BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――勝者も敗者も

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 33対15。順位決定戦組のSGタイトル数と優勝戦組のSGタイトル数だ。順位決定戦組が優勝戦組にダブルスコアをつけている。銘柄中の銘柄がいかにトライアルで苦戦をしたか。この数字がはっきり物語っていると言えるだろう。

 瓜生正義がトライアルで敗れ去ったのには驚いた。なにしろ、4着条件だったのだ。瓜生にしてみればそれほど難しいとは思えないし、枠を考えればなおさら。それがまさかの6着に敗れてしまうのだから、トライアルは苛酷だ。敗者・瓜生の背中を眺めることになったのは、実に衝撃的だった。

 

 

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 井口佳典にしても同様。想定ボーダーといわれる21点には届いたのだ。もうひとつ着順を上げておけば、毒島誠と立場を逆転させていたのだが、そうでなくとも例年なら届いておかしくない数字だ(ちなみに賞金女王は19点がボーダーだった)。それが、上位着順の差で次点に甘んじなければならなかったのだから、やはり苛酷。愛弟子の優出も、その時点ではとても喜ぶ気にはなれなかっただろう。

 それにしても、瓜生の自然体のたたずまいはどこに源泉があるのだろう。12Rの発走を、ピットで震えながら待っていると、ボートリフトのあたりで観戦しようと瓜生があらわれている。「そこ、寒いでしょ。もっと風の当たらないところ、ありますよ」。ほんの数十分前に悔しすぎる敗戦を喫した選手とは思えない柔らかな物腰で、こちらに気を配ってくれるのである。実際は胸中にもやもやしたものがあろうとも、それを表に出すことなく、他者とは柔らかく接する。これは間違いなく、瓜生正義という男の器量である。

 

 

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 もう一人、やはり松井繁にも触れておくべきか。2着条件で5号艇という簡単な勝負駆けではなかったが、それでも王者が敗れるというのは衝撃的である。レース中、ピットには篠崎元志を応援する九州の若手たちの声が響き渡っていたが、それだけに松井が後方を走っているというのは、あまりに対照的で、悲しい光景だった。

 レース後の松井は、一歩一歩、悔しさを噛み締めて踏みつけるように、ゆっくりゆっくりと控室に戻った。顔には悔しさが貼りついている。いや、この男に「悔しさ」という表現をするのは軽すぎるだろうか。松井の周囲には選手の姿はない。松井はただ一人、敗戦という事実と向き合いながら、控室への長い道のりを歩いていったのである。これもまた、王者の姿であろう。最高の悔恨を誰かと分け合って紛らそうというのではなく、自分ひとりで受け止める。やはり、松井繁には絶対王者という尊称がふさわしい。

 

 

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 優勝戦に進んだ6人も、決して喜びをあらわにしたというわけではない。たとえば毒島誠は、1号艇で敗れてしまったのだ。レース後は露骨に険しい表情を浮かべていたし、会見でも開口一番「今のレースはとっても悔しいです」と、優出の感想ではなく、レースの反省を述べているのだ。毒島は実に当たりのやわらかな、礼節わきまえる好青年なのだが、レーサーとしての鬼のハートも共有させている。それが敗戦で表出したわけであり、明日も初の1億円バトルに怯むことなくレーサー魂に点火させるのだろう。

 

 

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 池田浩二もまた、不機嫌だった。これで前検から4日連続で会見に臨んでいるわけだが、昨日までの3日間と今日はまるで雰囲気が違った。言葉数もめっきり減少した。連勝した初戦、2戦目と、5着大敗の今日では心境が違って当たり前だが、その姿は優勝戦1号艇で1億円に王手をかけた者とは思えないほどだった。この思いを噛み締めながら、池田は明日、最高峰に返り咲くべくピットインする。今日の敗戦は、かえって池田の心に火をつけたのではないかという気がした次第である。

 

 

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 新田雄史も、大別すれば毒島や池田に近いか。池田同様に5着大敗。新田もまた4日連続での会見登場だが、毎日毎日、違った表情を見せたのだなあ。よく考えてみれば、5着に敗れたあとに会見にあらわれるってことは、賞金王以外にはありえないわけで、こうした敗者の思いが語られるというのもまた、賞金王らしさなのか。もっとも、新田は次第に平静を取り戻した感じもあって、わりと淡々とした語り口も聞かれている。あ、コースは「外にでることはないと思う」だそうです。明日は新田らしい戦いが見られることだろう。

 

 

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 さて、明日のカギを握るのは、言うまでもなく、田村隆信である。

 篠崎元志は、共同会見の場に、優勝戦のメンバーをよく把握せずに臨んでいる。自分が5号艇ということは理解していたようだが、6号艇が誰かを知らなかったようだ。だから、「初日から納得のレベル」という足色や、「今日は悔いの残るレースをしたくなかったので、スタートも頑張った」というレース回顧については、淡々と丁寧に語っている。問題は、コースを聞かれたときだ。最初は「こういう大舞台で前付け行くレースはしてないので……」というコメントだったのだが、そこで6号艇が田村だと聞かされると、思わず「アララ!」と叫んで、笑いを誘っている。

 そこからのコメントは、実に歯切れが悪くなった。「田村さんは動くと思うけど、一発勝負なので……変なことはしない……一緒に動きますとも言えない……わからないです」。急に6号艇が誰かを知って、すぐには考えがまとまらなかったのだ。

 

 

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 田村の会見は、その後に行なわれている。田村はコースについて、こう言った。

「100mより後ろでは起こしません」

 堂々たる前付け宣言である! ただし、他の5艇の抵抗にあうことも理解はしていて、コースについては具体的にはわからないと言った。それでも!

「枠なりはないと思います。スタート練習も、スタート展示も、本番も、全部100から行きます。あるとしたら100より前(100より深い位置)。小細工するような進入はしません」

 鳥肌が立った。痺れた! 明日は田村の男気を見せてもらおう。どんな並びになったとしても、間違いなく水面にはスペクタクルが巻き起こる。これぞ賞金王決定戦という戦いが見られる!

 

 

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 で、実は田村の会見を、中島孝平は聞いていた。篠崎の会見の終盤に二人してあらわれ、先に田村がマイクをとったのだ。中島は会見場の隅で待機しているかたちで、田村のその宣言を耳にしたわけだ。

 中島の言葉も力強かった!

「2コースは主張します。80mになっても、2コースは譲りません」

 これにも痺れた! 明日の優勝戦、名勝負間違いなし!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)