BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――強い思い!

 

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 それぞれに強い思いを抱いて臨んだ選手が優勝戦に駒を進めた、という印象だ。

 いや、優出を果たせなかった選手たちだって、もちろん強い思いはあった。SG初出場にして初準優だった山田康二は、本気でSG初出場にして初優出を狙っていただろう。レース後に篠崎元志に声をかけられると、「ダメだったぁ~」と天を仰いでいる。溜め息も出た。単にSG準優を経験してそれで良し、とは少しも思っていない。3着だから上出来ともまるで考えていない。優出を強く求めたからこその溜め息。たしかに強い思いはそこに宿っていた。

 転覆した森高一真も同様。田村隆信に「大丈夫か?」と声をかけられると、大きく大きく笑って見せたが、それは苦笑いでもあった。大きな苦笑いって、何だよ。つまりは悔しいのである。田村と別れると一瞬にして、しかめ面になった。その後にもさまざまな選手に「大丈夫か?」と聞かれていたが、そこから先は仏頂面のまま応えるのが精一杯。やはりそこに強い思いを感じずにはいられない。

 まあ、だとするなら準優組全員が(52人全員が?)強い思いを抱いていることになってしまうわけだが(それが当たり前なのがSGでもあるが)、優出メンバーが見せたものはそれぞれに胸に迫るものだった。

 

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 目が引きつけられて仕方なかったのは、池田浩二の表情である。敗戦後に、ここまで露骨に悔しそうな表情を見せたことがあっただろうか。菊地孝平にレース後の挨拶を受けると、まったく心ここにあらずの返し方をしていたので、まずそこで目が留まった。ヘルメットを脱ぐと、あらわになったのは激しく歪んだ顔。息も荒く、憤怒の雰囲気がビンビンと伝わってくる。記憶をひっくり返しても、ここまでの激しさを池田から感じたことはない。それは、池田には悪いが、実に魅力的な池田浩二なのであった。

 常滑SG。もうそれ以上は書くまい。池田も具体的にそれを口にしてはいない。ただ、その4文字に、強烈な思い入れがないわけがない。池田が発散している強い思いは、明らかに「常滑SG」である。

 

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 池田と同様、というか、タイプは違うがクールにふるまう平尾崇典の、この言葉には気持ちがぐっと引っ張られた。

「僕が差し切れば、カヤが1号艇だと思ったんですが……」

 もし本当に差し切っていれば、平尾は2号艇だった。後輩と内枠を占めて、真っ向勝負になっている。しかし、一緒に優勝戦に乗るのであれば、後輩にチャンスが増えることを望む。自分が後輩より内枠にはならないとわかっているからこそ、それを意識していたわけである。そうか、ここで平尾が差し切って、11Rで吉田拡郎がまくり切っていたら、メモリアルばりの「岡山内枠独占」になっていたわけか。まあ、そうそううまくはいかないものだ。

 強い思いというわけではないが、トークが意外と軽妙でもあるんです、平尾は。

「スタートはコンマ06ですか。よかった。正直、06を狙っていきました」

 そんなわけない(笑)。狙うなら05でしょう。というわけで、会見場に笑いが起こる。

「明日は6号艇なので、(5号艇の)井口くん、よろしくお願いしますって感じです」

 まあ、コース動くつもりはないってことはわかりました(笑)。SG初優勝となった12年の児島チャレカは、感動的な部分も大きかったわけだが(黒明良光さんが号泣してたし)、もし明日勝ったらこのトークが全開になるんだろうな、と思った。そうなったら、この稿は一字一句、起こして終わらせましょうか。そんな気分にもなった。

 

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 平尾の後輩とは、茅原悠紀である。彼は今年5月、平和島周年の優勝戦でF。GⅠ戦線から遠ざかることとなっている。そうしたなかで、チャレンジカップ出場は目前。優出で大きく前進したと言えるだろう。だが、茅原はそんなことはどうでもいいとばかりに言った。

「ダービーを獲りたい気持ちが強いんです。今節は今年のまとめとしてペラを叩いてきました。明日はその総決算として仕上げたい」

 今年一番の気合、とも言った。ここを勝てば、チャレカは、さらにグランプリもついてくるのである。優出●着なら当確、とかいうことは本当にどうでもいいのだ。純粋に勝利を欲して、全力を尽くす。そこにも思いの強さははっきりと根付いている。

 

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 で、井口佳典は、会見の最後でハッキリとこう口にしている。

「賞金ランク6位に絶対に入りたいという意識があります」

 あえて説明するが、グランプリ(賞金王決定戦)が今年から18名出場となり、トライアルは2層制となった。7~18位がトライアル1stを戦い、それを勝ち抜いた6名と賞金ランク1~6位の6名、計12名でトライアル2ndを戦う。「6位以内」に大きな意味があることは明白であるし、井口はそれを狙っていることを衒いなく公言したわけである。これまで何人かの選手に、今年の賞金王新システムの件について聞いた。「6位以内を狙う」と言い切ったのを聞いたのは、これが初めてだ。ビッグマウスの本領発揮である。そして、それが井口の強さの源泉だと思っている。

 さらに井口はこう言った。

「6位と言わず、1位を目指して頑張ります」

 その意味を、簡単に一言で言うなら、優勝宣言、である。

 

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 菊地孝平の思いの強さは、オールスター(笹川賞)、グラチャンですでに我々は目撃している。ようするに「己を信じて、決してブレない」である。この境地に辿り着いたことが、現在賞金ランク1位の原動力だ。明日ももちろん、それを貫く。

 その境地は、集中力も生みだす。池田浩二を鮮やかに差し切ったレース後の菊地は、爽やかな笑顔を見せていた。心安い池田が相手ということもあって、遠慮なく笑顔を向けてもいる。もっとも今日の池田は強烈に悔しがってみせたわけだが。

 12Rが終わって、菊地、池田、井口が共同作業をする場面があった。5日目はボート洗浄の日。レース終了後には洗剤でボートのヘリや底を洗うのである。東海地区の3人は、先輩のボートをともに洗浄していた。すでに時間が経っており、池田の機嫌はやや回復。菊地、井口に軽口を飛ばしていた。いつもの池田浩二だ。井口はニコニコと笑っていた。ところが、菊地はそれがまったく耳に入っていないようだったのだ。つまり、真顔のまま会話の輪に入っていないのである。もう一度書く。池田は「菊地と」井口に軽口を飛ばしていたのだ。これぞ菊地モード! 年間SG2Vではまったく満足していない男の、強い思いがそこにはたしかに見えた。

 

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 仲口博崇がどんな思いで明日の戦いに臨むかは、もう書くまでもないだろう。おそらく畠山も熱く記していると思う。レース直後の第一感は「大丈夫」。12Rを逃げ切り、優勝戦1号艇を確定させた表情は、ただただ凛々しかった。

 でも、いろいろ深読みもしてしまいますね。率直に受け取れば、次の言葉も「大丈夫」と思わせるものだと思う。

「3日目くらいからトップを狙える位置にいて、昨日トップになって、今日……リラックスできるわけがないです。無理です(笑)」

 おそらく、かつての仲口はそれを口にできなかったと思うのだ。プレッシャーに打ち震えるであろう(すでに打ち震えている)自分を真っ向から認めること。簡単なことではないし、それができているようである仲口はきっと「大丈夫」だと思う。でも、それって本音だろうか、とも裏読みしてしまうんですよね。42歳ともなれば(仲口が42ってのが信じられないけど)、それをあえて口にする手管は身に着けられる。苦汁を舐めつづけた男であればなおさらだ。そう考えてしまうと……。

 ただ、この言葉に僕はやはり「大丈夫」の意を強くしたい。

「明日なかったら、もうないと思います」

 ラストチャンスと覚悟を決めたのだ。それがさらに重圧となる可能性もあるけれども、そう言い切った仲口は、かつての仲口ではない! そう信じて、明日の仲口博崇を見守りたいと思う。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)