節子、散る。
10R
①岡崎恭裕(福岡)10
②田口節子(岡山)11
③服部幸男(静岡)08
④森高一真(香川)08
⑤瓜生正義(福岡)06
⑥辻 栄蔵(広島)08
スリットほぼ横一線。準優の大舞台で6艇がコンマ10前後、素晴らしい集中力だ。が、これだけ揃えば、内水域が断然有利になる。ダッシュ勢が仕掛ける前に、岡崎が逃げ、田口が差し、服部が握った。
「入ったーーーっ!!」
「田口だっ!」
「節っちゃん??」
記者室のあちこちから奇声が湧く。女子レーサーのSG優出。この甘美な響きを求めるのは、記者たちだけではないだろう。ターンの出口で、田口の舳先が岡崎をわずかに捉えていた。バックの伸び比べ勝負。田口が伸びて舳先が揃えば、2マークが俄然有利になる。逆に岡崎が伸びて舳先を振りほどけば、1着がほぼ約束される。2艇の伸びは、ほぼまったく同じだった。ある意味、もっとも厄介な状況だ。
数十センチの舳先が掛かったまま、2艇はどんどん2マークへ近づく。完全な我慢比べだが、このままの微妙な“連結状態”で2マークに突っ込めば共倒れの大競りになってしまう。岡崎が右に開いて田口の先マイを許すか。田口が舳先を抜いて外へと仕切り直すか……どっちになるかで、レースは大きく変わる。
2マークの手前、先に“降りた”のは田口だった。わずかに減速してスッと艇を外に持ち出す。根比べに勝った岡崎は、落ち着いて艇を開いてから2マークに向かった。1着確定のターン。
準優の争いは、ここからが本番だ。田口が捨てた2マークの内水域に、服部と瓜生が殺到した。それを察知した田口が、握りっぱなしで抱いて交わす。今節の田口は、この足が強烈。瞬く間に3番手の服部を2艇身ほど置き去りにした。このまま追撃を振り切れば、夢のSG初優出。そして、女子レーサーとして3人目のSGファイナリストだ。
が、これは2着が何よりも重いSG準優だった。2周1マーク、外に開いていた服部が動いた。田口の見えない背後からするりと艇を内に翻し、そのままレバーを握ってターンマークに直進した。老獪な切り返し。いつもは正攻法に徹する服部の、渾身の勝負手だ。
前を塞がれた田口は、おそらく一瞬迷った。再び抱いて交わすか、行かせて差すか。わずかに躊躇してから、握り直した。すでに遅かった。内からキッチリ艇を合わせた服部が、田口を跳ね飛ばす勢いでバック突き抜けた。最大の勝負所で経験値の差が出た。
1着・岡崎、2着・服部。
ミラクルワープ
11R
①桐生順平(埼玉)10
②石渡鉄兵(千葉)15
③平石和男(埼玉)17
④江口晃生(群馬)16
⑤新田雄史(三重)16
⑥井口佳典(三重)09
桐生に関しては、「今日も強かった」の一語で足りる。昨日までと同じ、非の打ち所のない強いレースだった。ここで特筆すべきは、2着の新田だろう。1マークの出口で、あっという間に2番手に躍り出た。
「新田クン、なんで君はそんな所に??」
かなりビックリ仰天の2番手だった。スリット直後、私は舟券に絡めている6コースの井口だけを見ていた。井口のスタートは上々で、やや凹み加減の同県の後輩・新田を外からぐいぐい伸びて威圧した。一度だけ、コツンと艇をぶつけてもいた。新田は満員電車の新米サラリーマンのようだった。窮屈そうな後輩を尻目に、井口は握ってぶん回そうとしてサイドが掛からずに万事休した。私の目はそこまで井口を追っかけて、溜め息をついた。
それから力なく1マークの出口に目線を移してみたらば……井口よりもつらい態勢だったはずの新田が、嬉々として2番手を突っ走っていたのだ。あの窮屈な満員電車の中から、どこをどうすればSG優勝戦という大海へと移動できたのか。さっぱりわからないまま、私は悠然と2着に向かう新田を見ていた。
レース後のリプを観て、その“謎のルート”が分かった。凄まじいルートだった。あの内外から挟まれて窮屈な態勢だった新田は、井口にコンと叩かれた直後、それが合図だったかのように猛然とレバーを握った。そして4コースの江口をツケマイで沈めつつ、握りっぱなしで鋭角にターンした。江口が壁になっていて内が見えなかったはずだから、完全な見切り発車ターンだ。その眼前には、差した石渡と握った平石がいた。直進すれば、どちらかにぶつかりそうな位置関係だった。それを新田は、縫うようにして全速のまま突き抜けてしまった。まさに縫うような、スレスレギリギリのタイミング。リプで見てもハラハラするまくり差しなのだから、二次元映像でしか見えない本人はさぞ冷や汗をかいただろう。そして、おそらく新田が2着になるためには、この極めてデンジャラスなルートしかなかったはずだ。ここはSG準優。新田は、イチかバチかの危険なギャンブルに勝ったということか。
いや、違うな。リプを何度か見直して(必見!)、私は合点した。おそらく、新田は自分の優出のためだけでなく、自分と井口(=三重支部ともいえる)のために危険なルートに突き進んだのではないか。
「井口先輩からちょっと凹んだ半端な位置のままでいては、ふたりとも何もできないで犬死にしてしまう。俺が握れば、どっちかが優出できるかも知れない!!」
そう瞬時に判断して、見えない内側の領域に見切り発車で突き進んだ。井口はその新田の決断を知らずに、新田とほぼ同時に握ってしまった。だから、あんなにブッ飛んでしまった。そういうことではなかろうか。まあ、理由はともかくとして、新田は凄まじいルートをくぐり抜けて2番手に進出した。結果的にミラクルターンを決めて、自力で明日のチケットを勝ち取ったのだ。
1着・桐生、2着・新田。
震えぬ逃げ
12R 進入順
①峰 竜太(佐賀)09
②松井 繁(大阪)12
⑤湯川浩司(大阪)07
③篠崎元志(福岡)08
④吉田弘文(岡山)09
⑥秋山直之(群馬)13
ピットアウトがこのレースの大半を決したかもしれない。篠崎・吉田が遅れたのか、湯川が飛び出したのか、一瞬にしてコースが入れ替わった。上記の並びから、峰が逃げ、松井が差し、湯川が握る。この中から優勝戦へと抜け出したのは、峰と湯川だった。松井の差しはなぜかサイドが掛からず、真横に流れる感じで2艇から千切り捨てられた。
1着・峰、2着・湯川。
湯川の足は、昨日あたりから伸びを中心に爆発的に上昇した。持ちペラ時代から他人とはまったく違う感性でペラと向き合ってきた男。今節、その感性とペラが、優勝戦までに合致した。鬼の行き足~伸び。こうなったときの湯川の強さは、今さら語るまでもないだろう。
3コースでこの足。峰には届かなかったが、実に余裕のある2着だった。湯川の外に出てしまった篠崎、吉田は、その瞬間に優出の可能性を激減させた。そう思えるほどのゴキゲンな湯川パワーだった。
峰の逃げは、磐石。このプレッシャーのかかる舞台の1号艇で、岡崎10~桐生10~峰09。この若武者たちには、スタート、ターンともに微塵も震えを感じさせなかった。強くなった。いや、「強い」だけでいい。この3人の強さがどれほどのものか、誰がいちばん強いのか。もちろん、それを伝えるのは直接対決の後にしよう。(photos/シギー中尾、text/畠山)