BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――激しい勝負駆け

 今日、いちばん最後まで試運転をしていたのは誰か?
 小野生奈? ありそうだけどブー。遠藤エミ? これもブー。若手の羽野直也、仲谷颯仁? ブッブー。

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 松井繁である。
 11R発売中、松井が控室のほうから試運転用のカポックを手に現われたから、まず驚いた。その直前、松井はギアケースを調整していて、青山登さんによると、その前には本体をバラして組み直したらしい。

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 8R、松井は2マークでキャビった桐生順平と接触。避けようとしてターンマークの内側を通過してしまい、もう一度回り直しを強いられるという場面があった。その影響があるのではないか、と松井は本体をバラし、ギアケースを調整点検したのである。しかも、その作業が終わった11R発売中に、水面へと向かった。そのとき、試運転をしている選手は他にはいなかった。全員が切り上げていたのだ。それでも松井は水面に出る。青山さんが「これがプロだ」と唸った。「若い選手にはこの姿をぜひ見てもらいたい」とも。
 松井は11R発売中に3周、さらに12R発売中にも3周ほど走って、陸へと戻ってきた。どうやらモーターには大きな影響はなかったようだ。納得できないことがあれば、できるまでやる。時間などは関係ない。青山さんに倣えば、これが王者、である。

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 その直前、ピットは賑わっていた。峰竜太が自分のボートに乗り込み、中村亮太、中辻崇人、仲谷颯仁が取り囲む。にわかに「峰竜太のボートの乗り方講座」が始まったのだ。峰がボート内でどんな態勢になっているのかを説明し、「これ、めっちゃいい」とその良さを伝えていたのだ。やがて、原田幸哉、石野貴之もやって来て、興味深そうに操縦席を覗き込み、峰の話に耳を傾ける。それを見つけた報道陣やカメラマンも集まってきた。そのとき、ピットの主役は完全に峰竜太だった。
 峰の乗り方は、よく聞く「女の子座り」ではなかった。ようするに、正座して足を開き、ボートに体を固定する、これが基本の乗り方。峰はそうはせず、ボートの後方にもたれかかるように座り込んでいた。峰の旋回は独特、とよく言われるが、旋回だけでなく直線での乗り方もオリジナリティを追求しているのである。これを聞いていた選手で、真似をする選手が出てくるだろうか。オリジナリティあふれる男・亮太が試してみるような気もするな。

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 さて、勝負駆け。10Rで白井英治が逃げ切って、予選トップの勝負駆けはほぼ行方が定まったようなかたちになった。白井が2位になるケースは12Rで井口佳典が勝つのみ。岡崎恭裕1号艇の4号艇だから、白井のほうが有利に見えていた。
 それを意識していたかどうかはわからない。ただ、勝ってあがってきた白井は、まるで笑みを浮かべることがなかった。険しい顔を崩すことなく、控室へと戻っていっている。

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 対照的に、12R2着で予選トップをもぎ取れなかった井口は、東海勢や石野貴之らと肩を並べながら、笑顔で控室と帰っていった。時折、笑い声も漏れてくる。まくり差しが入ったかと一瞬思えたところから、岡崎に押し切られた展開を、悔しがりつつも朗らかに振り返っていたようだ。エース機パワーを相手にしての惜敗。笑うしかない、といった感じだった。

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 岡崎恭裕は逃げ切ったものの、予選3位。白井が10Rを逃げ切った時点で、予選トップの目はなくなった。聡明な岡崎のことだから、当然、そのことは把握していたはずだ。レースが近づいてきたとき、岡崎はこちらの顔を見て意味深にニヤリ。ぼそりと「なかなかうまくいかないっすね」と言った。結果として今日は連勝、それでもトップに届かなかったのだから、たしかになかなかうまくはいかない。でも、あの足なら優勝戦センターになっても面白いと思うけどなあ。岡崎のSG初優勝は10年の当地オールスターだったが、あのときだって予選トップではなかったし、なにより準優3着からの繰り上がり優出で栄冠をもぎ取ったものだ。優出さえすれば、充分に優勝を狙える男なのである。

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 ボーダー争いのほうは、10Rで3着条件だった萩原秀人が2着。6号艇での勝負駆けは決して楽な戦いではなかったが、見事にクリアした。着替えを終えてモーター格納を始めた頃には、なんともスッキリした顔をしていた。

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 11Rは3着条件の金田諭が3着でギリギリセーフ。SG初出場で予選突破を決めた。同期の森高一真も気にかけていたようで、モーター格納を終えた金田と顔を合わせると「大丈夫だったか?」と声をかけている。金田がうなずくと、森高も満足そうにうなずき返す。同期の絆は強いし、森高はコワモテだけど優しい。

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 これで、19位以下から圏内に浮上する選手はいなくなった。穏やかにベスト18のゆくえも決まったか、と思われたが、そうではなかった。12R、4着勝負だった山本隆幸と新田雄史が、まさに4着競りを繰り広げたのだ。抜きつ抜かれつの争いは、最終コーナーで新田が山本を弾き飛ばすようなかたちで決着。新田はレース後に競技本部に呼び出しを受けているが、不良航法はとられずに予選突破を果たしている。激しい戦いに見ているこちらは興奮したし、新田にも山本にも拍手を送るが、新田自身は険しい表情で、あまり納得できるレースではなかったかもしれない。

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 山本のほうは、やはり落胆しているようにも見えたし、憮然としているようにも見えた。とにかくカタい表情だったのだ。枠番と足を考えれば、4着はそれほど厳しい条件ではないようにも思えていたが、それだけに胸のうちにはさまざまな思いが渦巻くだろう。今夜はもやもやしたものを抱えて過ごすのかもしれない。

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 勝負駆けはなぜ、同県だとか同期だとかの明暗をよく生むのだろうか。山本が予選落ちとなり、18位に滑り込んだのは、同期の湯川浩司である。落ちたのが誰であっても、歓喜をあらわになどしようもないが、しかし同期の落選で自分が予選突破というのは、なかなか複雑な局面である。だから報道陣に囲まれる湯川も、どこか精気がないように見えていた。山本の無念を晴らすのは、湯川に託された。もし湯川が優出を果たしたら、山本はきっと我がことのように喜ぶだろう。そのシーンが出現したら、見逃したくない。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)