BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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トライアル第3戦 私的回顧

覚悟のツケマイ

 

'11R

①毒島 誠(群馬)06

②瓜生正義(東京)09

③田村隆信(徳島)12

④齊藤 仁(福岡)13

⑤井口佳典(三重)14

⑥新田雄史(三重)13'

 

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「タムラァァ、討ち取れーー!!」

 2マーク側のスタンドに、若者の声が響く。ちょっと違和感のあるセリフだと思い、すぐに気づく。討ち取れ、ではなく、内獲れ。スタート展示で、田村がインを奪った。本番でも、そうしろ。若者だけでなく、スタンドの多くの人々が、「タムラァ」「タカノブーーッ」と連呼していた。激しい進入争いは人間を興奮させる。もちろん、私も興奮していた。

 

 

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 ピットアウト。田村が攻めていったが、毒島はゆっくりと小回り防止ブイを回っている。獲りきれる!? 思ったが、瓜生がその進路を敢然と阻止した。速度を緩める田村。

「ウリューー、入れてやれやーー!」

 若者が叫んだ。毒島がゆっくり追い付いて、穏やかな123/456。スタート展示の存在が忌まわしい。また今日もそう思い、それから気を取り直す。3コースからでも、1着勝負の田村なら勝てる。そう言い聞かせて、やはり無理か、とも思う。今節、ここまで58レースがあって、3コースはただの一度も勝っていない。3号艇は2勝しているが、どちらも2コースに潜り込んでの勝利だ。鬼門の3コース。さすがの田村でも、無理か。

 

 

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 だが、田村は59レース目にミラクルを起こした。劣勢の態勢から、渾身の強ツケマイ。必死に耐える毒島を、ギリギリ引き波にハメた。もちろん、高い技術とスピードがあってのことだが、私の目には田村の気迫が1艇身ほど前に押し出したように見えた。それほど、今節の田村のレースぶりには心が反映されている。その心を決意や気合と言い換えてもいいが、覚悟という言葉がいちばんしっくりくる。今節の田村は、覚悟がカポックをまとって走っている。そう思う。どんな覚悟かは、わからないけれど。

 

 

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 田村が抜け出し、毒島も2番手を確保した。だがしかしもちろん、トライアルは終わらない。3着条件の井口が齊藤と激しくやり合い、そこに4着条件の瓜生が突進気味に襲い掛かる。瓜生の突進、レアな光景だ。

「ウリューー、このままだとアウトだぞーー!!」

 誰かが叫んだ。だが、5番手から前に進まない。逆に、新田に抜かれてしまう。まさかの、瓜生脱落。その前方では、まだ井口と齊藤の競り合いが続いている。やっとの思いで、井口が齊藤を振り切った。3着で21点。最低限のラインには到達した。が、40分後に井口はこの得点ではわずかに足りなかったことを、目の前で知らされる。

 

 

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 昨日までと同様、凄絶なサバイバルレースだった。そして、昨日までにはない感情が生まれる。トライアルレースは、残酷だ。しみじみ思う。

「タムラァーーーようやった!!」

「イグチーーーありがとーー!!」

 帰還したふたりの銀河戦士に、やんやの喝采が飛んだ。私も、40分後の明暗をまだ知らずに、ただひたすら拍手を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

王者、散る。

 

'12R 進入順

①湯川浩司(大阪)10

②中島孝平(福井)12

③篠崎元志(福岡)09

⑤松井 繁(大阪)19

⑥太田和美(奈良)33

④池田浩二(愛知)41'

 

 

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 11Rで田村を見つめたように、私の目は2着条件の王者・松井ばかり追っていた。覚悟というなら、王者のそれが田村に劣るわけもない。この舞台のためだけに、松井は1年間走り続けてきた。今日ののべ6本のスタート練習で、松井は最初の3本をダッシュの5コースで消化した。4本目、そろりと内に潜り込んだ。5本目、ガツンと内を獲りに行った。そして6本目、松井はいち早くインコースに陣取り、それから徐々に舳先を外に向けた。起こしは、70mに近かった。

 

 

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 どんな状況になろうと、覚悟はできている。

 他の5人に、そう宣言しているように見えた。そして、本番はスローの4コース。この光景は、今年になって何度も見ている。外枠から回り込んで、スローの4コースを奪う松井。それが5コースだったりもするのだが、今年の松井はこの半端なスローのコースから、ほぼすべてまくりに行っている。そして、何度も一撃まくりを決めている。なぜ、今年はこの「前付けスローまくり戦法」を多様するのか。これは私の妄想だが、「賞金王で外枠を引いたときの予行演習」なのだ、きっと。

 きたな、あの戦法を生かす時が。

 私は、松井の2着以内を確信し、ほくそ笑んだ。この時のために、何度も“リハーサル”を繰り返してきたのだ。本番で失敗する松井ではない。

 

 

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 12秒針が回る。私は息を飲む。突出するはずの松井の舳先が、凹んでいた。まくるどころの隊形ではない。1マーク、完全に後手を踏んだ松井は4番手あたりか。松井は懸命に追い上げた。必死の形相が目に浮かぶような追い上げだった。が、届かない。2周2マーク、差しを狙う松井の前で湯川が振り込み、それで完全に松井は千切れた。松井の2013年が、ここで終わった。誰よりも強いであろう覚悟を、結実できなかった。

 

 

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 私の目も松井と決別して、前を向く。湯川と元志が凄まじいデッドヒートをやらかしていた。昨日、田村と艇をぶつけ合った元志。相手が湯川だろうと、その闘志に変わりはない。ガンガン艇をぶつけて、先輩を攻め潰そうとしている。その姿は、覚悟というより意志、か。すべての邪魔者を斬り捨てて、ひたすら前に進もうする若武者。覚悟とは別物の強さが、その意志の中に潜んでいる。

 

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 最終ターンマーク、湯川を(同時に11Rの井口をも)斬り捨てて、元志はファイナルへと続くゴールを通過した。松井の覚悟が届かなかったゴールを。明日も、若いひたむきな意志の力で、何人の先輩を斬り捨てられるか。田村の覚悟をも、斬り裂けるだろうか。(photos/チャーリー池上、text/畠山)