BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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戸田クラシック優勝戦 私的回顧 

二度目の開花

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12R優勝戦 並び順

①吉川元浩(兵庫)12
②長田頼宗(東京)19
③馬場貴也(滋賀)17
④白井英治(山口)22
⑥徳増秀樹(静岡)30
⑤桑原 悠(長崎)21

 6号艇の徳増がピットアウトからどんだけ激しく動くか。これがこのレースの最大の焦点と見ていたのだが、待機行動は意外な形で早々に折り合いがついた。桑原がピット離れで躓き、徳増が難なくそれを飛び越えたのだ。深い5コースまで想定していたであろう徳増からすれば、望外の入れ替わり。
 この5コースなら美味しいぞ!
 そう思ったに違いない。ぴったりと白井の隣に貼りついた徳増は、そこではっきりスピードを緩めた。徹底抗戦するつもりだった白井も、ホッとしたように艇を緩める。1~5コースの思惑がぴたり一致して、私が想定したよりはるかに穏やかな123/465という進入形態になった。

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 では、5人の中で誰がもっとも有利になったか、と言えばインコースの吉川だ。強めの風が無軌道に吹きまくる戸田の荒れ水面だけに、深インは非常に危険な障壁だった。が、いざフタを開けてみれば、自慢の行き足が活かしきれる130m起こし! 過不足のないタイミングでレバーを握った吉川は、鮮やかなトップスタートで他艇を置き去りにした。死角のないパワーを考えれば、この時点ですでに圧勝モードだ。

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 が、現実の1マークはそうではなかった。3コースの馬場が見えないところから強烈な全速のツケマイを放ったのだ。それはそれは凄まじい強ツケマイで、一瞬だが吉川の艇がぐらついたように見えた。SGを獲って間もない男の自信のなせる業。相手が並みの選手&パワーなら、そのまま一気に引き波にハメてSG2冠に邁進したことだろう。

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 そしてもうひとり、大外からチルトMAXの伸び足を活かして豪快なまくり差しを繰り出したのが桑原だ。徳増がかなり凹んでいたとはいえ、そのパンチの利いた全速のまくり差しは天晴れの一語。タラレバになるが、もしもスロー勢が深くなった5対1で同じだけのターンができれば一撃で突き抜けていたかも?

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 外に馬場、内から桑原。バック直線で挟撃態勢を築かれた吉川だったが、その後の行き足はアタマひとつ抜けていた。スーーッとふたりを引き離して2マークに向かう。桑原が内から押っつけ、馬場は2発目のツケマイを浴びせようとしたが、2マークを先取りした吉川は一気に5艇身ほども突き放して勝利を不動のものにした。2007年のグランプリ以来、11年3カ月ぶり2度目のSG制覇。おめでとう!

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 吉川の強さについて、今さら多くを語る必要はないだろう。ここ20年ほど、ほとんどすべての期で7・50~8・50という高い勝率をキープし、兵庫支部のエースの座に君臨し続けてきた。これだけの成績でSG1冠はむしろ不思議な現象であり、今日は「SG2冠にもっとも近いレーサーが、やっと壁を乗り越えた」とお伝えしておこう。「グランプリだけの一発屋」という凄いような、どこかやるせないようなニックネームから卒業した吉川が、これから3冠4冠と量産しても、誰ひとりとして驚くファンはいないだろう。

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 さて、極・私的回顧として今節を振り返るとき、やはり私の脳裏に強烈なインパクトを刻んだのが平尾崇典という男だった。どんな素性の悪いモーターでも超の付く伸び型に仕上げ、その伸びを活かして徹底的にまくる男。今節もスリットから覗けば伸びなりに絞めまくり、スタンドのファンを沸かせ続けた。

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 そして、今節も平尾が握って攻めるたびに外の選手が嬉々としてマーク差しをねじ込んだ。今節の平尾は2~4コースに5度入り、その5回とも外隣の選手が勝利をもぎ取っている。1マークの展開に多少の違いはあったものの、すべて平尾が自力で攻めようとしたからこそ絶好の展開が生まれたのだ。モーターパワーが非力になり、枠なり3対3ばかりでインが年々圧倒的に強くなっている近代ボートレース界にあって、こんな「特定の選手を外からマークした選手が節間で5勝」などという現象はミラクルに近い。もっと言うなら、平尾がセンター筋にいるレースだけが昭和(パワー差が激しく、まくりとマーク差しが面白いように決まった時代)の“競艇”にタイムスリップしたような気分にさせてくれる。私も含めて、そんなスリリングな展開を好む舟券オヤジは多いことだろう。
 平尾の次のSGは、5月のオールスターだ。今年の平尾への投票が例年より多かったのは、もちろん偶然ではない。「平尾のアレを見たい!」という欲望願望が、票の中にギッシリ詰め込まれている。私は勝手にそう思っている。オールスターの開催地は、福岡。言わずと知れた、センターまくりの聖地だ。(photos/シギー中尾、text/畠山)