BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――絶対王者。そして若武者の涙

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 峰竜太は号泣していた。篠崎元志は表情をなくしていた。

 好対照に見えるレース後の表情。しかし、僕にはまったく同じ悔恨の貌に見えた。

 峰の悔しすぎる敗戦を、ここで詳しくは綴らない。レーサーでなくたって、あれが最強に重苦しい負け方であることは理解できるだろう。そして、“泣き虫王子”たる峰がどんなふうにピットに帰ってくるかも、想像ができたことだった。

 陸に上がった瞬間、ヘルメット越しに涙をぬぐっているのを見た。ヘルメットをしたまま、頭を抱えたように立ち止まっているのも見た。ヘルメットを脱いであらわれたのは、顔を真っ赤にして号泣する顔。一瞬にして、峰はせつないオーラに包まれていた。

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 篠崎は、結果2着。しかしこの銀メダルに喜びがあるわけがない。篠崎は優勝だけを見据えて、今日一日を懸命に走り回ったのだ。2着で満足するために戦ったわけではない。

 篠崎が整備室でモーター返納の作業をしていると、遅れて峰が入室している。篠崎は峰を一瞥し、しかしそれ以上の行動を起こさなかった。声をかけるでもなく、敗戦を悲しみあうでもなく、黙々と作業を続けた。盟友であるはずの峰と言葉を交わす余裕がないほど、篠崎もまた悔しさをつのらせていたのである。

 それはどこか脱力している表情にも見えたし、そうしたなかで瞬間的に顔をしかめることもあった。とにかく、篠崎はただただ悔恨を噛み締めていたのだ。

 素直に感情をあらわした者、意識的にかどうかはわからないが感情を抑え込んだ者。それは表への出方の違いだけであって、やはり同じことなのだと思う。ひとつだけ声をかけるとするなら、その姿が二人とも男前だったぞ!である。

 

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 外枠3者も、それぞれに悔恨を抱く結果だった。湯川浩司は今日になって足を仕上げていただけに、2マークで狙った逆転の突進が交わされたことがひたすら悔しかっただろう。

 白井英治は、スタートを決めた。優出インタビューで口にしたように、締めまくりを敢行しようとした。しかし、そこまでだった。またも実らなかった思いに、白井は苦笑いというかたちで悔恨を表現していた。

 

 

 

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 もしかしたら、白井と湯川はやるべきことはやった、という感慨があるかもしれない。白井はカドから攻めた。湯川は2マークを攻めた。だが、それはあくまで外野の意見なのかもしれず、結果を出せなかったという点ではやはり悔いが残る。

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 6コースから健闘した毒島誠は、比較的サバサバした様子だったか。レース前にもリラックスした表情を見せており、6コースの不利を考えれば、またSG初優出ということも考えれば、まずはこの経験が大きいというところか。

 モーター返納を終えて整備室を出る毒島を、今村豊がつかまえている。今村はおどけてジョークを飛ばし、毒島の笑顔を引き出していた。SG初優出の若者に対する、ミスターなりの健闘の称賛だったか。毒島はこれでひとつ階段を上がった。次はもちろん、もうひとつ上の結果を目指すだけだ。

 

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 さて、優勝は松井繁である。圧倒的な逃げ切りではなかった。「はじめてカタなったわ!」。松井は出迎えた大阪勢や鎌田義、上瀧和則選手会長らに笑いながら語っていた。王者が硬くなった? それもまたボートレース。そして、バックで立て直して2マークを冷静な立ち回りで逆転したあたりはさすがの王者である。

 ウイニングランはド派手なボートと海賊の衣装で行なわれている。海賊の衣装はピット内にかけられており、報道陣らは「松井が勝ったら、本当にあれを着るのかな?」と笑い合っていたのだが、王者は堂々と着込みましたね! 前田将太が「めっちゃ似合っとる!」と感嘆すると、岡崎恭裕が「そりゃそうやろ!」と応える。「松井さんしか似合わないでしょ」「そりゃそうやろ!」。二人の海賊姿も見たかったぞ! まあ、二人が言うとおり、松井の海賊姿は本当に似合っていた。ウイニングランから戻った鎌田義がたたえていると、「オーランド・ブルームや!」と王者。いやいや、我々的にはオーランド・ブルームよりカッコいいっす!

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 これが3年半ぶりのSG制覇だが、それが意外な事実と思えるほどに、その3年半の間も松井は王者であり続けた。そして今日、史上単独2位となる11個目のタイトルを手にし、何をやっても絵になる王者であることも見せつけた。世代交代の波が押し寄せようかという流れの中にあっても、この男、やっぱり絶対王者である。(PHOTO/中尾茂幸=松井ピット 池上一摩 TEXT/黒須田)