BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――波乱あり

●10R

 出た、井上忠政の5コースまくり! 直線足はずっと評価されてきた。4カド板橋侑我がややヘコんだ隊形となれば、この男は行く! 会見で「スリットが揃ったらまくり差しもできる仕上げにした」と言っていたが、「でもレースになったらまくることしか考えていませんでした」と言って笑ってもいる。そう、これが井上忠政だ!
 出迎えたのは中村魁生、西橋奈未。中村は同支部、西橋は同地区で、出迎えるのは当然だが、二人がやけに喜んでいるのを見て思い出す。119期の同期生だ! 中村と西橋は無念の予選落ち、しかしこれで自分たちの思いを井上に託すことができる。彼らの上気する様子に、井上は力強い表情で「よっしゃっ!」。明らかにもう一丁、気持ちが乗ったようだった。

 一方、1号艇の末永和也はまさかの敗退。井上にまくられて、それでも2番手に残しはしたが、中村日向に追いつかれて、競って、そして先行された。末永自身、想定もしていない展開ではなかったか。レース後は悔しさをあらわにするというより、呆然とした様子で立ち尽くしているのだった。そんな末永に寄り添ったのは佐藤航、前田翔。124期の同期生たちだった。控室に戻る途上、特に誰も口を開く様子はなかったが、うなだれる末永の横で、佐藤も前田も沈痛な表情を浮かべるのだった。
 この大会は、30歳未満のレーサーたちによる大会。つまりは、同世代バトルであり、同期生も多く参戦しているのである。だからこそ、勝利も敗北も、同期の仲間が称え、癒やす。そういう象徴的なシーンだったのかもしれない。

 2着を獲り切った中村日向はとにかく笑顔! 122期生はたくさんいるので、きっとどこかで122期の誰かが称えるシーンはあったはずである(見逃した!)。印象的だったのは、木谷賢太が大喜びしていたこと。満面の笑みで中村の尻をポーンと叩いて祝福。先輩の称賛に中村も深い笑顔を見せていた。足は、特に出足が劣勢気味のようだ。だが、明日は一日時間がたっぷりある。勝負整備を繰り出す可能性もあるだろう。

●11R

 吉田裕平が安堵の笑顔である。なにしろ、すぐ右隣にエース機の飛田江己がいたのである。自身は中堅と証言していたから、当然警戒をしていたはずだ。2コースから握って仕掛けたのは、まさに飛田対策だったのだろう。これが見事に奏功し、きっちり2番手を確保しての優出。格上の捌きであるし、しかし確実にそれができるとは限らないのだから、吉田としても策がハマったことで思わず笑みがこぼれたのであろう。やっぱりここに入ると力は一枚も二枚も上ですね。

 勝った中山翔太は、淡々とした様子。というか、21歳で、デビュー3年ほどの130期生で、同期も参戦しておらず、GⅠ初出場で、そして準優1号艇で、なぜこんなに淡々としていられるの!? アタシが21歳の頃なら絶対にアタフタして、勝ったら勝ったで浮足立っていたはずである。今節最年長の豊田健士郎がモーター架台を運びながら声をかける。中山ははい、はい、はいと丁寧に返事して頭を下げる。こうした振る舞いは初々しく映るのだが、きっちりトップスタートを決めて逃げ切ったレースぶり、そしてその後の粛々とした感じには驚くしかないのである。もしかしたら相当な大物かも!? あるいは、実は緊張していて先輩たちに対して恐縮しているだけかも、という可能性もあるのだが。そうだとしても、この堂々たる逃げ切りは見事と言うほかない。

●12R

 2着で優出を果たした前田滉の陣営が沸いた。2番手に浮上してからというもの、ゴールするまでずっと誰かが拍手を鳴らせていたのだ。凱旋した前田を出迎えると、また拍手。なかでも喜んでいたのは前田篤哉、前田翔。そう、ピットで末弟の優出を祈っていた兄弟たちが、滉以上にテンションを上げて、祝福を送っていたのだ。

 そんな輪の中で、滉は「疲れた~」と言って天を仰ぎ、底抜けの笑顔を見せていた。吉田裕平に称えられると、目元もきゅっと細くなる。何しろ、愛知支部は10人の参戦である。吉田は明日は敵になるが、しかし声援で背中を押してくれる仲間が山ほどいる。最も心許せる身内も2人いるのだ。明日はそんなパワーを背にして戦うことになる。

 勝った新開航は淡々としたもの。もともと感情を露わにするタイプではないので、まあ想定通りではある。そして、ここでは格上の一人と思えば、その様子に貫禄も感じられるわけである。
 会見で新開は、優勝はもちろん大事だが、先につなげることが大事、とも言った。もし優勝すれば、チャレンジカップ出場圏内に入ることができる。チャレンジカップは地元福岡での開催だ。つまり、明日はGⅠ制覇と、地元SG出場を視野に戦うことになるのである。チャレンジカップに出るということは、さらにその先も見据えることになるかも。そのこと自体が、新開にとってはパワーになるはずだ。

 それにしても、地元優出を逃した高橋竜矢の落胆が実にせつなく映った。力ない表情で引き上げていく姿はただただ痛々しい。3着と、あとひとつ足りなかっただけになおさらで、控室へと戻っていく後ろ姿はなんとも心細いものに見えたのだった。今夜は眠れないかもしれない。しかし、地元ヤングダービーはあと一日残っているのだ。實森美祐や宗行治哉とともに、意地を見せる最終日であってほしい。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)