスをかけまくる。同県同期同年齢にして同じ師匠・峰竜太を持つふたりの仁義なき進入競り。長い鍔迫り合いの末、3コースを獲りきったのは2カ月早くこの世に生まれた山田だった。
「ノスケ~~、2カ月年長の俺に3コースを譲らんかい、それにお前はSG優出3回目、俺は7回目だぞーー!」
「そんな2カ月ぽっちで譲れるかーーい」
 なんて心の会話は1ミリもなかっただろうが、山田は激辛の応接でギリギリ3コースを奪いきった。うむ、これがSGファイナルだ。私がちょっとだけ思い描いた「真之介の72回目の3コースまくり差し」の夢は、スタートの前に脆くも崩れ去った。

 が、よくよく考えればセンターの3、4コースが入れ替わっただけ。全国のファンの推しレーサーに対する期待値は、ほぼほぼ変わらなかっただろう。特に、1号艇・丸野を応援するファンは。
「マルノォォォ、てっぺんまで駆け上がれーー!!」
 スタンドほぼ中央、左前の若者が叫ぶ。
「ツ・バ・サーーーッ! ツ・バ・サーーーッ! ツ・バ・サーーーッ!」
 右前の若者が連呼する。
「三重から来たったんでぇぇ、ニッタァ、やったれやーー!」
 右隣の若者。
「マルノーーーーいったれぇぇぇ!!」
 その右隣の前にいる若者。見回せば、若者ばかり。思い思いに推しメンの名を叫びながら、スマホを頭上にかざして待機行動を撮影している。なんと器用な……。

 12秒針が回って若者たちのボルテージは最高潮に達した。誰が何を叫んでいるか、聴き取れないほどの大音響。たしか10Rの段階で実況アナさんが「スタンドは立錐の余地もありません」と言っていたが、まさしくその通り。最前列から10人分くらい後方の私は水面を見ることができず、ひたすら正面の大型モニターを見つめていたし、私の周辺の人々も間接的にレースを眺めている。

 モニター画面のスタートは、ほぼ横一線の中で丸野がにゅっと舳先を覗かせた。後で知るが、昨日のコンマ05とほぼ一緒のコンマ04、トップスタート!! 第一関門を完璧にクリアした。
 次なるハードルは隣の定松だ。3日目あたりから気配がダダ上りしている佐賀の若きモンスターが、どこまで丸野に肉薄できるか。が、そんな怖い定松の進撃も1マークの途中で終わった。山田パイセンの早くて速いツケマイをモロに浴びる形で、ズルリ後退した。

 そのまま山田が握り倒し、スーパーキノコ新田が凄まじいまくり差しを突き刺したが、丸野にはまったく届かない。
 勝ち将棋、鬼のごとし。
 スタートから1マーク出口まで、昨日の準優とほぼまったく同じ完璧な航跡とともに、34歳のニューヒーローが誕生した。

 ゴールの瞬間は、ちょいと異様な空気ではあった。丸野に温かい拍手や歓声を送る人々、最後の最後までもつれた3着争いを息を呑みながら(あるいは叫びながら)見つめる人々、「なぜ2番手を走っていたはずの定松がいなくなって、①-⑤-③④という隊形になっているんだろう」みたいにポカンとしている人々……そして、ひどく不安そうにモニターを凝視する人もいた。いつもの祝福だらけの優勝戦のゴールとは違う、いろんな温度がスタンド全体に蠢いていた。
 熱狂するファンの激しい動きでモニター観戦すら途切れ途切れだった私も、ゴールを通過したであろう丸野を祝福しつつ、モニターの3着争いをぼんやり眺めていた。最後までハナ差の接戦を演じたのは、やっぱり同県同期同年齢のふたりだった。

 10分後、記者席に戻ってリプレイを見て、全身にサブイボを立てた。2周2マークの手前、SG優出10回目の佐藤と7回目の山田がゴリゴリに競り合いながら2マークにまっすぐ突進、普通に2番手で旋回していた定松に衝突した。現在の状況や容体はまったく分からないが、このときに思ったことはただひとつ。
 定松勇樹、よくぞ完走した。完走できるくらいの事故で、本当によかった。(photos/シギ―中尾、text/畠山)