BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――やまと世代、銀河系軍団、哲人……

f:id:boatrace-g-report:20171206181135j:plain

 装着場の隅、屋外ペラ調整所の脇あたりにJLCのモニターが置かれている。今節はここでレース観戦することが多いのだが、時折、ペラ調整をしていた選手(若手中心)が手を休めて、このモニターを覗き込んでくることもある。これ、なかなか贅沢なレース観戦なのだ。

f:id:boatrace-g-report:20171206181146j:plain

 今朝の1Rでは、篠崎元志が弟の仁志に声援を飛ばしながらモニターに見入っていた。2マークは2番手争いに持ち込んでいた仁志は、内からやって来た2艇を交わしている間に後退。すると岡崎恭裕が「内から来るよ、来るよ……」と念を送り、しかし仁志が選択した航跡を見て、元志と「あそこはこうしたほうが……」とおそらくレース後に仁志にアドバイスとして送るであろう走り方の正解を語り合っていた。僕は、心中でへぇ~~~と感心して聞き入った次第だ。勉強になりました、はい。

 10R、元志がここでもやってきて、モニターを覗き込む。そしてスリットを6艇が超えた瞬間、「よし」と力強くうなずいた。岡崎恭裕が逃げられそうな隊形だったのだ。その予感通りに岡崎は逃げた。篠崎は「次は俺の番」と意を強くしたかもしれない。

f:id:boatrace-g-report:20171206181243j:plain

 盛り上がったのは、田口節子が2番手に差し粘った瞬間だ。ピット全体からどよめきが起こり、僕の後ろからは「せつこぉ~っ!」とおどけたような声があがった。毒島誠と山口剛だった。実は、待機行動中にスタンドから「せつこぉ~っ!」という声援が飛び、それがピットにも思い切り響いており、その話題でも盛り上がっていたのだ。声援に応えてSG優出に王手! その快挙を称えつつ、節子ファンの声が後押ししたのではないかと、僕らは笑い合ったのである。

 しかし……2周1マーク、服部幸男が巧すぎる切り返しで田口のふところに潜り込み、見事に逆転する。その瞬間、ピットにも、モニター前にも溜め息が満ちる。そして、「巧い……」と大先輩のテクニックに感服する呟きも漏れていた。田口さんの後退は残念、しかし服部さんは凄すぎる。若手たちのそんな複雑な思いが、そこには漂っていた。

f:id:boatrace-g-report:20171206181301j:plain

 11R、モニター前には先ほどの主役だった田口があらわれている。“モノノフ”同志のチャーリー池上カメラマンと来週あるらしいイベントの話で盛り上がるためだ。田口が、すでに気持ちを切り替えているようだったので、ほっと一安心。昨年の賞金女王など、最近は節ちゃんのツラそうな顔をたくさん見ていたので、笑顔を見られたのは嬉しいことだったのだ。どうやら、寺田千恵や海野ゆかりらにたくさんの慰めの言葉を受けたらしい。レース直後にも、寺田が慈愛に満ちた笑顔で田口の腰を抱いているのを見かけている。さらに、丸岡正典ら同期にも慰められたとか。銀河系軍団といえば、失敗をボロクソにけなし合うという切磋琢磨集団。しかしさすがに今日の田口には慰めの言葉しかなかったようで、「いい同期を持ちました~」と田口も声を弾ませていた。

 今日の走りで、間違いなくSG優出の力があることは証明できた。きっとまた、同じチャンスは巡ってくるだろう。そのときは、快挙達成の笑顔をぜひ見せてほしいぞ、節ちゃん!

 

 さて、優勝戦は実に興味深いメンバーになったものだ。やまと世代の若武者が内枠を占め、さらに新田雄史が加わって過半数を獲得した。1号艇には、まだ新鋭戦への出走資格がある桐生順平。もっとも登番が若いSGウイナーは今のところ篠崎元志=96期だが(12R後の悔しさを噛み締める表情はカッコ良かった。この悔しさを晴らすのはそう遠いことではないはず!)、それを一気に100期にまで更新してしまう可能性を桐生はぐっと高めている。さらに、新時代の扉を最初にこじ開けてSGに新風を呼び起こしてきた銀河系軍団から湯川浩司が優出。そして、若手の壁として立ちはだかるべく、服部幸男が乗ってきた。服部は今でこそベテランとして若者を迎え撃つ立場だが、今も破られぬ史上最年少SG制覇の記録を打ち立て、新時代の旗手として爆走していた男。そうした服部がこのメンバーに名を連ねていることは、優勝戦を最強にコク深いものにしていると言える。

f:id:boatrace-g-report:20171206181322j:plain

 で、レース後、もっとも爽快な笑顔を見せていたのは、服部なのだった。エンジン吊りの間、原田幸哉や静岡勢に対して終始ニコニコと笑いかけており、後輩の言葉に満足そうにうなずいていた。田口をしりぞけた逆転劇は、まさに会心のターン。2着とはいえ、充実感は生まれてきていただろう。

 

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171206181335j:plain

 逆に、意外なほど笑顔がなかったのは峰だ。湯川のまくりを受け止めての逃げ切りは、お見事な走りだったと思うのだが、「足の裏付けがなかった」という機力への不安が、単に優出に嬉々とする行動や表現を峰にさせなかったのか。だとしたら、峰は間違いなく強くなった、と思う。それは明日をも見据えた心の動きだからだ。会見で「足の裏付けがないのに優勝戦乗れたってことは、選手が成長したってことじゃないですか」と冗談っぽく言って照れ笑いしていたが、僕は峰の言葉はその通りだと思う。

 まあ、初めて5号艇以外での優出が、嬉しくないわけはない。12Rの時点で1着なら2号艇、2着なら4号艇と確定していたわけだが、「5号艇がないから、僕の優出はないかと思いました」と笑っていた。そうしたジョークが出るのだから、高揚感はもちろんあるということである。

f:id:boatrace-g-report:20171206181450j:plain

 湯川も、優出に歓喜を示すというような雰囲気はなかった。まあ、SG4冠の男が今さら準優突破だけで浮かれるはずがない。会見でも実に淡々と、機力などについて質問に答えていた。6号艇であることから、また足自体は「出足抜群でスロー向き」ということから、コースをうかがうくらいの動きは見せるのか、と問われて、「好きなように書いてください。新聞のとおりにやりますわ(笑)」とジョークで返したあたりにひょうきんな笑顔は見えたが、これまで見てきた湯川らしさはそれくらい。そんな湯川もまた魅力的ではある。

f:id:boatrace-g-report:20171206181501j:plain

 新田もまた、それほど強烈な笑顔を見せていたというわけではなかった。師匠の井口佳典が同じ11Rであり、同時に優出を決められていたら、またはレースが違って師匠が出迎えてくれていたりすれば、話は違っただろう。もちろん、優出を喜んでいないというわけではない。

 印象に残ったのは会見での言葉。「(3年前の笹川賞で優出)そのときに比べて、だいぶ余裕をもてるようになった。いっぱい失敗していますのでね」。もはや失敗を恐れることはない、ということである。ならば、明日はまっすぐに思い切った攻撃を繰り出すことができるだろう。ちょっと怖い存在と思えるのだが、どうだろうか。

 

f:id:boatrace-g-report:20171206181514j:plain

 明日、もっとも注目を浴びるのは、もちろん桐生順平である。鮮烈な強さを見せつけるニューヒーローが、SG初制覇に王手をかけた。危なげなく逃げ切った準優、明日も同じことをすれば、栄冠はその手に収まることとなる。

 誰もが、「1号艇のプレッシャー」を想像するだろう。桐生自身、「プレッシャーは感じるタチです」と言って笑みを浮かべていた。だが、その後たまたま出くわした桐生に声をかけると、「今日もぜんぜん緊張はなかったんです。さすがに5分前には緊張感がありましたけどね」と、別に強がるでもなく、そう言ってのけた。ならば、明日も大丈夫か!? とにかく、僕は明日の桐生の様子を注目しよう。「問題は、本人、です」と、あとは自分との戦いに打ち勝つことだけだと表明もしていて、ようするに「SG優勝戦1号艇で普段通りのレースができるかどうか」について本人にも未知数だということだからだ。ただ、話をした感じからは、優勝戦1号艇を手にして浮き足立っているということは、その時点ではまったくなさそうだったことは付け加えておきたい。

 

f:id:boatrace-g-report:20171206181525j:plain

 個人的な話になってしまうかもしれないが、僕がもっとも注目しているのは、岡崎恭裕である。

 結果的に、赤カポックになった、ということも、僕の思いを強く岡崎に引きつける。

 BOATBoy6月号にも書いたが、僕はあのMB記念をやはり忘れられないのだ。そして、あの日の借りを岡崎には返してほしいと切に願う。それを完璧にやってのける瞬間があるとするなら、あの日と同じ、福岡SGで結果を出すことだとも思っている。「地元である福岡でのSGやGⅠを勝つことが夢」と岡崎は言う。あの日は、その思いが空回りしてしまった部分もあるかもしれない。しかし、傷つき、立ち直り、しかし悔恨も味わい、そしてこうして福岡SGの優勝戦に戻ってきた岡崎なら、さらに強くなった岡崎を表現できるはずだろう。

 勝負は時の運。だから、最終的に結果がどうなるかはわからない。だが、明日は岡崎の渾身の戦いを魅せてもらうとしよう。準優後、岡崎は「僕のこと、カッコよく書いてくださいよ!」と声をかけてきている。もちろん、そのつもりだ。というより、明日の岡崎の走りをそのまま書くことが、それを現実化することになるのだと、僕は信じている。(PHOTO/中尾茂幸=湯川、新田 池上一摩 TEXT/黒須田)